アシガラドン
額に張り付いた髪と汗を風が爽やかに吹き払う。
少し息を整えてからツアコンに言った。
「これでBBQ出来ますね」
ちょっとしたハプニングがあったとはいえ、大量に採れたキノコでのバーベキューにキノコ汁にキノコ御飯が怒りを沈静化してくれた。
気分も晴れ晴れと再びバスに乗り込む。
「次は昨年オープンしたばかりの金太郎さんのふるさと、道の駅で海鮮丼を召し上がって頂きま~~す。此処、足柄は小田原や箱根よりマイナーですが、海山川の自然に恵まれているので海の物も美味しいんですよ~~」
と、いう具合で次は道の駅。
お腹が満たされ少し瞼を閉じかけたところで、バスは未知との遭遇もなく無事に到着した。
金太郎グッズ一色の道の駅内にある食堂で三種類の丼からチョイスする。
足柄牛ウニ丼、ねぎとろビントロ中トロ載せのトロントロン丼、白米と同量分しらすを山盛りした、しらす溢れる丼。
「どれにしよっかな?全部美味しそうだから迷うなあ。塔子決まった?──塔子? 」
返事が無いのでメニュー表から顔を上げて見ると、塔子の瞳は焦点が合わずぼおっとしている。
「どうしたの? 」
「きゃーー包丁、包丁!! 」
突然、塔子の瞳の焦点が合ったかと思うと口から悲鳴が迸る。
震える彼女の指差す方を見ると、黒いサングラスにマスクという大昔の定番強盗スタイルの男が包丁を振り回し此方に向かってきていた。
───
「いよいよ、次が味覚ツアー最終目的地となります。でも、お土産もご用意してますので楽しみにして下さいね。そういえば皆さんの中に厄年の方いませんか~~?」
再びバスの中。
何故、そんな質問を唐突にするのか。
声が裏返るツアコンの緑に変色した顔色と目の下に滲む真紫の隈を見れば分かりきっていた。
手を上げる者は誰もいない。
因みに好実は寝ていた。
暴漢を瞬殺した後、丼を掻き込みエネルギーを補充していたが、寝不足、ハプニング、満腹、と韻を踏めば流石に眠くなろうというものだ。
その寝顔は百獣の王を思わせた。
「もう家に帰りてえよ」と、男子学生A。
「お母さーん」と、マスカラで目の周りを黒くして啜り泣くのはギャル利根。
獅子が眠りに付いた隙に、モブキャラ達の本音が車内に満ちる。
「え、ですが~~もう、あんなハプニングは流石に無い──」
ツアコンの言葉が途中で途切れたのは好実の瞼がピクリと動いたからだ。
「次でラストなので頑張って完走しましょう」
と、可愛くガッツポーズで本音を抑え込む。
自分との戦いのマラソンのようだ。
その後も倒れた大木が道路を塞いでいたり、好実以外の全員の乗客が吐いて車内がゲロ塗れになったりと色々あったが、好実の活躍でツアーの中断は免れた。
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