第1話
春休みが明けて新学期。
殆どの生徒は部活が毎日あるおかげで、生活リズムが崩れているということはないだろう。
ただ、この俺は違う。
部活にも入らず、小学生と同じように丸々一日休みである生活だった俺からすれば、相当きつい。
「よぉ、斗真。随分と眠そうだな」
「ほんと。しっかりしろよな」
一時間目後の休み時間。
起きてからずっと付いてくる眠気とぼんやりと戦っていると、友人二人が声をかけてきた。
二人の名前は、
それぞれ遥輝はサッカー部、幸人はバスケ部と運動バリバリのイケてる男。
顔もイケメンで、誰にでも優しいので女子からの評判も相当いい。
とは言っても、しっかりいい彼女が居て、まさにリア充って感じである。
そんなやつらが友達で、しっかり気をかけてくれている俺もすごく恵まれているとは思うが。
「部活してないから、規則正しく起きる理由がなくてな。久々にちゃんとした時間に起きる生活になったら、眠くて仕方がない!」
「部活入れば解決する話じゃん!」
「ほんとそれよ。サッカーかバスケやってみれば?」
「バスケはボールが言う事聞かん! サッカーは足の筋をやっちまう!」
「体育を見る限り、そんな風には見えないんだけどな〜……」
これは誤魔化す言い訳ではなく、本当の話である。
足は球技とかしている相手なら、そこそこ負けないくらいには走ったり、持久走の体力もボチボチあるのでこの二人はまぁまぁ運動出来るという評価はしてくれているようだが。
球技はとにかく、バスケとサッカーは出来ない。
状況に応じて動く位置が流動的になる球技は、特にセンスがない。
まだバレーや野球など、それなりにポジションや状況によって何をやるか分かりやすい球技はマシなんだけども。
「部活もしてないし、春休みの間どうしてたんたよ」
「お前らとのLINEだね」
「いやいや、言うてそれだけで一日潰れんやろ! それに、俺たち部活してる間は返事返せないし」
「……寝てるかな?」
「マジで怠惰やな」
バリバリ部活でメリハリの利いた生活をしている二人からすれば、呆れるしかないだろうな。
「逆に聞くわ。部活して、俺達で遊んだ以外にお前らこの春休み、何してた?」
「「彼女と勉強とかデート」」
「アーナルホド、ワカリマシタ」
聞くんじゃなかったと後悔した。
そりゃせっかく時間があるなら、俺とかと遊ぶ他に彼女がいるなら一緒に遊ぶに決まってる。
というか、勉強もしっかりして高め合ってて、完璧過ぎるあたりも何かヤダ。
「お前も早く彼女作ればいいじゃん」
「簡単に言うなよ〜……」
「いや、彼女から女子事情色々聞くけどさ、お前の評価言うて悪くないぞ? 普通に気になる子に声かけてみりゃいいじゃん」
「気になる子ね……」
クラスや学年、可愛い人や性格のいい子はたくさんいる。
だが、特段気になる!といった子はおらず、今に至る。
当然、彼女が出来れば色々と変わることもあるだろうし、何よりこの二人が充実している姿を近くで見ているので、欲しくないわけがない。
「ちょっとでも気になってる人とかいないの? 付き合う付き合わないとか言う前に、そういうところから女子のこととかもっと知って、そこで初めていいなとか思うこともあるぞ?」
「おおう、めっちゃ正論……」
「せめて部活入ってりゃ、昨日入って来た後輩とかそういう今後の縁とかも期待出来たのになぁ……」
「うっ!」
俺のことを真剣に考えてくれているからこそ出る言葉が、俺の心にグサグサ刺さる。
「確かに幸人の言うとおりかも。昨日、入学式前後の部活勧誘でも、結構可愛い子多かったぞ」
「彼女に怒られんぞ」
「まぁしゃーない。彼女がいても、可愛い子がいると、注目してしまうのは男の定め」
彼女が聞いていたら、間違いなく喧嘩になりそうなことを平気で言っているので、出来れば近くに彼女がいないことを願っておこう。
そんな中身があるのか無いのかよくわからない話をしていると、少しだけ教室がざわついている。
何やら、外の廊下で何かがあるようだが、俺達は話が盛り上がっていたので、大して気にもしていなかった。
「おい、斗真。お前にお客さんだぞ!」
「へ?」
まさか自分が大きな声で呼びかけられるとも思っていなかったので、素っ頓狂な声を上げてしまった。
声をかけてくれたやつは、俺に何とも言えない顔をし、先程廊下の方を見てざわついていた女子は驚きと少しニヤッと笑っている。
(何なのだろう)
新学期早々、無自覚に変なことをして教師に呼び出されたなど、悪い想像が浮かぶ。
良い事などでそれなり目立つことは、悪い気はしないが、先生に怒られて悪目立ちすることだけは避けたいが――。
そんなことを思いながら、廊下に出てみると――。
「こんにちは。お久しぶりです」
「お、おお! 久しぶりやね」
「はい」
そこに居たのは、少し前までは見慣れた妹の親友の姿であった。
「改めまして。無事入学しました。早紀と仲良くさせていただいてます。間宮凛です」
「う、うん。妹から話は聞いてるよ。入学おめでとう」
まさか会いに来るとは思っていなかったため、こちらもしどろもどろになりながら話を進めた。
いつもとは違って、うちの高校の制服に身を包み、より大人っぽくなっている。
もともと綺麗な顔立ちをしているだけに、直視することが難しいくらいの魅力は健在どころかその威力を増している。
「はい、ありがとうございます! お、お兄さ……あっ」
いつものように話そうとして、途中でまずいことに気がついたのか、きゅうっと顔が赤くなった。
「ご、ごめんなさい……。ここでその言い方はまずいですよね」
「いや、そのほうが呼びやすいだろうし、それで大丈夫だよ。気にしないで」
「はい」
彼女は俺のことを妹と同じように呼んでいた。
もちろんそれは変なことではないし、むしろ自然なことだと感じている。
本人からすれば、少し恥ずかしいかもしれないが、今から無理して言い方を変える必要もないと思う。
「この高校では、俺が一年先輩だから何かわからない事とか困った事があったら遠慮なく相談してね」
「はい! 頼りに……してます。“あの時“みたいにまたお願いします」
「……あの時ってそんなに大したことはしてないよ?」
「……そうやってすぐとぼける」
そう言って彼女は少しだけいじけたような表情を見せる。
こうして再開するのは久々だが、彼女のこういういった仕草は何も変わらない。
本当にずるいと思う。
「ほらほら、休み時間が終わるから。次の授業の準備しないと間に合わんよ?」
「……はい」
何とか気を取り直して、次の授業の準備をさせるために送り出した。
「……」
……少し時間が経てば、何もかも忘れてどうでも良くなって終わると思っていた。
どうやら、俺と彼女の事情はそんな単純なものではなくなってしまっているようだ。
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