俺様ルールカースト②




基規は黙って秋律のことを見据えていると定茂が言った。


「基規。 アイツに何か命令したらどうだ? もう奴隷が変わっちまうかもだし」

「あー・・・。 まぁ、そうだな」


そう言われるも特に思い当たることがなければ命令することもできない。 ただナンバー2の定茂の目もあり何もしないという選択肢はなかった。

とりあえず無理矢理にでも、王として最後の命令をする必要がある。


「奴隷」

「ッ・・・」


基規の言葉にビクリとして秋律は動きを止めた。


「俺様のロッカーから一限目の教科書を持ってこい」

「え・・・? あ、はい・・・!」


秋律はキョトンとしながらも頷くとそのまま教室の後ろへと走っていく。 それを見た定茂が不満そうに言った。


「基規! 命令はたったそれだけか!?」

「そうだけど?」

「あまりにも楽過ぎないか!?」

「別に他にしてほしいことなんてないしな。 今俺様が必要としているのは教科書だから、これが一番合理的だろ?」

「・・・!」


納得がいかないのか基規を睨み付ける定茂。 しかし、現在は基規がクラスのトップで王の立場に君臨している。 トップとナンバー2の差は大きいのだ。


「何? 俺様より位が下のお前が王様に意見するって何様?」

「ッ・・・」


そう言うと定茂は目を見張ったが、大袈裟に溜め息をついてみせた。


「わ、分かったよ! だがあれだけだと俺が納得いかねぇ!」


定茂は机を大きく叩き秋律に注目させた。


「おい奴隷! 基規の分の飲み物を買ってこい! ついでに俺の分もな!! もちろんお前の奢りでな!!」


あまり金銭の絡む命令はしたくないと思っている基規であるが、止める気もなかった。 考えにくいことだが秋津が上位になれば今度は全て自分に返ってくることになる。

それを理解してあまり命令したりしない者もいる。 ただ階級が下になると学校生活を送りにくくなるため、成績の上昇のみを目指す。 基規はそれを悪くないと思っていた。 


「あ、飲み物はそれぞれ5本ずつ頼むわー!!」


秋律は教科書を丁寧に基規の机の上に置くと教室から去っていった。 基規は去っていく秋律の後ろ姿をさり気なく目で追った。


―――どうしてアイツはいつも最下位にいるんだろうな。

―――だって最初の試験は・・・。


高校入学して最初の試験のことを思い出す。 だが首を横に振った。


―――・・・いや。

―――中学から高校へと変わるにつれて、そういうこともあるか。

―――高校の内容に付いてこられなかった、ただそれだけのこと。

―――実際頑張ろうと思えば頑張れるはずなのに、やろうとしないのが悪いのか。

―――・・・とはいえ同じ奴が最下位に居続けるってどうなんだ?

―――マゾ?


基規はしていないが、こういったことで金銭的な負担もそれなりにあるはずだ。 逆の立場になった時、それが全て跳ね返ってくれば大変なことになりそうとは思うが、干渉する気はなかった。

ルールはあくまで成績を元に階級を決めるというだけで、それをどう利用するのかは本人の自由だ。


「基規。 思うんだけどさ」

「ん?」


定茂は突然言った。


「お前、あの奴隷にだけ贔屓していないか?」

「ッ、はぁ!? つーかまた俺様に意見するわけ!?」

「それは分かっているけど、そんなにオーバーリアクションすることか?」

「いやだって、急に変なことを言うからだな・・・」

「ただそう思っただけだ。 最下級奴隷には軽い命令をして、それ以外では重い命令とか、普通逆だろ」


身を乗り出してしまったが、再び男子の背中に深く腰をかけた。 男子から軽く呻き声が上がる。


「いつも最下位で同じ奴だから気が乗らねぇんだよ。 それにどうせ俺様が命令しなくてもお前がしてんじゃん」

「それは基規がくだらない命令をするから」

「いいから黙れよ。 俺様からしたらお前も家畜レベルなんだぞ?」

「ッ・・・」


秋律を庇う理由は正直毎回最下位だからという理由だけではない。 だがそれは一番近くにいる定茂にでも言えないことだった。 定茂は不満そうだったが基規からしてみても譲れないことはある。

そうこうしているうちに担任がやってきて、授業の時間が始まった。


「みんな席に着いてー。 先日の定期考査を返却するわよー」


こうして新たな順位決めが始まるテスト返しが始まった。 教師は嬉しそうに生徒を見る。


「本当にこのクラスは成績がいいわねぇ。 しかも満点がいるとかちょっと気合が入り過ぎじゃない? 担任としては嬉しいけど」


―――満点か。

―――どうせ俺様なんだろうな。


今回も余裕だと思っていた基規は名前を呼ばれると成績表を取りにいった。 その時とんでもないことを教師から告げられることになるのだ。


「基規くん、はい。 満点の答案ね」

「ふ、当然」

「と言いたいところだけど、貴方は今回どの科目もゼロ点よ?」

「ッ、はぁ!?」

「どうして名前を書くのを忘れちゃうの? 目を皿のようにして見てみたけど、やっぱり消された跡もないし何も書かれていなかったわ。 名無しの権兵衛さん」

「ッ・・・!」



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