暗闇の中を走る時

目立たない服で夜を駆ける

見えるのは、ぼんやりした人影

すれ違いするも

どんな人かは分からない


闇を走る時

何かが背にぴったりと張り付いている

シャツがぴったりと張り付いている

あと何周

じっとりと濡れた額が駆ける風で冷たい

早く水が欲しかった


何周もしていると人が気になってくる

集中が切れているって分かった

老人と子どもはいなくて

その間の人たちが歩いて、走って、

自転車で追い越されたり追い越したり

夜、という感じがした


信号機が煌々としていた

私は横断歩道を渡らないが

目の前に来るたびに

人が並び、待ち、青に変わると歩く

日常風景は昼も夜も似通っていた


空気が澄んでいる

昼とは違う、尖った感じ

肺より腹に溜まる昼より

夜の肺を膨らませている空気が心地いい

まだ遠くまで走れる、そう思えた


ノルマよりも夜駆けるよりも

手元の時計が終わりを告げた

今日も走った

闇の中を走った

知らない人の横を通りすぎ

知らない人の背を求めて走った

ふくらはぎが少し悲鳴を上げている

着地がよくなかった

口から暖かい二酸化炭素が出て

肺には小刻みに震えている


それがとても気持ちよい

夜は私を一人にしてくれる

じろりと顔を見せることもない

たった少しの体力作りに

明日を見出し安堵した

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