俺様ルールカースト⑧




それを見た基規は居ても立っても居られなくなった。


「秋律ッ・・・! おい、お前ら!! 秋律に一体何をした!?」

「お前らじゃなくて王様だろうがッ!! まぁ、今の状況は俺たちも何が何だかよく分からないけどな・・・」

「はぁ!?」


本当に混乱した様子の定茂に秋律は『ふふ・・・』と笑みを浮かべるばかりで何も答えなかった。


―――秋律がそっち側に付いた、だと・・・!?

―――だが何故定茂が困惑している?


基規が最下位になったとしても定茂と秋津では階級に差があり過ぎるのだ。 普通の学校のクラスメイトのように簡単にグループに入れてもらえるような状況ではないはず。

そう思っていると定茂が持っていた秋律のテスト用紙を広げて見せてきた。


「ッ・・・!」


その結果を見て驚くことになる。 答案用紙は全て回答で埋められていて、基規自身そうだったから分かるが完全に正解。 満点だった。


―――前回までドベだった秋律が満点・・・ッ!?

―――いやでも、そう言えば・・・。


困惑しているのは定茂たちも同じで、定茂は秋律に向かってすごんでみせた。


「おい! 何かズルしただろ!?」


―――定茂たちも秋律が満点だったことを知らなかった?

―――想定外な出来事だったのか?

―――確かに定茂たちと秋律は接点がない。


それを秋律は涼しい顔で受け答えた。


「定茂くん、君は口の利き方がなってないね。 僕がこのクラスの王で君は階級が下なんだから、もっとへりくだってもらわないと」

「ッ・・・!」


定茂は答案を穴が開く程見つめ、おかしなところがないことが分かり舌打ちした。


―――定茂は自分が王だと言っていたけど、それは勘違い・・・?

―――確かに担任は満点がいるとは言っていたが・・・。


それは基規のことだと思っていたが、名前を書き忘れてゼロ点になったのなら満点は別にいたのだ。 今回返されたのは答案用紙だけで順位表はもらっていない。


―――定茂よりも更に上がいるってマジかよ・・・。

―――でも定茂じゃなくて秋律が王なら、まだよかったのか・・・?

―――俺様が奴隷なのには変わりないけど。


秋律が満点を取ってくれたのは素直に嬉しかった。 だが気になるのは目の前にいる定茂のグループに入ったことだ。


―――成績上位だから上位のグループに入りたいっていうのは百歩譲って分かる。

―――だとしても、入るべきはこのグループではないだろ!!


「僕にズルしたって指摘するのはおかしいと思わない? 名前を忘れたことを濡れ衣だと言っていたのに、それは聞き入れようとしなかったじゃないか」

「やっぱりお前! 何か細工をッ・・・!!」


定茂は秋律を問い詰めようとしていたがそれは無駄だった。


「とりあえず、定茂くんたちはもういいよ。 僕は奴隷の基規に命令を下すべきなんだろう?」


そう言って秋津は基規を見る。 目が合うと恐怖を感じた。


「ふふ。 次の五限目、楽しみにしていなよ」

「ッ・・・」


定茂はその様子を見て慌てたように言った。


「ま、まぁいい。 基規、よかったなぁ? かつて親友だった秋律様とまた絡めるんだぜ?」


定茂の声はどこか震えていた。 自分が王でないと知り、少し怖気付いているのだ。 しかもその相手が今まで散々貶めてきた秋津なのだから。


「絡めるといってもそれは王と奴隷の関係だけどな。 まぁ、入れ替わっただけか」


そう言う定茂を基規は睨んだ。


「・・・絶対に何かを仕込んだな? 秋律が自らこのグループに入るわけがないだろ!」

「逆に言うなら入れる理由もないだろ? まぁ、いいや。 じゃあ秋律様、あとはよろしくな?」


定茂たちは基規から弁当が入っている袋を奪って逃げるようにしてこの場から去っていった。


―――何なんだよ・・・。

―――って、金!!


そう思った時にはもう遅く、定茂たちの姿は見えなくなっていた。 秋津はジッと見てくるばかりで、それが怖かった。

基規はこれ以上秋律と二人きりでいるのが嫌で逃げ出すように他の場所で時間を潰しにいった。



そうして五限目となった。 種目はバスケである。


―――ついに秋律に命令される時が来ちまったか・・・。


これから今までの復讐をされると覚悟していたのに、下された命令を聞いて少々呆気にとられた。


「基規。 僕のボールを持ってきて」

「・・・え?」

「聞こえなかった? 僕がバスケで使うボールを取ってきてほしいって言ったんだけど」

「あ、あぁ・・・。 分かったよ」


どんな命令が飛んでくるかと覚悟は決めていたが、秋律からの命令は驚く程に易しいものだった。


―――命令慣れしていないせいか?


必死に命令を探している感じだった。


―――秋律からの命令は嫌な気がしない。

―――・・・何なんだろうな、定茂との差。


「基規。 タオルを持ってきて」

「・・・あぁ」

「基規。 この水筒に水を入れてきて」

「・・・あぁ」


何だか秋律のマネージャーになったような気分である。


―――にしても秋律が満点か。

―――入学してすぐの試験ではかなりの好成績だったはずなのに、ある日突然最下位になったのはやはり俺様の決めたルールのせいっていうことになる。

―――それは自ら進んで最下位になり奴隷になったということだ。

―――・・・全て気付いていたって、さっき言っていたよな。


命令というよりはパシリのようなものだが、逆に何かをしてくれることもあるのだ。


―――ただ俺様のテストの名前が消えていたことだけは未だに分からねぇ。

―――定茂がやったのか?

―――俺様に不満を溜めていたとすれば十分な動機になる。

―――しかし、どうしてそれなら秋津はこのタイミングで王になったんだ?


分からないことだらけだった。 バスケの最中、守備位置が近くなり尋ねた。


「・・・秋律」

「何?」

「聞いてもいいか?」

「何を?」

「どうしてアイツらのグループなんかに入ったんだ?」

「・・・」


秋律はジッと見据えてきた。


「秋律は自ら入っていない。 そうだろ?」


尋ねると秋律は小さく頷いた。



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