第414話 猛攻

ピロロロロロロ。



美しい笛の音が、荒れ地に響き渡っていく。


アイリは、ゆっくりと大地へ降りていった。


鳴り響く笛の音に、カシュマールは頭上を見上げた。ゆらゆらと、垂れ下がった皮膚が醜く揺れる。



「おっと、よそ見すんじゃねーよ」



笛の音に被せるように、風が震えてびゅうと鳴く。風の刃物となってカシュマールに襲い掛かり、カシュマールは慌てて後ろ向きにジャンプし、刀の猛攻を交わす。



「こっちにおいで、メーン」



素早くショウリュウの背後に回り込み、波動球を放つが、腕を振り回して受け止めた。



バチン!!



衝撃で、ショウリュウは地面を転がる。



「ショウリュウ!!」



「舐めんな」



腕には、びっしりと巻かれた札。なんとか相殺し、気迫で立ち上がると、再び風を叩きつける。


ショウリュウに背中を押されたのか、ルノももう一度立ち上がり、黒曜の光線を連打し畳み掛ける。



イカサーバル下風!」



ゴオオオオ!!



「わったった、わたたん」



風が地面を這うように吹きつけ、カシュマールが足元をばたつかせた瞬間、ルノがすかさず頭をめがけて光線を放つ。


連携技に、カシュマールはじりじりと後退した。


笛の音が遮られても尚、立ち上る煙。気配を肌で感じながら、アイリは強くカシュマールを見据えた。


アイリを覆うように、術の陣が完成する。



──冥地蘇生!!



どおおおおおおん!!!



解き放たれた幽霊達が何人も飛びだし、カシュマールに向かって一斉に手を伸ばす。


幽霊達があっという間にカシュマールを取り囲み、さりげなく視界を封じる。


カシュマールも稲妻の衝撃波で弾き飛ばすが、三方向からでは難しいようだ。少しでも反応させまいと、絶えず攻撃を繰りだす。



「手を緩めるな、やられるぞ!」



「うん!」



アイリは、意識が飛びそうな腕をぐっと掴む。


一瞬でも隙を与えれば、反撃される。そう確信している三人の、必死の猛攻だ。


本家の二人と、団のエース。上から様子を見ていたジェイは、よし、と拳を握る。



「よっしゃ、いける!」



「ウウウウウウウ、血祭り血祭り血祭り血祭り血祭り……」



カシュマールは相手しながらも、忌々しいと言わんばかりに頭を激しく振る。



「ウウウウウウウ……」



血祭りの相手──ヨースラは、さっさと上に逃げてしまった。カシュマールは苛立ちと歯痒さのあまり、腕のイボを掻きむしる。


そのイボが落ちた瞬間。



「グガアアアアアア!!!」



カシュマールが、空に向かい叫び声を上げた。耳を刺すようなキンキンとした響きに、三人も、飛行船にいた団員達も皆耳を塞ぐ。



「うわっ!!」



「何だこれ!!」



「はい、ここで空気をヨミマース」



──は、や、く、ち、ま、つ、り。



何本もの稲光がカシュマールの元に集まり、大きな渦を巻く。稲妻の渦は派手な音を立てて弾けたかと思うと、一瞬にして格子状の罠に生まれ変わった。



ドガガガガガガガガ!!!



まるで、稲妻の虫籠。網のような稲妻が、瞬きする間もなく辺りに弾け、三人を貫く。


声を上げる事も出来ず、三人はその場に崩れ落ちた。


その光景を上から見ていた団員達が、悲鳴を上げる。



「きゃあ!」



「ルノ!! アイリちゃん、ショウリュウ!!」



地面の岩が、黒く染め上げられる。


ずりんとイボが剥がれ、地面に小さな模様を作った。カシュマールは、三人の姿に舌舐めずりをして微笑む。


カシュマールの視線の先には、まだ倒れている三人の姿があった。



「血祭り、そろそろ始まりかな〜」



にじり寄るカシュマールの、歩く音だけが聞こえて来る。カシュマールは、アイリのすぐ近くで足を止めた。



──まだだ。



アイリは、目の前の砂利を掴んだ。



まだやれる、私──いや、私達は平気だ。絶対に倒すんだ!



「ひょ……?」



カタカタと首を鳴らすカシュマールの目の前で、アイリはゆっくりと立ち上がり、グッと笛を掴む。笛は、先端が僅かに欠けてしまった。



手のひらに食い込む石のせいで、手のひらがジクジクと痛む。



「アイリ……」



ルノも、無理やり体を起こして立ち上がる。すぐに消えてしまいそうな小さなダイヤが、ルノを守るようにチラチラと光り輝く。



ショウリュウも、ゆっくりと立ち上がった。千切れた札が、ふわふわと宙に舞う。



「あららん、おまえらもしかして……空気よめないさん?」



諦めないという強い意思、はっきりとカシュマールを睨みつける瞳。カシュマールは、嘲笑うかのごとくケタケタと笑う。



「ぼくっちょ、早く血祭りやりたいなぁ、やりたいねぇ!」



「祭りの名前にしては、センスが無いんじゃないですか?」



聞き慣れた声に、三人は驚いて振り返った。



「え!?」



「おい、何で……」



確かまだ、飛行船にいた筈。



カシュマールのイボで隠れた眼光が、愛情たっぷりのおもちゃを受け取った子供のように、これ以上無く輝く。



そこにいたのはヨースラだった。脱いだ上着を、何故か小脇に抱えたまま。



「ち、ち、血祭り!!」



上空にいたジェイは、焦って大きな声で叫ぶ。




「やから言うたやんか、降りんの早過ぎやってーーーーー!!!!」



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