第9話 再会

 後ろから追ってきた黒服が矢を放った後、そのままこちらに向かって来ていた。それに瞬時に反応したアギトとニケは、通路内から出てメルのいる方へ向かった。

アギトはメルを抱きしめ背中を敵に向け、ニケは拾っておいた剣で敵に向かう。


「はああああああ!!」


「死ねえええ!ガキがあああ!」


 黒服によって思い切り振り下ろされた剣はニケの持つ剣を一撃ではじき飛ばした。


「うぐっ!!」


 ニケは今までほとんど使ったことがない本物の剣にもかかわらず、思い切り受け止めてしまった為、手が痺れてしまっていた。すでに黒服は二撃目の攻撃をニケに向かって行おうとしている。


 アギトは持っていた剣を抜き、黒服に立ち向かった。


「うわああああ!!」


 黒服は向かってきたアギトに向かって、構えていた二撃目を繰り出す。


「邪魔だ!どけええ!」


「バキイイイン!!」


 アギトはあっという間に剣と一緒に弾き飛ばされてしまい、黒服はニケにとどめの攻撃をしようとした。ニケは死を覚悟し目を瞑る。


「もうダメだ!!!」


 次の瞬間、ニケは周りの音が一切しない事に気付く。恐る恐る目を開けたニケの視界は一瞬にして違う場所を映していた。ニケが周りを見回すと何者かがニケの耳元で囁いてきた。


「生きて。」


――え? 誰? 


「あなたは愛されている。」


 ニケには何がどうなっているのかさっぱりわからず、ニケはそこに居る何者かに問いかけるしかなかった。


――貴方はだれ?


 確かにそこに存在する何者かは、そっとニケに向かって笑いかけた。

 ニケがもう一度瞬きをした後、目の前に小さな光が現れた。その光源は段々と光りだし、光の線がそこに集められ、光は銀色の鉄のような塊になっていった。


「これは貴方の力。これは常に貴方と共に。」


――どっ、どういうこと?それだけじゃ何もわからないよ!!


 そこにいる者は何かを口に出して言おうとしてるが、ニケには聞き取れない。そうこうしている内に、ニケの視界は眩しいくらいの光によって遮られ、途端に現実に戻された。


「死ねえええ!」


 黒服の剣が振り下ろされた瞬間、ニケの右斜め前にこの世界とは異なる空間のようなものが鮮明に現れ、前にニケを助けた腕のようなものがそこから現れた。その右腕は二本の指の間で黒服の剣をすんなり止めてしまい、そのまま止めた剣を敵ごと引き寄せた。すると、さらにすぐ近くから左腕が現れ、その腕にある全部で四本の指先は銀色の剣となり、敵を貫いた。


「ぐうああああ!!」


 その光景に驚くニケだったが、現れた腕は何のためらいもなく指先を動かし、銀色の剣で黒服の身体を切り裂いた。


「ドサッ!ビシャッ!バシャーッ!」


「あ、……。あっ、……。」


 ニケ、メル、アギトは、黒服の肉片が落ちるところを、ただ呆然と見る事しか出来なかった。


「君は、いったい何者なんだ?」


 三人を助けようと戻ってきたイグニスは、奇妙なものを見たという顔をしてそこに立っており、ニケに質問を投げかけた。


「あんな見た目の奇跡は、見たことがないぞ。」


「ぼっ…僕にも何がなんだか……。」


「奇跡とはそのものに対して、何も関わりがないものは生まれない……。君には何かしらの接点があるはずだ……。それがなにかはわからぬが……。」


「すっ!すっげええええ!!なんだよ今の!!ずるいぞ!!俺だってそんな奇跡欲しい!!」


 興奮しているアギトの横から、イグニスがニケに助言を送る。


「何にせよ、希少な力は争いを呼ぶ。他の者に言い回るのはやめておけ。人気者は辛いぞ。」


「はっはい……。さっきのアレは……。僕の…力…なのか……。」


 ニケは手放しに喜ぶ事が出来なかった。アレには何か、特別な思いが込められている気がしたからだ。


 皆で移動すること1時間半。一行は城の中を、隠し通路を駆使して下っていった。気付くと城下町の裏側にある、水門の出口にたどり着いた。

そこにはすでに、王妃のいるレクサス隊が待機しており、外の様子を伺いながら準備をしていた。


「おお!王妃様!ご無事で!!」


 王妃を見つけたイグニスは、足早に駆け寄る。


「あなたもご無事で何よりです!! なっ!! サッ!サーガはどうかしたのですか!?」


 イグニスが抱えているナインに気づいた王妃は、イグニスに詳細を尋ねる。


「大丈夫です。気絶をされているだけです。」


「はあ……。よかった……。」


 王妃は手を胸に当て、心から安堵していた。


「どうした?レクサス。」


 水門出口で見張るレクサスに、イグニスが声をかける。


「んーまあね……。ちょっとマズいことになってるんだよね。」


 レクサスは、親指で水門の出口の遥か先に目線を送るよう合図をする。その先には、たいまつの灯りが地平線一帯に広がっていた。


「んっ…うぅ……。」


 ナインは目を覚まし、目の前に王妃がいることに気づいた。


「お母様っ!!」


「ああ!サーガ!よかった!!」


 再会に喜ぶ親子は、互いの体を引き寄せるように抱きしめた。親子の感動とは裏腹に、厳しい顔をするイグニスとレクサスは、互いの顔を見合わせ決意を固めようとしていた。


「お母様!!お父様が!!お父様が!……。敵に……おとぅ……うぅ……。」


 ナインは大量の涙を、母マーレの胸の中で流していた。静けさ漂う水路に、ナインの泣き声だけが響き渡った。


 王妃マーレはナインの言葉を聞いて、一つの事象を理解した。


「っ!!……。そうですか……。アーガイルは……父は何と言っていましたか?」


 ナインの肩を抱きしめる王妃マーレの手に、おのずと力が入る。


「一人ではないと……。皆を信じろと……。」


「……あの人らしいわね……。そうです。あなたは一人じゃない。私達は前を向かねばなりません……。」


「はいっ……。」


 悲しみと向き合おうとする二人に、イグニスが作戦を伝える。


「王妃様、姫様。この城は敵の手に落ちました。これから敵軍を突破し、一度身を潜めて頂きます!」


「私達は、今まで住んでいた場所を……ここにある様々な思い出を……失なってしまうのでしょうか?」


 寂しさを感じながら下を向くナインに、イグニスが決意を固める。


「はい……。しかし!!いずれ必ず、取り戻してみせます。何があろうと!!この我らの地を、我らの下に!!」


 夜中の二時頃。夜が最も深くなり始める時間、イグニスによる演説が行われた。

真ん中に立つのは、王妃マーレと姫のサーガ。その横にいるイグニスが外に声が漏れないようなトーンで話を始める。


「皆!聞いてくれ!ここより北東に、馬車と馬を待機させている場所がある。私達はそこへ向かう。しかし、ここを出て約二キロ程の場所には、敵の軍勢が多勢いる。恐らく、多くのものがここで力尽きるだろう。」


 静けさが支配する水路では、そこに居る者達の唾を飲み込む音や、息遣いだけが大きく聴こえる。


「しかし!ここにいる王妃と姫様だけは、何としてでも守りきるのだ!!」


 そこにいる兵士たちは、皆同じ思いでイグニスの言葉に耳を傾けていた。


「本日の強襲で、エルミナス王国の歴史に一度ピリオドが打たれた!しかし!王妃と姫さまの御二方がいらっしゃれば、この国は終わらない!!いつか必ず再興の時は来る!!それまで戦え!!誇りに従え!!生にしがみつけ!!そして皆でここに戻って来るのだ!!」


「はっ!!」


 エルミナス兵達の気持ちが、一つになった瞬間であった。


 一方、エルミナス王国の周辺では、敵軍の兵士達が川のほとりで話にふけっていた。


「ったくよー!なんでこんな時間に俺たちが出ていかなきゃいけないんだ!!」


「まったくだぜ!!」


 黒服達は奇跡を持たない兵士達に、周辺の見回りをさせていた。


「隈なく探せえええ!奴らの痕跡!城への抜け道!奴らの情報!なんでもいい!!手当たり次第探せ!!なんの価値もないお前らの身体を使い倒せ!!」


「ふんっ!!まともな奇跡を持たないものが!!役立たずのくせに頭も悪いのか!」


 黒服達は一般兵を自分達より下に見ており、こき使うことに何の躊躇もなかった。


「んお?!何だこれ?」


 人一人がやっとの思いで通れるくらいの岩が積まれている場所を、兵士が発見した。見た目はまるで遺跡のようだったが、内外の両側から向こう側を観れるような形になっていた。


「こっ!これはっ!!」


 その兵士が近くの者に声をかけようと、後ろを振り向いた瞬間、その中から大きな叫び声が聞こえた。


「顕現せよ!!!」


 イグニスの掛け声と共に、石で積まれた空洞から、炎に包まれた火球の攻撃が繰り出された。多くの岩や土砂が、炎に包まれながら遥か上空を舞う。その下からは、炎を纏ったベヒモスの大きな巨体が、勢いよく姿を現わした。


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読んでいただきありがとうございます。


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