第12話 風紀委員の鷹宮さんは、品行方正を崩さない④
結局、この日の放課後も、僕たちは各々の作業をして解散となった。
といっても、
「不毛な時間って、何言ってるんですか、先輩。先輩はアタシのような学校の美少女と放課後過ごせるだけでもラッキーなんですから」
また、例の相手の考えていることが分かる能力を利用して、三枝が僕にそんなことを言ってきた。
ただ、今日は色々とあったせいで、上手く突っ込みができなかったからなのか、別れる最後には、いつもよりからかい度数は薄かった気がする。
そんな感じで、今日1日どっと疲れた身体を引きずって、我が家がある築20年のマンションへと到着する。
「ただいま、っと」
そして、玄関の鍵を開けたところで、美味しそうな匂いが僕の鼻腔をくすぐった。
同時にお腹が鳴ってしまいそうになったところで、僕はリビングへ続く扉を開けると、
「あっ、おかえりお兄ちゃん」
キッチンには、エプロン姿で晩御飯を作っている妹がいた。
妹の名前は、
僕とは1つしか離れていない、今年で中学3年生になる妹だ。
しかし、そんな妹は僕と違ってかなりのしっかり者で、共働きで帰りが遅くなる両親の代わりに家事を担当してくれている。
それに加えて、成績も優秀だというのだから、兄として誇らしい反面、見習わなくてはいけないところがありすぎて困る。
そして、半袖のTシャツに紺色の半ズボンというラフな格好で調理をする綾は、そのまま僕に話しかけてくる。
「お兄ちゃん、もうすぐご飯できるから、お風呂は後にしてもらってもいい?」
「わかった、そうするよ。ちなみに、今日の晩御飯って生姜焼き?」
「正解。お肉が安かったんだよね」
鼻歌を歌いながら、お皿に盛り付けをしていく綾。
こんなにもタイミング良く料理が完成したということは、僕が帰って来るタイミングを見計らっていたのだろう。
その証拠に、すでに食卓のテーブルには色合い豊かなサラダが置かれていた。
そして、僕は手を洗って、制服から部屋着に着替えて戻って来ると、もうお米やみそ汁もちゃんと食卓に並べられていた。
「じゃ、食べよっか、お兄ちゃん」
結局、いつも通り妹に任せきりになってしまった食卓を囲み、僕たち二人は夕食を共にした。
「うん、やっぱり綾が作る生姜焼きは美味しいな」
「そりゃあ、お兄ちゃんの好物ですからね。気合を入れて作りましたとも」
どこか芝居めいた口調で話しつつも、綾はまんざらでもなさそうに笑みを浮かべる。
だけど、僕はお世辞を言っているのではなく、綾が作ってくれる料理はいつも美味しい。
その証拠に、今日も僕の箸は休むことなく、おかずを口に運んでいく。
「良かった。お兄ちゃん、今日は元気そうだね」
しかし、何気なく放たれた妹の一言で、僕の動きが止まってしまう。
「だってお兄ちゃん、昨日はちょっと元気なかったでしょ?」
どうやら、僕に色々とあったとこに、綾は気付いていたらしい。
「だから、今日はお兄ちゃんが好きな料理にしてみたんだけど、心配なかったみたいだね」
そう笑った綾の顔は、世話のかかる兄への呆れと、どこか安心したような笑みを浮かべていた。
「ありがとう、綾。けど、綾のご飯のおかげで、もっと元気が出た気がする」
「そうでしょ? わかればよろしい」
ふふん、と胸を張る妹の姿をみて、僕は微笑ましく思う。
こうして、兄妹で仲睦ましく夕食を摂った後、綾には先にお風呂に入ってもらって、僕は食器の後片付けをする。
料理を任せている分、基本的に後片付けは僕が担当することになっている。
そして、全部の食器を洗い終わって、何気なくスマホを取り出して画面を見ると、三枝からのメッセージが届いてあった。
『せんぱーい。明日はお弁当持ってこないでくださいね~』
……お弁当?
おそらく、学校のお昼ご飯のことを言っているのだと思うが、何故、急にそんな指示を僕に出すのだろうか?
僕はすぐに『なんで?』と簡潔にメッセージを送り返すと、
『それは、明日の、お・た・の・し・み♪』
という返事があるだけだった。
どうやら、理由は教えてもらえないらしい。
「お兄ちゃ~ん、お風呂、上がったよ」
すると、バスタオルで髪を拭きながら、パジャマ姿となった綾がお風呂から戻ってきた。
「綾、ごめん。明日、お弁当いいや」
いつも僕の昼食は綾が作ってくれているので、三枝の指示に従って、お弁当はいらないと綾に伝えたのだが、
「えっ、なんで?」
当然、そのような質問が返ってくる。
「え、えっと……」
しかし、そのときの僕は自分で答えを用意してなかったので、少し言葉に詰まってしまう。
「い、いや……明日は友達と学食に行こうって話になってて……」
とっさにそう伝えると、しばらく綾はじぃーと僕を見つめていたのだが、
「……ふーん、そう。わかった」
それだけ言うと、冷凍庫からアイスを取り出して、そのままスマホを触り始めた。
別に、悪いことはしていないはずだけど、綾に嘘をついてしまったという罪悪感が芽生えて来て、僕はそのまま逃げるようにお風呂場へと向かった。
そして、湯船に浸かりながら、僕は三枝からのメッセージの意味を考えるが、やっぱりその理由に検討がつかない。
だが、明日のお昼休みを迎えると、僕はようやく、三枝が何をしようとしているのか、知ることになるのだった。
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