第5話
びくびくと跳ねるからだが冷めるまでの間、私はきらきらした光の中を漂っていて、その中では麻生まで妙にきらきらして見えた。
いけない。快感に流されてはいけない……。
麻生が、私の髪を梳いている。
私は自分の体が思うままにならなくて、よくって、涙がぼろぼろだったので、麻生はついでに目頭も拭いた。
「児嶋さんが泣いてるのって、ほんとかわいい」
私が意識を飛ばしている間、肩を抱いていた麻生の腕が、温かく感じられて……。
――なぜこうなんだろう。
それとも、私だけなのだろうか。手が触れ合えば、体が触れ合えば、ほっとした気持ちになってしまう。相手を受け入れる気分になってしまう。触れ合ったのに、そういう気分になれなかったときの拒絶感は厳しいけれど。
何時間、麻生に責められていただろう? どれだけしがみついただろう。気持ちでは麻生を受け入れるとも、入れないとも、何一つ決められていないのに、何度も何度も体を溶かされたせいで、皮膚は麻生に触れられているのが自然なくらいに馴染んでしまっていた。
何回かの恋で、学んだはずだった。体の関係を早くからもってしまうと、お互い理解する時間がなくなる。相手に依存しすぎる。相手は、それで私を手にいれた気分になってしまう。早くから触れ合うことで、近づいた気分になってしまうことが、恋愛をだめにすることが多かった気がする……。
もし、麻生が男だったら、私はもっと早くから意識しただろうか? もっと早く警戒しただろうか。そうしたら、部屋に行ったりしなかったかもしれない。麻生との関係が大切だったら。
最近、ずっと自分のペースで駆け引きしながら恋愛をしていたような気がする。こんなふうに、ペースを無理やり崩されて、どうしていいのかわからない。
人を好きになってしまいたくない。本当に好きになるのならともかく、誰かの心にこんなに簡単によりそってしまいたくはない。すぐに甘えたがるくせが、魔物のように増長して、私までも飲み込もうとする。そんなのは、いやだった。
だいたい、麻生は恋愛対象でも何でもなかったはずなのだ。ひとことだって、好きだとか付き合ってほしいとかも言われていない。
落ち着いてくると、麻生は私を腕に抱いたまま枕の位置を直して、
「さぁー寝ましょう。さぁ寝ましょ」
あっけらかんと、普通の友達同士であるかのようにうきうきと言い、私を両手で抱きしめた。これが寝る体勢ですよ、当然でしょと言わんばかりだった。
「さぁ、私も開き直ったんだから、児嶋さんも開き直って、寝ましょ。明日シャワー浴びましょうね」
「開きなお……!」
しかし、麻生は私を腕で囲んで、よしよし、と頭を赤ちゃんでもあやすように撫で、にこっと笑って、額をくっつけてきた。
「どう?」
「な、なにが」
「私のこと、好きになったりしません?」
呆れてそっぽを向くと、麻生は黙ってしまった。しばらくしてから、こちらを向かせようと肩を引っ張ってきた。私が応じないので、麻生はあきらめたのか、背後でじっとしている。
「明日から、普通に接する自信がないよ」
言ってから、自分の声音がかなり強張っているのに気づいた。
……ひっく。
(え?)
麻生の嗚咽の声が背後で聞こえ始めた。
私は焦ったが、慰める気分でもなかった。
……ズッ。ひぃぃっ……ズッ。
ああ! 気になる!
こっちが泣きたいんだから、泣かないで!と言おうと思ったころ、麻生が後ろから手を回して、ひくひく言いながら腕に触れてきた。軽く、つつ、と遠慮ぎみに触れたあと、後ろから抱きしめてくる。ギュッと力を入れられたが、苦しくはなかった。
私は動けないまま、何も言えないまま、うなじに麻生が頭を擦り付けてくるのを感じていた。
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