第352話 愚か
「「「ビィイイイイ!!」」」
舞台を揺らす程の、大きな悲鳴が連なりビリビリと響く。
──メアさんに力を使わせてしまった、ここで終わらせる!
気合いの入ったヨースラの小刀が舞い、容赦なく切り付ける。何故か、仮面を取り囲む煙を。
刀が舞う度に、仮面がガラガラと力を無くし地面に落ちた。
「「「ビィイイイイ!!」」」
見えざる者はたまらず、仮面の幻を消し一体に戻す。仮面の群れは嘆きの表情を残し、魔法のように一瞬で消えてしまった。
後に残ったのは、本体らしき一体のみ。
「ミヤブッタナ、ムカツク!」
まさか、この身体の秘密を見破るとは。だが、身体をインの状態にしてしまえば問題無い。
インの状態になれば、エイドリアンといえどその目にこの姿を捉えることは出来ない。
一度逃れようと、見えざる者は徐々に煙を薄くしていった。このまま、闇に消えて潜んでしまえばいい。
「……無駄ですよ、僕には関係ない!」
ヨースラは指に、小刀を二本器用に挟む。
そして、一気に振り払う。煙に腕ごと小刀をねじ込みながら。
「ビィイイイイ!!」
派手に中から身体を切り裂かれ、再び煙があらわになる。インの状態を保てず、ウカになったのだ。
「イテェ、イテェ、ビビィ」
半泣きの見えざる者の前に、仁王立ちする姿。
「……オヤ?」
「つ〜かま〜えた! ウフッ」
カリンは満面の笑顔で煙を鷲掴みにすると、一気に空中に打ち上げる。
強いウカの状態になれば、もう怖いものはない。
「ビビビィイイイ!!」
「カリンちゃあああんあっぱあああああすぺしゃるぅううう!!!!」
美しく飛び上がり、体を空中で捻り、強烈な拳で一撃。
ドゴォオオオオオン!!!
「お、おお……」
観客達が息を呑む中、ノックダウンした見えざる者は地面に叩きつけられ、完全に沈黙した。
カランカランと、最後の一枚だった仮面が地面に落ちて音を鳴らす。
「ふぅ、これでもう大丈夫ですね」
「大丈夫……なのぅ?」
首を傾げるカリン。
そうだ、今は公演中だったのだ。この散らかった惨状を、どうすればよいのやら。
観客達も、戸惑いを隠せず狼狽えている。
「メアちゃん、力使ったけど大丈夫ぅ?」
「あ、ああ、身体はな」
心は落ち着かず、全く大丈夫ではない。
その時、カリンとヨースラに近付く者がいた。
「この化け物を退治し皆を守ったこと、礼を言う」
「マ、マッキンリー将軍!」
メアの父親だった。
周りのナーガの軍人達の制止を振り切り、堂々と二人に問いかける。
「娘が何をしたのか、そなた達は知っているようだな。この化け物の正体も知っているようだが、聞かせてもらおうか」
「父上」
まだ若く見えるが、威厳のある言葉。二人は目を見合わせると、頷きあう。
「……見えざる者って、聞いたことありませんか」
見えざる者のこと、能力のこと、エイドリアンのこと。
一緒に話を聞いたメアとスカイも、静かに耳を傾ける。
「では何故そのような化け物が、この国にいるのだ」
「……それは分かりません。ですが、そこの方が知っているようでしたけど」
ヨースラはチラッとゼフに視線を送り、ゼフもピクリと肩を震わせ反応する。
彼等はどういう経緯か、見えざる者と手を組み劇場に送り込んできたのだ。そう告げると、マッキンリーの目が鋭くなる。
「何処の馬の骨とも分からぬ化け物と、手を組むとは」
そして観客を危険に晒し、公演を台無しにした。そう指摘すると、ゼフの顔がみるみる赤く染め上がっていく。
「ああそうだ、愚かだと笑えばいい。だが、我々よりもっと愚かな者がいるだろう?」
「……誰の話だ」
「分からないのか!? いや、分かっているに決まっている!!」
堰を切ったように、身を起こす。
「この国はどこまで成長しない!? 空気は汚れたまま、民は皆似かよった食物ばかり口にし、明日の仕事すら見つからない!!」
枯れた土でも育てられる作物は限られ、特定の食べ物しか口には出来ない。辺りを見渡せば、同じような建物ばかり。
「全ては政府が愚かだからではないか。にも関わらず、民は皆愚かな軍の命令に従っている!! 健気、いや愚かにもな!!」
ナーガの軍や観客達も、彼の演説に聞き入っていた。気まずそうに目を伏せる者もいる。
「我々が行動を起こさずとも、いずれこの中の誰かがやっていたことだ!!」
そうだろう、と告げる彼の言葉を、否定する者はいない。
「だから、あの協力者と手を組んだ。ココロ大公の弟であるそなたの身柄があれば、大公も少しは話を聞く気になるであろう?」
「……え?」
「大公さんの弟?」
今度は、ヨースラとカリンが驚く番だった。
ココロ大公は、この国の君主の名前ではないか。メアの父親が君主の弟、つまりメアはココロ大公の姪、ということになる。
「話がしたかったのは、兄上の方ということか」
「そうだ、こうでもしなければ我々の声など届かない。七光りのお前に言ったところで、何かが変わるわけではあるまい」
軍に従うだけの、ただの七光り。
マッキンリーの眉に、くっきりと線が刻まれる。マッキンリーが口を開きかけた──次の瞬間。
「それは心外だな」
その言葉を放ったのは、マッキンリーではなかった。
奥の扉から、堂々と一人で入ってきた者がいた。わざわざ靴音を鳴らして歩く男。
軍服の胸元についたメダルが、じゃらじゃらと擦れて存在を主張する。
「我が仕事の邪魔をし、姪の舞台を邪魔した挙げ句、我が弟を侮辱するとは」
「コ、ココロ大公殿下!!」
ナーガの軍人達が、大慌てで姿勢を正す。
ココロはマントを鬱陶しそうに振り払うと、キザに微笑んでみせた。
「その口で我が時間を奪い、この我と話などと、てんで呆れる」
ゼフは茫然と、ココロを見つめた。
「馬鹿な……。テイクンからこんなに早く、戻って来られる筈が……」
「どうしたのだ、我に用があったのではないのか?」
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