俺様ルールカースト⑪




あまりのことに誰も何も口にすることができなかった。 まるで何かの映画のワンシーンのように秋律が地面に叩き付けられ鈍い音が広がった。

しばらくの静寂の後、周りからは悲鳴じみた声が聞こえてくる。


「どうしてだ・・・!? 王である秋律がそんなことをする必要なんてないのに・・・ッ!」


怒りでどうにかなりそうだった。 秋律に駆け寄るよりも先に定茂の胸倉を掴む。


「お前いい加減にしろよ!? お前が言ったから秋律はこんなことをしたんだぞ!!」

「違ッ、俺は!」

「何が違うんだよ!?」

「脅しただけでこんなことは望んでいねぇ!!」

「だから秋律は飛び降りたんだろうがぁッ!?」

「俺は一度も飛び降りろだなんて命令はしていねぇだろッ!!」

「命令命令命令って、秋津が飛び降りたこととお前の言葉が無関係って本当に思ってんのか!?」

「それは・・・ッ!」


騒ぎを聞き付け体育の教師だけでなく他の教師もやってきた。


「大変だ、男子生徒が倒れているぞ!! 早く救急車を呼べ!!」


その中には当然担任もいた。 担任は基規と定茂の言い争いを聞いていたようだ。


「命令って? 何のこと?」

「「・・・」」


その問いかけに基規と定茂は掴み合いを止め見合った。


―――・・・もう終わりだ。

―――ここまで来たら。


そう思い基規が口を開いた。


「・・・定茂が命令したんです。 秋律に飛び降りろって」

「・・・!」


担任は驚いた顔をしていた。 当然定茂もだ。


「だけど全ての責任は俺にあるんです。 俺が一年以上続けたカースト制度のこと全てお話します」


―――これでもうカースト制度は終わりだ。

―――最後は俺がちゃんと責任を持って終わらせようじゃないか。

―――どんな処分を下されたっていい。

―――カースト制度を作ったのはこの俺なんだから。

―――それくらいの覚悟はできている。


担任に全てを話し終えた。 その間に秋律は救急車で病院へと運ばれていった。


「みんな。 基規くんが話したことは全て本当なの?」


担任はクラスのみんなに確認した。 シンと静まり返る中、一人の男子生徒が恐る恐るといった様子で手を挙げた。


―――アイツは・・・。


カースト制度で言えば順位は中の下に位置している。 あまり目立たない場所にいた冴木だ。


「基規くんは悪くありません! この制度を作ったのは多分僕のためなんです。 いや、もしそうじゃなくても僕は救われたんです!!」

「どういうこと?」


冴木はポツリポツリと話し出した。


「これはおよそ一年前のことです」


この制度ができる前に自分が現在上位グループである男たちに酷いいじめを受けていたこと。 そしてこの制度が始まってから自分はいじめの対象から外れたこと。

それまで自分ではどうすることもできず、死にたいと思うような日々から救われたこと。 現在王である秋律が、わざと成績を落としクラスで立場の低かった者たちを守ってくれていたことを。


―――・・・俺は何も言っていなかったけど、やっぱり気付かれていたのか。


基規は根本的にいじめをなくすのは難しいと思い、その対象を試験ごとに変えることができれば一人に向けられる被害が少なくなると考え、このカースト制度を始めたのだ。


―――結局定茂たちは対象は誰でもよかったんだ。

―――もちろんそれがバレてしまえば制度に関係なく、冴木がいじめられてしまう可能性がある。

―――それが分かっていたから俺はなるべく王様のように振る舞い、そして頂点に立つことでクラスをコントロールしようとしてみたんだ。


担任はそれを聞いて言った。


「基規くん。 貴方がやろうとしたことはよく分かりました。 ただ二人だけの言い分を一方的に聞くことはできませんが・・・」


その言葉にかつていじめられていた冴木が担任に言った。


「いじめのことを相談しても何もしようとしなかった先生が口を出す資格なんてないよ!!」

「・・・ッ!」

「どうせ定茂くんたちの成績がいいからって見て見ぬフリをしていたんでしょ?」

「いや、それは・・・。 調べてみても貴方がいじめられてるような様子はなかったから・・・」

「だからこの制度のおかげで僕は助かったんだ!!」


二人がヒートアップしているところに基規は割って入った。


「俺は確かにクラスをコントロールしようと思っていた! だけど秋律に最下位としての役割を押し付けてしまっていたし、王としての立場に居心地のよさを感じていたのも事実なんだ。 今は反省している」

「基規くんは悪くない! 確かにこの制度はよくないこともあるのかもしれない。 でも勉強さえすれば悪い境からも抜け出せるという道があるだけで公平だ!!」


冴木は担任に向かって言った。


「それに先生だってクラスの成績が上がって喜んでいたじゃないか! だって僕は助かったんだ・・・。 もし基規くんがいなかったら、僕は・・・ッ!」


冴木は泣き出してしまった。 担任もバツが悪そうにしながら、とりあえずこの場を収めることに決めたらしい。


「と、とりあえずこの始末は追って連絡します」



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