花絵②

部屋に入ってローテーブルの前に座り、花絵を待った。修学旅行がいよいよ来るんだなとか、お土産はどんなものがいいかと考えていると部屋のドアが開いた。

「お待たせ」

花絵はオレンジジュースを乗せたトレーをテーブルに置き、2人分並べてくれた。普段は飲み物は花絵ママが出してくれていた、だけどさっきの間を繋ぐ為に持ってきたのだと察した。

「ありがとう」

隆平への拒否感が気になるものの、私の頭の中は計画の事でいっぱいになっている。

「夕夏、髪伸びたね」

「うん、もう3年は伸ばしてるかな」

中学に上がるのを機に始めた事だった。

「花絵のロングも見てみたいけど伸ばす予定ないの?」

「長いと勉強するとき邪魔になるから」

ストローで氷を混ぜながらジュースを口に含む。少し俯くと顔にかかるミディアムヘアはもう充分邪魔そうに見えるけど花絵が髪を伸ばさないのは変化を苦手とするからだと思っている。この部屋もいつもと変わらず何ひとつ散らかっていない、すべての物が定位置に落ち着いている。

「ところで計画についてだけど…」

メモと地図を広げて話は始まった。そう、修学旅行で私は告白する。それはあくまで好きという気持ちがあるという事を意識させるのが目的であって、今の時点で隆平が私と付き合うなんてことは考えられない。それでもずっと友達のままで傍にいるという選択肢よりは可能性が生まれると思うと前向きになれる。

花絵は言った。

「修学旅行最終日、お昼のバーベキューが終わった後に宮手前神社に呼び出しって事で良かったよね」

「うん、私と花絵で一度お参りに行って後で隆平を呼び出す。探し物を手伝って欲しいって事でね」

「神社に戻る途中で私は先生に頼まれてる事があったと言って引き返す、夕夏と隆平は2人で神社に向かう」

「で、告白。完璧」

隆平がどんな顔をするんだろうと考えるとちょっと笑えた。

「神社にある”結び桜”ってやつ、すっごい楽しみ」

「頑張ってね」

丁度ドアのノックが聞こえて花絵ママが桃のタルトを運んできてくれた。私は機嫌良くそれを食べながら楽しい修学旅行を思い描いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る