茜色した思い出へ
kinomi
序論
幻想作家ルービット・サーチャを追うならば必ず突き当たるであろう『不確かな郷愁』に纏わる論文たち。複数の観点からこれらのマッピングを試みた研究者は奇妙な偶然を疑い、しかし口元を緩める。地平と座標の縦横軸、時間の奥軸、そして点在の粒度。彼らは仕向けられたのではない。正しく観測を成し得た。現れるのは何れも明確な螺旋だ。無数に散らばる粒子の一つを懲りずに手に取った私は、また一つの章に囚われていた。
――茜色の情景と夕焼け装置
人類史のうち『和暦』と呼ばれる並び。過去から順に『明治』『大正』『昭和』『平成』と並ぶ中の特に『昭和』の占める時間幅に、あるいは未来からその地点を振り返る時に観測される事象がある。朝焼けではなく夕焼けに限定した茜色。街並みをその色味が染める時に、人々を包む一種の“郷愁”が存在する。その濃度は時代情勢を加味しても特筆すべきものであり、故にこの論文の著者は次のような突飛な仮説を打ち立てるに至った。つまり第三者がこの郷愁に干渉しているのだと。その手段の一つが『夕焼け装置』であるとこの章では示されている。夕焼け装置は私たちのような物語を渡る存在が観測しようとすれば自らその存在を隠すような造りになっているという。なるほど、確かに紛れもなく――物語の外側に位置している。
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