第20話 準備

 私はクロル達に別れを告げ、魔人の国にブラック達と一緒に戻ったのだ。


「舞、大丈夫だった?

 心配したのよ。

 無事でよかった。」


 魔人の城に着くと、ジルコンもとても心配していたようで、すぐに駆け寄ってきたのだ。

 相変わらず綺麗なジルコンに近くで見つめられると、女性の私でもドキドキしてしまうのだ。


「ごめんなさい。

 心配かけてしまって。

 ブラックにも怒られたわ。」


「そうそう、ブラックの慌てようを見せてあげたかったわ。」


 ジルコンは小声でブラックに聞こえないよう話してきた。


 本当はもう少し滞在して、リオさんの周辺を調べたかったのだが、ブラックの言う事を聞くことにしたのだ。

 色々な人が私を心配して迎えに来てくれたのに、ワガママを言ってはいけないと思ったのだ。


 その日は魔人の城に滞在し、次の日にカクの家に戻ることにした。

 夜は黒翼人の国での事をみんなで話したのだが、街の下にいた正体不明の生き物の話をした時は、また私を危険な目に合わせたなと、ブラックはアクアとスピネルを睨んでいたのだ。


 私は外に出て、夜風に当たることにした。 

 この国はいつでも春のような気候で、夜もとても過ごしやすく、優しい風が吹いていたのだ。

 みんなとの話はとても楽しく、食事やお酒も美味しかったのだ。


 しかし、リオさんの病について原因が突き止められなかった事が、ずっと心に引っかかっていたのだ。

 ブラックに怒られるかもしれないが、やっぱりもう一度行ってみたいと思ったのだ。


 その時、ふと後ろに気配を感じたのだ。

 私がいなくなったことに気付いてか、ブラックも外に出てきたのだ。


「どうしました?

 気分でも悪いのですか?」


「いえ。

 ちょっと、飲み過ぎたので夜風にあたってました。」

 

 私の顔をじっとみると少し笑いながら言ったのだ。


「嘘ですね。

 黒翼人の国が気になるんですよね?

 顔を見ればわかります。」


「・・・ええ。

 どうしてもリオさんの事が気になって。

 ・・・また行ってはダメですか?」


 ブラックは困った顔をして話し始めたのだ。


「さっきみんなに話したように、ユークレイスとトルマが向こうで色々調べていますから、その辺りもわかってくると思いますよ。

 だから・・・舞、危険な所には行ってほしく無いのです。」


「そうよね。

 また捕まってしまう事もあるかもしれないし、危険が無いとは言えないわよね。

 わかってはいるの。

 でも、お願い、もう一度だけ行かせてほしいの。」


 ブラックは少し考えた後、ため息をついてこう言ったのだ。


「思えば、初めて舞を見た時も戦いの時でしたね。

 魔人を見ても物怖じせず、強いあなたの意志を感じました。

 その後の人間の城での戦いも、命が危なかったかも知れないのに、プランツに向かって堂々とした姿だった事を思い出しました。

 そして森でもそうでしたね。

 舞は何も変わっていなかったのに。

 私が・・・変わったのですね。

 私はあなたを失ったらどうしようかと、心配で仕方なかった。

 ・・・私の側から絶対に離れないと約束できますか?」


「ええ、もちろん。」


「では、人間の国に戻ったら、何があってもいいように万全の準備をしてきてくださいね。」

 

「ありがとう、ブラック。」


 私はそう言って満面の笑顔でブラックを見ると、ブラックも優しく微笑んで頭を撫でてくれたのだ。


 次の日、カクの家までブラックが送ってくれた。

 ブラックが黒翼人の世界に行く時に声をかけるので、勝手な行動を取らないように、そこはキツく言われたのだ。

 

 カクの家に入ると、二人が首を長くして待っていたのだ。

 これまでの事を二人に話すと、カクもヨクも驚きで目を見開いて聞いていたのだ。


「舞、相変わらず危険なところばかり行ってて心配だよ。

 今回もなかなか帰って来ないから、何かあったのかと思ってたらやっぱりね。」


「まあ、魔人の国から知らせは来ていたが、まさか他の世界に行っていたとはな。

 この歳になってから、色々な話が聞けてわしは楽しくて仕方ないよ。

 もっと若かったら、わしも一緒に行きたかったぞ。」


 ヨクは楽しそうに話していたが、まじめな顔をして言ったのだ。


「だが、舞、本当に気を付けるのだぞ。

 何が起きるかわからないのだから、しっかりと準備するのだぞ。

 マサユキに怒られることがあっては困るからのう。」


 カクとヨクと話をしていると本当に落ち着くのだ。

 自分の家では無いが、家に帰ったようでとても安心するのだ。

 そして、二人は本当の家族のように思えたのだ。


「カク、忙しいとは思うけど、黒翼人の国に行く準備を手伝ってもらっていいかな。」


「もちろんだよ。

 舞のためなら仕事なんて行かなくても大丈夫だよ。」


 カクは嬉しそうに答えた。


「仕方ない。

 カクの代わりにワシが城に行くから、準備を手伝ってあげなさい。」


「二人ともありがとう。」


 さあ、準備をしなくては。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る