第12話 AV女優桃井望変死事件

 AV女優として人気だった桃井望は管理人もよく知っていたので彼女が死亡したという報道を見たときには驚いたものだ。

 ロリ系女優としてまだまだ人気もあり、アイドル的な売り出しをはかっている最中の出来ごとだった。

 とはいえAV女優の恋愛に絡んだ無理心中となれば、世間の偏見もあるがそんなものかと思ってしまうところである。

 しかしあまりに不審な現場の状況から再捜査の署名運動や民事裁判が提起されるにいたり、しかも民事裁判では彼女は複数の人間に殺害されたとする判決がおりてしまったのである。




 2002年10月12日夜、長野県塩尻市広丘郷原の奈良井川河川敷で乗用車が燃えているとの通報があり消防の出動により鎮火したものの、車内外から灯油をかけられ見るも無残に焼け焦げた

男女の死体が発見された。その後女性が桃井望であることが判明し注目を浴びる。

 消火活動のために現場は踏み荒らされ遺留品や指紋調査などの現場検証は困難を極めたが、桃井の死因が数か所に及ぶ刺し傷であったことから警察は心中と他殺の両面から捜査を開始する。

 捜査の結果長野県警は痴情のもつれによる無理心中と断定したが、家族はこの見解に納得することが出来ず署名活動を始め、一万名にも及ぶ署名が長野県知事に手渡されることとなった。

 心中であることと矛盾する家族の主張はおおむね次の通りである。


 二人の靴が自宅に残されたままだった (しかも2人とも裸足だった)

 自宅のパソコンの電源が入っていたままであった

 運転者及び自動車の所有者の男性 (桃井望は運転免許を持っていなかったのである)が後部座席で発見された事 

 男性は車内、桃井は車外で発見された 

 2人とも事件以降の日に知人と会う約束をしている

 灯油を撒いて着火したにも関わらず、灯油を入れたと思われる容器が発見されなかった

 2人とも煙をほとんど吸い込んでおらず、焼死の可能性が低い事(つまり灯油に火をつけた時点ですでに息をしていなかった可能性が高い)

 男性は事件の数か月前に80万円を貸しているが、借用書に記された名前の人物は存在しない

 桃井の身体にあった刺し傷をつけたと思われる包丁が、男性の左手に握られていた事 (この男性は右利き)


 

 怪しさ大爆裂である。

 第三者による偽装工作の匂いしかしてこない。

 その後男性の加入していた生命保険会社が自殺は加入から2年が経過していないと払えないと主張したが民事裁判で男性は自殺したのではなく第三者に殺害されたという認定がなされ

生命保険の支払いが命じられた。

 刑事と民事の判断が分かれることは稀にあるが、殺人事件で判断が分かれた例は非常に少ないと言えるだろう。

 

 もともとAV女優がからんだ不審死は桃井だけではない。

 有名なところでは飯島愛も他殺が疑われているし、AYAも自殺する数日前に芸能界の大物を怒らせて命を狙われていると警察に相談していたことが明らかになった。

 自殺した女優は麻生美由樹、苺みるく、林由美香、美咲沙耶、倉沢七海、AYA、など枚挙にいとまがないほどだ。

 これは業界の薬物汚染と無縁ではないと言われている。

 要するにアンダーグラウンドで裏社会との繋がりの深い業界なのである。


 殺害当時桃井たちはミニモニ(懐かしい)を意識した音楽グループ「minx」で活動しメジャー化を図っていた。しかし彼女が亡くなるとグループは解散。

 桃井が亡くなった6日後にはライブを行う予定だったいう。

 後にメンバーの長瀬愛、堤さやか、樹若菜は引退し、4人とも所属していたウィナーズ・アソシエーションの看板AV女優が次々と去っていった。

 おあまその後継グループ「Nominx」に所属していた紋舞らんは2006年1月に突然引退し、(事務所の発表ではなく友人のブログで明らかになった)その後消息を絶っている。

 一説にはマネージャーと駆け落ちしたなどとも言われているが彼女の安否が気になるところだ。



 動機の点にも不足はない。

 桃井は引退を考えていたという情報もあり、ドル箱女優の引退は事務所や業界にとっても許されることではなかった。

 またたった2年の活動期間の割に200本以上の出演を果たした桃井の酷使ぶりは明らかに異常である。

 無理やり誰かに金を稼がされていたという印象がぬぐえない。

 さらに恋人である男性はマルチ商法に手を出し多額の借金を作っていた。

 おそらくは警察もその情報を重視して無理心中の判断を下したのだろうが………。

 

 

 月刊桃井望では桃井が覚せい剤をうたれて性感を増したまま犯されるシーンがあるが、もしかしたら本当に薬物問題がからんでいた可能性もある。

 噂では有力な容疑者である男性の友人が失踪して行方がわからなくなっているらしい。


 その後裁判や県議会で問題として取り上げられたこともあったが長野県警は無理心中という見解を崩していない。

 おそらくこの事件もまた限りなく灰色の不審無理心中として数え切れぬ事件のなかに埋もれていくのだろう。

 両名の御冥福を心よりお祈りする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る