拾捌
時は、休み明けに課題を提出した三週間後の頃。
教育委員会の入る役所ビルにて、スーツ姿の男女が集まっていた。
「それではお集まりになったようなので、これから県内の自由研究品評会を始めます」
司会進行役の男性がマイクを通して、会を進行した。
「みなさん、各自チェックシートを持って各作品への評価をよろしくお願いします」
教育委員会主催の自由研究品評会が始まった。
提出後の二週間。
県の品評会には市町村主催の品評会では数百人ほどの作品から十数の研究が県へ送られた。
通年、小学校一年生から六年生まで各学年、十名ほど金、銀、銅賞が選出される。そして、金賞獲得した研究は全国の品評会へ出展される。
どれも個性豊かな研究が展示されている。文理問わず、自分たちの好きな研究が詰め込まれた模造紙達。その中に目を引く内容があった。
「これは……」
「うん、強い根拠が書かれている」
教育委員会の委員達が伊久実の研究に評価をしたことが伝えられたのは提出から一か月程経過した朝の教室でのことだった。
「小学生という立場だが、日頃から実家の飲食を支えながら、そこで養われた洞察力、分析力、思考力は今後の人生に大きく関わっていくことでしょう。っと、委員の皆さんはコメントしてくださいました」
担任は伊久実の自由研究が金賞を受賞し、全国へ出展されることを学校全体でも誇らしと思い、朝のホームルームで発表をした。
だが、伊久実からすれば日頃の生活について一部を書いたまでのごく普通の内容だと思っている。
「へぇ~~」
その為、大々的に委員会からの評価内容を学級で発表したところ椅子に座って前かがみとなり、机に腕をくっつけ、今にも寝そうな腕上に顎を乗せた態勢で言った。
「伊久ちゃん、姿勢が悪いよ」
「ちゃんと、背筋を伸ばした座り方をしないと見栄えも悪いし、今後の生活に支障が出るわよ」
「は~~い」
やむなく、二人の注意を受け入れた伊久実はいつも通りの背筋が椅子と並行な姿勢に直した。
「とにかく、全国大会へ出展されることは滅多にないことなので、既に書き終えたものではありますが、今後の展開に期待したいと思います」
担任は終わりの言葉を述べ、一時間目の授業へ準備を進めた。
しかし、平穏なJS生活と飲食店生活を送ろうと思っていた伊久実にとっては強烈過ぎるまさに、台風と呼ぶべき事態が起こった。
県大会の品評会で金賞獲得後。二週間経過の後、自由研究の全国大会で伊久実達の研究が発表された。それが、教育委員会、教育に関わる省庁のみならず、メディアからも話題となった。
「続いては、夏休みの自由研究についてです。ここ最近、個性的な研究グッズや内容が話題となる中、とある小学生の研究が大人顔負けの内容だと話題になっています」
アナウンサーが淡々と説明をする。いつも見ているテレビに自分の作ったものが出るのは嬉しいが、これだけ大々的に言われると馬鹿にされているようで半分出演者のコメントなどを聞きたくなくなってしまう。
しかし、伊久実の家族達。特に妹と弟達が食い入るようにテレビに集中する。
「
「伊久お姉ちゃん、どうやって作ったのー?」
「お姉ちゃん、お菓子落としちゃったー!」
「はいはい。新しいの持ってきてあげるから、後の二人はほっておいて」
そして、例の自由研究特集後。食堂には多くのお客が殺到し、メディアの取材申し込みの電話が鳴りやまなかった。
「ねえ、お母さん。電話の線って切っていい?」
「やめなさい!」
伊久実は目立つことに対してあまり気にしていなかった。しかし、数日周りからの視線が気になってしまった。報道後、身分を隠すために学校へ行くにも変装をするがすぐに顔ばれしてしまう。
また、その影響はお店にも同時に起こっていた。伊久実がお店に出るまで伊久実ファンと野次を飛ばしに来た人達でごった返していた。収益は今までの倍になったが、伊久実は暫くお店に出られない状態となってしまった。ここまでメディアしかも、全国ネットの影響が大きく出るとは、考えてしなかった伊久実。
(取材を了承するんじゃなかった)
両親やベテランパートさん達とも相談し、しばらく仕事をお休みすることになった。
ここから、伊久実の異能力が一時的に発現するのだった。
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