第3話

 放課後になると、部活もしていないので颯爽と帰宅する。

 二年生にもなると、部活で中心人物になっていかないといけないこともあって、友人たち含め皆が頑張っているのに何たる体たらく。

 ただ、二人に話したときのように別に球技はやらないしても、部活をするか自体はかなり迷った。

 しかし、中学の頃に部活で大きな怪我をしてどんなことをするにしても大変だったこともあってしないことにした。

 まだ体験入部などを考えていない一年生が同じように帰っているので、その中に混じってあたかも同じ群れのように見せかけながら帰った。特に意味はないけれども。

 そして家に戻ると、まずは洗濯物をすべて取り込む。

 家族とは言え、女性陣の洗濯物には出来るだけダイレクトに触れないようにしながら。

 その後は、食材とレシピ本が用意されているのでぼちぼち夕食の準備を始める。

「ただいまー」

「おかえり」

 そうしていると、妹が帰ってきた。

「あ、私も手伝うよ」

「その前に自分の洗濯物と母さんの洗濯物の整理だけしといてくれ」

「はーい」

 妹は素直に、先程取り込んだ山盛りの洗濯物を整理し始めた。

「今日、凛ちゃんがわざわざ会いに来て挨拶してくれたぞ」

「え、マジか!」

「うん。良い意味で変わらないな」

「制服姿可愛いでしょ? 私は先に写真見せてもらってるから分かるけど」

「すごく似合ってた。というか、逆に似合わないものが無さそう」

 彼女の話を出すと、妹のテンションが一気に上がった。

 まるで、自分のことを自慢するかの様に話をしている。

「そっか、兄さんのクラスどこって聞いてきたからワンチャン会いに行くのかなって思ってたけど……。嬉しかったでしょ?」

「うん……まぁビックリした」

「何よ、そのキレのない返事は! あんな可愛い子に会いに来てもらってさ!」

「そりゃそうではあるんだけど」

 確かに、妹がそう言うのは分かる。

 でも、この言葉からも分かるように、妹は俺が一切凛ちゃんに恋愛的な感情を持たないことを前提に話している。

 妹は良くも悪くも、考え方が非常にシンプル。

 俺があの時考えたように、周りの目とかをそれほど意識するタイプではない。

 その大胆さにあっけにとられる事もあるが、俺からすれば結構羨ましく思う部分でもあるが。

「何か他に話した?」

「えっと……。いや、短い休み時間の間に来てくれたから、挨拶だけだね。後、何かあればサポートするからってお前が言ってたことは伝えたよ」

「まぁそうだよね。そんな長話出来るような暇もないよね〜。というか、そもそもそんなに凛と話したことないもんね」

「そ、そうだな」

 妹は、俺と凛ちゃんが少しでも話をして接触出来た事に満足そうな反応を見せている。

 そのためか、最後に俺が言い淀んだことを気が付かなかった。

 妹は、俺と凛ちゃんが自分の目の前でのみ少し話しているだけのいわゆる顔見知りレベルくらいだと思っている。

 それぐらいの関係性で、がっつり目に助けてあげてほしいとか催促してくるあたりが、妹が大して深く考えていない証拠でもある。

「この高校生活で、私以上に凛と仲良くなったりしてね」

 そう明るく笑いながら、俺に話す妹。

 そうなるのではないかと、自惚れるつもりは全くないが、実際にそうなる事を考えると俺は何も笑えない。

 妹の知らないところで、俺と凛ちゃんはそれなりに会話をするくらいの仲にはすでになっている。

 妹がいない間の少しの時間の積み重ねで、段々とお互いに会話をすることが多くなっていった。

 けれども、そんな様子は妹の前では見せることはどちらもしなかったので、妹は何も知らないまま。

「まぁ流石にそれは無いと思うぞ?」

 一言それだけ笑いながら言っておいた。

 そう言うと、妹は再び可愛らしい笑顔であははと笑う。

「凛、すごくモテるだろうなぁ。中学の頃でも凄かったもん」

「だろうな。早速、俺の学年でもびっくりするくらい可愛いってツレが言ってたわ」

「だよねー! マネージャーの誘いとかも多いんだろうな〜! 何の部活に興味あるのか聞いてみよっと!」

 そう言うと、早速スマホを出して指を素早くフリックさせている。

 思い付いたらすぐ行動するところも、妹らしい。

 この性格のおかげで、凛ちゃんが何度もうちで待たされる時間が出来ていたわけだが。

 普通だったら「何だこいつ」ってなりそうなものだが、凛ちゃんはいつも笑顔でこう言っていた。

「それが早紀の良いところなので。純粋に人が良くて明るくて」

 と色んな人が評価しているらしいので、悪いことではないのだろう。

「ふむ。部活はまだ未定だって。兄さんの部活事情聞いてきたから、くっそ怠惰な帰宅部って言っといたよ」

「事実だからしゃーないな」

 煽りどうのこうの以前に、事実だから何も言われても、何をされても文句が言えない。

「って言うかさ」

「うん?」

「凛が結構兄さんのこと聞いてくるからさ、もう兄さんと凛が連絡先交換して話したら良くない?」

「え”!?」

 ものすごい声が出た。どこからこんな声が出たのか、自分でも分からない。

「どんな声出してんの」

「ごめん、むせただけ。そこまでしなくてもいいんじゃない? お前が伝えてくれればいいんだし」

「いや話すことならいくらでもあるし、そこから話すきっかけにもなるしいいじゃん」

「いやぁ……だけどなぁ……」

「凛、交換オッケーだってさ。ID教えておくから早めに追加してね」

「俺の意見無視かよ」

 やはり、妹の性格は大胆だし、何も考えていないのだと思わされた。

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