上司に連れられていったオカマバー。唯一の可愛い子がよりにもよって性欲が強い
@papporopueeee
出会い偏
上司からの飲みの誘いを断れませんでした
「おう、ここだここ」
前を歩いていた上司が立ち止まって指を差す。
「えっ……」
指の先を見た瞬間、思わず言葉を失った。
普段は欠かさない上司への媚びへつらいも忘れてしまった。
それくらいに、ショックを受けたのだ。
「来たことあるか? こういう店」
上司はニヤニヤと笑みを浮かべている。
答えを聞く前からわかっているという風だ。
意地の悪いことこの上ない。
「ないですよ、こんな店……さすがに……」
「あれー? そうだったかー? この前の打ち上げでも綺麗なネエちゃんと飲める店に連れて行ってやったと思うけどなー?」
素直に答えたというのに、上司は嘲笑いながら追い討ちをかけてきた。
こういうの、今時はパワハラになるって大抵の管理職は理解しているものだけれど。
昭和精神を忘れられない連中はどこにでもいるものだ。
「ああ、そうか忘れちまったんだな。確かミドリは女の子のペースについていけなくて酔い潰れてたもんなー。ったく、上司に帰宅の面倒を見させるなんざ、大物にも程があるよなあ?」
「ちゃんと憶えていますよ。先月、私は上司である飯田さんに酒を死ぬほど飲まされたって。次の日、二日酔いで仕事が手につきませんでしたから」
「もう仕事終わってるんだから、テツさんって呼べって。ほんと、ミドリは仕事はできるのに融通効かないよなあ」
「……恐縮です」
「褒めてねえって」
「っ!」
豪快に笑いながら、飯田は背中をバシンと叩いてきた。
あだ名呼びの強要。
業務終了後に部下をキャバクラへ連行。
そして極め付けは暴力。
パワハラとセクハラを煮詰めたような上司だが、その原因は当人だけにあるとも言えない。
嫌なら嫌と言わなければならない。
外部に助けを求めなければ伝わらない。
それをしないのなら、相手がコミュニケーションの一端だと思い込んでしまっても仕方ない。
「いやー、でもほんといいやつだよミドリは。最近は飲みに誘っても断る奴ばっかでなあ。ミドリみたいに好き好んでおっさんに付き合うのなんてうちにはもういねえんじゃねえか?」
「……まあ、せっかくの打ち上げですから」
「そうだよなあ! 苦労して作り上げたソフトを納品し終えたんだ。こういう日に飲まずにいつ飲むんだって話だよ。やっぱミドリは俺に似て職人気質なところがあるよ! うん!」
「はは……」
渾身の愛想笑いも、上機嫌な笑い声に打ち消されて消えた。
好き好んでこの上司に付き合っているわけではない。
断れるものなら断りたい。
しかしパワハラ上司へのゴマすりを辞められない理由なんて、このご時世でもゴロゴロと転がっているものだ。
「これはそろそろ、ミドリのチャージ金額を上げてやらねえとならねえなあ。もう四年目なのに、いつまで経っても新卒と同額は可哀想だしなあ」
「……恐縮です」
普通の後輩なら許されるようなことも、契約社員である川崎翠には許されていない。
もちろん法律やら規則では許されているが、契約延長や客先評価を人質にされていてはあまりにも無力だ。
「さて、そんじゃ行くか。冷えた体を酒と人肌で温めに」
「えっ、ほっ、ほんとに行くんですか? 冗談とかではなくて?」
「ん? もしかして嫌なのか?」
「いや……そうではないんですけれど……。やはり経験が無いのでちょっと怖いと言いますか……」
「おいおい、まるで風俗で童貞捨てる前みたいなセリフだな。もしかしてミドリ……童貞か?」
「っ……いやですね、今時は珍しく無いですよ。僕くらいの年齢で童貞なんて」
「ああー、草食系男子ってやつか? こりゃ、先に風俗に連れてきてやるべきだったなー、はっはっはっ!」
時代外れの納得をしながら、飯田は店の入り口がある地下への階段を降りて行ってしまった。
「……まじで行くのかよ」
ここで立ち去ることもできるが、無断でそんなことをすれば今まで積み重ねてきた評価がどうなるかは目に見えている。
「はあ…………」
手すりを固く握りながら、飯田の後を追って階段を降りる。
周囲では飲み屋の看板が煌々と輝く中。
一際ギャンギャンにピンクの光を放つ看板を頭上に通り過ぎて。
俺は「オカマバーエンジェル」へと足を踏み入れた。
……ネーミングセンス、悪すぎないか。
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