第15話「ゾンビに言われたい昼 その三」
「王様に言われたい昼~~!!」
「今日はあの断頭ギロチンカッターの改良版、『ゾンビをカット 断頭ギロチンカッター改』のご紹介です。従来品との一番の違いはその断頭のしやすさです。今までは女性の力では骨に当たると上手く切れなかったりして、2度3度と行う必要がありましたが、本日紹介する断頭ギロチンカッター改ではそのような心配もなく、一撃で楽々断頭できます。まず一番の変更点は――」
切りやすさを説明し、続いて
「こちらのお肉は見ての通り、中に骨が入っています。ちょうど人間の首の骨と同じ感覚で中の骨を入れてあります。作成風景はこんな感じです」
そこで、ひき肉の上に骨をいくつも並べて、最後にひき肉を被せてから焼いた動画が早回しで流れる。
映像が終わるとマンガ肉を鉄板の骨の絵に合わせて置く。
「これは僕もどこが骨の切れ目か分かりませんがこのイラストに合わせて置くと、キレイに骨を避けられます。さて、それでは片手で」
ギロチンの上に片手を乗せて、紳士が杖に身を委ねる程度のほんの少しの力を加えて押してやると、簡単にマンガ肉が両断された。
スタジオから「おおぉ!!」というどよめきに亮哉は気持ちよくなる。
「切れ味抜群。『ゾンビをカット! 断頭ギロチンカッター改!!』その気になるお値段ですが、税込み2万4500円!! しかも送料無料。そして、今回も赤字覚悟のお値引き、行います! 今から30分以内にお電話くださった方にはなんと、どどんと4500円引きの2万円ちょうどでご提供させていただきます!」
番組はつつがなく終了し、上司からは、「いや~、マンガ肉で説明するのはいいねぇ! さすが亮哉くんだ。どうやらさっそく問い合わせの電話がすごいみたいだぞぉ♪」と労われた。
(良し! 良し! 良し! やっぱり試したからだ。自信を持って出来たし、マンガ肉で骨を避けるコツのアイデアも出せた。ありがとう父さん!)
亮哉は母親のときは骨にあたり、結構な力を要していた経験から最初は骨のない豚肉を。そして他の人も同じことを思ったようで、骨を避ける工夫が取り入れられた本商品では、父親の首はすんなり切れた。その体験から骨を並べたマンガ肉を使用し、それが見事にハマったのだった。
亮哉は色んなところで断頭ギロチンカッターを売り、もう少しで伝説のギロチンカッター販売員と呼ばれてもおかしくないと言われるようになった頃、上司から新たな商品が開発されたと連絡が来た。
「次の商品はこれだ!」
手渡された資料を見ると、そこには、『ゾンビも罪悪感もカット! 自動遠隔スイッチ式断頭ギロチンカッター』の文字が躍る。
説明によると、死体やゾンビを見ながらだと罪悪感が湧くというので、顔を見えないように、手に感触が残らないようにしてほしいという要望から生れた商品。
各枷もワンタッチですぐに装着。あとはシートをかぶせてスイッチをオン。
自動で断頭をしてくれる一品。
また下の鉄板にセンサーが付いており、そこに刃が触れない限り何度でも刃を落とす仕組みになっていて、断頭し損ねる心配もなくなっている。
「なるほど。確かに、あれはキツイもんな」
両親の最後の顔を思い浮かべ、しみじみと呟く。
「さらに今回は今までのギロチンカッターの下取りもするから。本体価格は前回と同じで2万4500円だけど、下取りで5000円引いていいから。それじゃ、今回も期待してるよっ!!」
自分の言いたいことだけ言って去って行く上司を、見送りながら、亮哉はやる気半分、不安半分の面持ちだった。
「新商品化、また売らなきゃっ! でも、もう試せる相手がいない……、どうすれば」
亮哉は不安を追い払うかのように
(亮哉よ。お前は実際に試さないと何もできないのか? いや、違うだろ。これまでの経験があれば今回だってしっかり売れるはずだ。資料を読み込み、練習を重ねればイケるだろ! そうだろっ!!)
「ああっ。そうだ! 僕なら出来るっ!!」
そうして亮哉は、アパートに届いた新型をほとんど開けることなく、データ上の資料だけで確認し収録に向かった。
「出来る。出来る。出来る。僕なら出来る!!」
自己暗示をかけるように何度も何度も呟く。
そして収録開始。
「王様に言われたい昼~~!!」
いつものようにタイトルコールが掛かり、商品の説明へ。
「こ、今回ご紹介する、商品は、えっと、あ~、その……」
頭が真っ白になり商品名すら忘れてしまい、「カット」と声がかかる。
「梅野さん、大丈夫ですか?」
汗だくの亮哉を見て、司会の女性が心配そうに、冷たい水の入った紙コップを差し出してくれる。
それを一気飲みすると、「やっぱり、ダメだ」と呟いた。
しかし、それでも収録は続く。
「こ、今回の商品はボタンで遠隔で押せて、ゾンビや死体を見ないで頭を落とせるんです」
震える指先で、ボタンを押してみるが、ギロチンは、ガッガガッ!! と何かに押さえつけられているような音がして一向に刃が落ちない。
「あれ? あれ? なんでだ? なんで?」
「あ、あの~、ストッパーを外してないんじゃ?」
司会から言われ、ハッとする。そこで慌ててストッパーを外すと、
ザンッ!!
「――っつ!!」
不用意に外した為、親指の付け根をギロチンで切ってしまった。
だくだくと溢れる血に収録は一時中断。
亮哉は治療にあたった。
巻かれた包帯がじんわりと朱に染まっていくのを眺めながら、耳にはBGMのように上司からの叱責。
亮哉は胸中、
(やっぱり、僕は試さないとダメなんだ。今までの成功は試したからだ。今回のも誰かで試さなくては……)
ぐるりと周囲を見回すと、収録スタッフたちに司会の女性。それから上司が目に留まる。
(スタッフの人たちはダメだ。収録できなくなってしまう。司会の人でもそれは一緒だ。なら、上司か? いやいや、上司で試したら、その後の仕事が来なくなるかもしれないな。あれ? 試せる首がない?)
「どうする? どうする? どうする?」
頭をバリバリと血が出る程に掻きむしり、そして触れた。
「ああ。そうか。いいのがあった。うん。これなら一番慣れてるし、試すのにちょうど良い!」
独り言を呟いてから、亮哉は元気よく立ち上がり、髪を整えた。
「皆さんご心配おかけしました。もう大丈夫です。収録の前に1回、ギロチン試させてもらっていいですか?」
いつもの調子に戻った亮哉にスタジオに居た面々はホッと胸を撫でおろし、ギロチンを試すのを見守った。
亮哉は手枷をつけるとその耐久性を計るため、思いっきり引っ張ったり叩いたり、足枷も同様に行い、寝そべって首枷もつけてみる。
「流石うちの商品、びくともしないですねぇ。で、これでシートを掛けて、外から見えないように、そして血が飛び散らないようになると。今までは誰かに押してもらってギロチンを落としていてもらっていましたけど、今度はこのボタン1つでOK」
亮哉がポチッとなんの逡巡もなくボタンを押すと、周囲が呆気に取られる中、ギロチンが落ちた。
――ダンッ!!
成人男性の首でも簡単に一刀両断。
その事実に亮哉は満足した。
「きゃーーーーっ!!」
という悲鳴がスタジオ内に木霊する中、亮哉は最後に、
(このボタンけっこう軽く押せるから、死体に持たせて、ゾンビになって動いた瞬間落ちるようにできそうだな。うん。そういう風に紹介しよう。やっぱり試すのって重要だ……、これで……、また……、売れ……る…………)
※
「人気販売員、梅野亮哉さんが16日未明、番組収録中の事故で亡くなりました。26歳でした」
――プチッ
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