第7話 ブラックの動揺
スピネル達が黒翼人の城に入る少し前のことである。
魔人の執務室の中でブラックは呆然としていた。
舞の気配がこの世界から消えたのだ。
とりあえず、消えた痕跡のある所に早く行かなければ。
そう思ったときである。
執務室の扉がノックされ開いたのだ。
トルマであった。
「ブラック様、私もユークレイスと一緒に街を巡回しようと思うのですが、よろしいでしょうか?」
「ああ、トルマ、それより頼みがあります。
私と一緒に来て欲しいところがあるのです。
それに、ユークレイスも呼んでください。」
私は早口で伝えると、何も聞かずにトルマは急いでユークレイスを連れてきたのだ。
「二人ともすまない。
実は舞がこの世界に来たはずなのだが、ある場所で気配が消えたのだよ。
今からそこに行くつもりなのだが、嫌な予感がする。
もしかしたら、黒い翼の者達が関係するのかもしれない。」
私の焦った様子を見た二人は冷静に話し出した。
「わかりました。
ではまず、人間の世界に手紙を送りましょう。
舞殿が戻らないと心配するでしょうから、今夜はこちらに一泊して皆とお別れの食事会でもすると書いておくことにします。」
「ああ、そうしてくれ。」
ユークレイスは淡々と続けた。
「それと、城を留守にするのですから、ジルコン様にこの国の事を任せる旨、連絡をとりましょう。」
「ああ、頼むよ。」
私は執務室をウロウロして、落ち着く事が出来なかった。
「ブラック様、落ち着いてください。
舞殿は、ブラック様が渡した石のペンダントをお持ちですよね。
そうであれば、何者であろうと簡単に手を出す事は
出来ないかと思います。
何か考えがあって移動したのでは無いかと思いますが。」
確かにそうなのだ。
あのペンダントは結界になっているはずなので、何か攻撃をしたり無理矢理連れて行く事は簡単には出来ないはずなのだ。
「ああ、その通りだね、トルマ。」
私は少し冷静になれたのだ。
二人がいて良かったと思ったのだ。
ジルコンにも連絡が取れ、行く準備が整った。
後はネフライトがいるので、この国の事は問題ないだろう。
スピネルの居所がわからなかったが、アクアを案内しているのだろう。
「では移動しよう。」
私は二人に舞の気配が消えた位置を思念で伝えた。
そして、3人とも瞬時に移動したのだ。
それは湖の近くの岩場であった。
周りを注意して見ると、岩場の間に深い穴のようなものを見つけたのだ。
気配がここで消えているのは確かなのだが、驚く事にそこにはスピネルとアクアの気配もあり、舞と同じように穴の横で二人の気配が消えていたのだ。
「なるほど。
連絡が取れないと思っていたら、そう言う事ですか。」
二人が面白がってついて行ったのではと少し思ったのだが、二人が行っているなら少しホッとしたのだ。
いい加減そうに見えるが、二人ともいざとなったら、舞を助けてくれるはずなのだ。
その辺りは信頼できる者達なのだ。
「ブラック様、二人は舞殿の後をつけたのでは無いでしょうか?
それならある意味、少し安心かと。」
「そうだね。」
それにしても、この深い穴が黒い翼を持つ者達の世界につながっているのだろうか?
この500年全く気付くことがなかったのだ。
魔人の国と言っても、実際魔人が住んでいる場所はこの世界のほんの一部であった。
他の土地を開拓するほど魔人の人数が増えたわけではなかったので、手付かずの自然が沢山あるのだ。
もちろん、気配で危険かどうかは確認したが、まさか別の世界への穴が存在するかまではわからなかったのだ。
ここを通って行くしか無い。
「では、ブラック様、私が先に行きます。
この奥がどうなってるかわかりませんからゆっくりと降りてください。」
ユークレイスはそう言うと、躊躇なく中に入ったのだ。
我々3人は魔人ではあるが自由に飛べるスピネルとは違い、空間を少しずつ移動することでゆっくりと落ちないように降下したのだ。
しばらくすると光が見えてきて、そこには見たことのない世界が広がっていたのだ。
「ブラック様、こちらの影に。」
そこはやはり黒い翼の者達の世界のようだった。
見つからないように、とりあえず木の影にかくれたのだ。
不思議に思ったのは、異世界に通じるところがあれば、本来は警備されるべき場所のはずなのだ。
それが、問題なく入れたと言うことは、この場所は公にされてない可能性があるのだ。
「ブラック様、我らに少し魔法をかけてもいいでしょうか?
他の者からは翼があるように見える精神魔法ですが。」
さすが、ユークレイス、抜かりがないと思った。
翼があれば問題なく街中を歩けるからだ。
「ああ、頼むよ。
その方が移動しやすいですからね。」
ユークレイスは左手を私たちに向け魔法をかけた。
これで、周りからは同じ黒い翼があるように見えるのだ。
「では、行ってみよう。」
私はこの世界に入った途端、舞とアクアの気配を感じる事が出来たのだ。
そして、その気配がある一番高い建物に向かう事にしたのだ。
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