Track 03. 心の炎
子供の頃から一番になれと言われてきた。母の栄光を継ぐこと以外、
『続きまして、準決勝第一試合を開始します。
「わたし……日本一になったのに」
真っ白な病室に動画の音声と自分の声だけが寂しく響く。ベッドの上に上体を起こしたまま、瑠璃は
『インターミドル個人戦、遂に決勝戦です!
敵と呼べる敵など一人もいなかった
『遂にこの時が来た。春日先輩、今ここであなたを倒します!』
びしりと指を向けて宣戦布告してくる後輩に、画面の中の自分がふっと不敵に笑う。
『できるわけないじゃない。あなたのお母さんが一度でもママに勝てたことがある?』
『……あたしは、母とは違います!』
『同じよ』
手の内など知り尽くした後輩の
『聴かせてあげる。「女神の聖域」――』
名古屋エイトミリオンの一期生のみが歌うことを許されたその曲。審査員が、対者が、観客が、太陽の輝きに目を焼かれ息を呑む。名古屋の伝説のセンター、春日ジュリナの姿を自分の背後に見て――。
「春日さん。面会ですよ」
「……はい」
動画を止めて視線を振る。からりと開いた扉から姿を見せたのは、先輩の
「冴子さん、鈴奈さん……」
看護師に一礼し、二人が病室に足を踏み入れてくる。彼女達の私服姿を見て、瑠璃はやっと今日が休日なのを思い出した。
「ルリ、大丈夫?」
どこか遠慮がちなキャプテンの言葉に、瑠璃は無意識に首を横に振っていた。
「……まだ、足が痛いんです」
先輩達から目を逸らして瑠璃は言った。それが嘘であることは二人もわかっているはずだった。
ベッドの傍らのテーブルに見舞い品らしきお菓子の箱を置いて、二年生の鈴奈が「ルリ」と声を掛けてくる。
「来週の
「……でしょうね」
「わかってるなら、出てよ、ルリ。踊れないならスタンドの曲だけでもいい。悔しいけど……『
鈴奈の声はいつになくピリピリしていた。決して気性穏やかではない彼女が、きっとこうなるだろうことは瑠璃にもわかっていた。だが、わかっていても、もう自分は……。
「ルリ!」
自分に迫る鈴奈の手を、キャプテンの冴子が後ろから掴む。
「やめなさい。そういう言い方はしないって言ったでしょ」
「……じゃあ、どうするんですか、冴子さん。このままこの子のワガママを聞いとくんですか?」
「いいから、鈴奈、あなたは余計なこと言わないで」
鈴奈に身を引かせてベッドの傍に寄り、冴子がそっと瑠璃の目を覗き込んできた。
「ごめんね、ルリ。わたし達は……あなたが自分の足で戻ってくるのを待ってるから」
「……冴子さん」
どんなに顔を伏せていたくても、何も言葉を返さないわけにはいかなかった。
鈴奈が怒っているのも無理はないと思う。ワガママと言われるのも仕方がない。きっと、この場に姿を見せないアイドル部のチームメイトの多くは、冴子よりも鈴奈に同調していることだろう。
高校進学と同時にわざわざ東京分校に移って、名門チーム「Marble」のセンターの座を先輩達から奪って……その挙句がこれだ。勝つことだけが自分の役目なのに、その使命を果たすこともできず――。
「……ごめんなさい。冴子さん、鈴奈さん」
溢れる涙を瑠璃は敢えて抑えようともしなかった。申し訳ないと思う気持ちは本当だった。こんなことなら、自分なんかチームに入らなかったほうが……。
「謝るくらいなら元気になりなさいよ、ルリ!」
「鈴奈、やめなさいって」
「
「鈴奈!」
二人の声を聞きながら瑠璃はただ顔を伏せていた。自分のせいで争う先輩達の姿を目の当たりにしても、瑠璃の心にはもう、彼女達のために立ち上がる気力は残されていなかった。
自分にはただ謝ることしかできない。それが皆の望みではないとわかっていても。
「本当にごめんなさい。でも……わたしは、戻れません」
「ルリ……」
二人はもう瑠璃を説得しようとはしなかった。最後に「お大事にね」とだけ言い残して、冴子が扉に手をかける。
病室を出てゆく間際、冴子が寂しそうな声で鈴奈に言った一言を、瑠璃の耳は無意識に捉えてしまった。
「わたし達じゃ、あの子の力にはなれない――」
たん、と静かに音を立てて扉が閉まる。
溢れる涙をそのままにして、瑠璃はベッドの上でぎゅっと膝を抱えた。衣擦れの音と自分の嗚咽が、一人の病室に響いた。
冴子が自分を大事にしてくれているのはわかっている。鈴奈だって、自分の存在を認めてくれているからこそあんな言い方をするのだろう。
そんな先輩達の気持ちをわかっているからこそ、立ち上がれない自分がただただ情けなかった。
「……わたしは……」
シーツの上の
母から貰ったティアラを頭に差し、優勝旗を抱いて満面の笑みを浮かべる一年前の自分。だが、闇に囚われた今の瑠璃の脳裏に浮かぶのは、インターミドル優勝を称えてくれる人達の声ではなく、口さがないネットの住人達の
『
『所詮こいつは母親と同じ。空いた玉座にただ座っただけ』
頭から追い出そうとすればするほど、そんな言葉ばかりがうるさく響いてくる。
若い頃の母もこんな気持ちだったのだろうか。こんな闇を抱えて、彼女は戦い続けていたのだろうか。
「わたしは……わたしは! 日本一になったのに!」
瑠璃の叫びに答える者は誰もいなかった。膝を抱えたままぶんぶんと頭を振っても、認めたくない悔しさの連鎖が容赦なく胸を
◆ ◆ ◆
『ルリちゃんは、高校から東京だよ。もう手続きしておいたから』
『どうして? ママ。わたし、名古屋の街が好きなのに』
『東京分校のアイドル部のほうが環境がいいもの。ルリちゃんのためだよ』
母に言われるがまま、自分は住み慣れた名古屋を出て東京分校の寮に入った。今も昔も、瑠璃の人生の全てを決めているのは、遠く海を隔てたハリウッドで活躍する偉大な母に他ならなかった。
『灼熱のユイちゃん。あなたはきっと、わたしの前に立つと思ってたわ』
春の地区予選で
中学の大会では得られなかったもの。大舞台で互角の相手と斬り結ぶ楽しみ。そして、その強敵を実力でねじ伏せる楽しみ――
『楽しい戦いをありがとう、ユイちゃん。でも、ちょっと残念だな。あなたはもっとやってくれると思ってた』
『まだ、終わってないでしょ……!』
『何曲歌ったって無理よ。わたしの後ろには春日ジュリナがいる。あなたの後ろには誰かいるとでもいうの?』
空いた玉座に座っただけだなんてもう言わせない。スーパー子役アイドルとして一世を風靡した火群結依の首を土産に、堂々全国に名乗りを上げ、高校でも頂点を極めてみせる――
――だが。勝利を確信した瞬間、瑠璃の想像を超えた出来事が起こった。
『あの鳥たちには――夢はあるのかと――』
一度は戦意を喪失したかに思われた結依が、再び立ち上がり、瑠璃の聞いたことのない歌で満員の客席を感動の渦に包み込んでいく。先程までの「灼熱のユイ」とはまるで違う輝きを纏って。
『違う……ユイちゃんじゃない』
『何を言ってるの? ルリ』
『冴子さんには見えないんですか!? あの子の後ろに――もう一人いる!』
気付けば瑠璃は足の震えを止められなくなっていた。そして、二曲目の判定は結依の――敵方「ELEMENTS」の勝ち。
震えてステージに出られない自分に代わって、三曲目は冴子達が、結依を欠いた「ELEMENTS」の四人を蹴散らしてくれたが――
『ルリちゃんは、あの頃のジュリナにちょっとだけ似てきたよね』
『っ……!』
チームの優勝の喜びは、閉会式で
『今のあなた達には、まだまだ決定的に足りないものがある。だから――わたしの娘には勝てない』
ぞくり、と身体が射竦められる感覚。
わたしが、勝てない――?
結依の後ろにいた誰かにも負けた上、指宿リノの娘とやらにも……!?
『所詮こいつは母親と同じ。空いた玉座にただ座っただけ』
『ルリちゃんは世界女王様の娘であらせられるぞ』
『Jが女王とか笑わせるなよ。壬生町も羽生も卒業して、指宿・徳寺・茨木不在の総選挙で一位に据えられただけじゃねーか』
『まあまあ、ルリちゃんはツムギとマドカが抜ける高三の年にまた全国優勝するから』
『指宿の娘が出てくるんならもう無理だろ』
このままでは終われない。これ以上、野次馬達に好き勝手なことを言わせておくわけにはいかない。
『大丈夫、ルリ?』
『冴子さん。壬生町とのマッチアップ、わたしに行かせてください』
『……言われなくてもそのつもりよ。あの怪物に勝てるのはあなたしかいない。信じてるからね』
悔しさに拳を握ったまま、瑠璃は春の全国大会のステージに立っていた。
組み合わせは、準決勝で
翌日にはテレビ局主催の新人トーナメントも控えている。あの火群結依も、指宿リノの娘とやらも倒し、自分が日本一になってみせる!
だが――
『あはは。どこ見てるの? ルーリちゃん』
『っ――!』
準決勝で向かい合った「
『何考えてるのか当ててあげる。決勝のことと明日の新人戦のことでしょ。あははっ、ルリちゃん、わたしのことナメてる?』
何を歌っても敵わない。何を踊っても届かない。全ての炎が、あの波に飲み込まれる――
『教えてあげるよ。誰が一番か』
それでも自分は――
『……負けられない。負けるわけにいかない!』
最後まで壬生町に抗おうと、強くステップを踏み込んで――そして。
『くっ……!』
足首を捻り、舞台裏で自分は倒れた。だが、それ以上に深い傷を刻まれたのは、一番になるという使命一つで生かされてきた自分の心だった。
そんな瑠璃の心を、駄目押しで砕くように――
『スクールアイドル・ニュースターズ、遂に決着の瞬間です! 決勝戦、三曲目の判定は――審査員票、
翌日の新人トーナメントで、火群結依は為す術なく指宿瞳に負けた。この自分に一矢報いたあの結依が、指宿リノの娘に手も足も出ず……。
『皆さん、お待たせしました。わたし達のルリが帰ってきました!』
それから数日後、せっかく先輩達が整えてくれた復帰の舞台でも、自分は満足に歌い踊ることができなかった。
もう足は治っているのに。ここには自分を称えてくれる人しかいないのに――
『空いた玉座にただ座っただけ』
『わたしの娘には勝てない』
『教えてあげるよ。誰が一番か』
『っ……あぁぁっ……!』
震えて立てない。何も歌えない。自分にはもう、何もない――
◆ ◆ ◆
冴子達が帰ってから、どれだけ一人で震えていたのかわからない。
闇の中を漂っていた瑠璃の意識は、ふいに、
いつの間にか病室の窓からは夕陽が差していた。シーツの上の画面には、プロレスのチャンピオンベルトのアイコンと「JURINA」の文字。
「ママ……」
瑠璃は片手で涙を拭い、
「……はい」
『ルリちゃん、大丈夫?』
遠く九千キロの彼方から届く母の声。母がいるアメリカは今、深夜のはずだったが――
『冴子ちゃんがラインくれたんだけど……もう戻らないって言ったの? ルリちゃん』
「……ママ、わたし……」
嗚咽に飲まれる自分の声を瑠璃は意識のどこかで聞いていた。謝るでもなく、聞かれたことに答えるでもなく、瑠璃の唇は勝手に言葉を吐き出していた。
「わたし、一番だったはずなのに……。日本一になったはずなのに……!」
中学時代の栄光の記憶が、閉じた瞼の裏で歪んで消える。
「高校に上がったとたん、ユイちゃんにも負けて、壬生町にも負けて……。わたしに勝ったユイちゃんは、指宿瞳に負けて……」
敵の名前を挙げるたびに自分の存在が削られていくような気がした。何のために自分がステージに立っていたのか、もう何もわからなくなる。
「ママ……。わたしは今……この国で何番目なの……!?」
泣きじゃくる自分の声に、母の優しい声が被さった。
『何番目だろうと、ルリちゃんはママの誇りだよ』
「でも! わたし、ママのかわりに名古屋をトップにしなきゃいけないのに……!」
中学に上がる前からずっと、それだけが自分の存在意義だと信じてきた。他の誰にも任せてはおけない。春日ジュリナの後継者は、この世に自分一人しかいないのだ。
しかし、名古屋を日本一にするどころか、今の自分はスクールアイドルの世界でさえ一番になれない。自分が負けるたび、母の名前にも、名古屋エイトミリオンの看板にも傷が付いていく……。
『……ママにもそんな時期があったな。自分だけ世界から置き去りにされてるみたいに感じてたことが』
えっ、と瑠璃が声を漏らすと、母は微かに笑って続けてきた。
『初めて世界女王になった年、わたし、誰にも褒めてもらえなかったんだよ。指宿さんには女王の名を汚すなとか言われちゃうし、あかりんは平気で下剋上狙ってくるし、サクラはわたしとの勝負を置いて韓国に行っちゃうし。レナちゃんが女優として成功しだしたのもその頃。わたしだけ置いてかれてるみたいで、世界女王って何だったんだろう、って。藻掻いてたなー、あの頃は』
苦い思い出を笑って話せるのは、それを乗り越えてきた者の特権に他ならない。
母に苦しい時期があったことは瑠璃も知っている。部活動の勝敗なんかとは比べ物にならない重圧を背負って、それでも彼女は戦い抜いてきたのだ。ファンの期待とアンチの悪意を全身で受け止め、名古屋エイトミリオンを日本一のグループにするために。
何度も傷付き、倒れかけ、そのたび立ち上がり続けてきた偉大な強者。
「ママ。わたしは、どうしたら……」
自分には、母のような強さはない。母が自分の年の頃に得ていた経験も、そこからくる自信や矜持も、内面から
そんな瑠璃の思いを見透かしたように、母は言った。
『ルリちゃんには、近くで甘えさせてくれる先輩がいるじゃない。それはママには得られなかったものだよ。それに、同世代のライバルもね』
「えっ……?」
『一人で立ち上がれないなら、誰かと手を繋ぎあえばいい。……ママが言えるのはそのくらいかな』
「誰かと……手を……」
瑠璃が涙声で繰り返すと、電話の向こうで、うん、と母が頷くのが見えたような気がした。
夕陽が街の向こうに沈もうとしている。いつしか涙が引いていたことに瑠璃が気付いたとき、病室の外から、こつこつとゆっくり近づいてくる足音が聴こえた。
「ルリ、入っていい?」
扉をノックする音。声の主は冴子だった。
「ママ……冴子さんが来たみたい」
『うん。じゃあ、ルリちゃん、元気出してね。ママはいつでもあなたを見守ってるから』
「……ありがとう、ママ」
母との通話を終え、瑠璃は急いでハンカチで目元を拭って居住まいを正し、扉の外に「どうぞ」と返事をした。数時間前にも姿を見せたばかりの冴子が、今度は何の話だろう――
しかし、扉が開いた瞬間、思いもよらなかった光景が瑠璃の目に映った。
「お邪魔します」
冴子に連れられて病室に入ってきた二つの人影。それは、
「ユイちゃん……!?」
瑠璃は思わず身を乗り出していた。上級生なのに遠慮がちに会釈してくる華子の横から、結依がなぜか口元に微笑を浮かべて「ルリちゃん」と名を呼んでくる。
「さっき学校まで来てくれたの。ルリにどうしても会いたかったんだって」
「どうして……?」
結依がベッドに歩み寄ってきた。私服に
「ルリちゃん。わたし達と一緒にやらない?」
「やるって、何を……?」
目を
「来週の
瑠璃は混乱する頭でその文意をなんとか読み取っていた。「Marble」のライブに他校のスクールアイドルをゲストとして招くこと自体は、それほど珍しいことではなかった。それが公式大会で敵対する相手であっても。
だが、結依はなぜ、今の自分にそんな話を……。
「……わたしは」
出られない、と言おうとする瑠璃の言葉を、結依の声がふわりと遮ってきた。
「ルリちゃん」
結依はベッドのすぐそばまで来ていた。思わず身体を後ずさらせようとして、思いとどまる。自分をじっと見つめている結依の瞳に、戦場で向き合った時とは全く違う、柔らかく温かい炎が宿っているように見えたから。
「ツムギさんのことが怖いの、わかるよ。わたしも、あれからずっと瞳ちゃんが怖くてたまらないの。……それに、ルリちゃんのことも」
「わたしのことも……?」
結依の言葉が瑠璃には意外だった。この自分に臆せず立ち向かい、得体の知れない誰かの歌声で自分を打ち破った、この火群結依が……?
「……でも、わたし、ルリちゃんからも瞳ちゃんからも逃げたくない。だから、ルリちゃんにも立ち上がってほしいの」
「どうして、ユイちゃんがそんなこと……。わたしが大会に出てこないほうが、あなたには都合がいいんじゃないの?」
瑠璃が戸惑いながら問うと、結依は「ううん」と首を横に振った。
「わたし、まだ、実力でルリちゃんに勝ってないもん。ルリちゃんにも見てほしいの。あれから、わたし達がどれだけ強くなったか。夏の大会までにどれだけ強くなれるか」
「ユイちゃん……」
「それに、わたし達、今は敵同士でも、将来はエイトミリオングループを一緒に引っ張る仲間でしょ?」
「っ……!」
どくん、と自分の心臓が脈打つのを感じた。
身体がかっと熱くなる気がする。全身の血流を駆け巡るこの熱さは、「灼熱のユイ」の炎か、それとも――
「一緒に見せつけようよ、ルリちゃん。瞳ちゃんにもツムギさんにも。わたしもルリちゃんも、こんなところで終わりじゃないって。心の炎が消えない限り、わたし達は何度でも立ち上がれるんだって!」
心の炎――。
瑠璃はしばらく目を見開いたまま動けなかった。激しく脈打つ胸を片手で押さえたとき、自分の中から噴き出す太陽の炎に気付いた。
結依の肩の向こうで、冴子がこくりと頷いてくる。華子もまた、控えめながらしっかりした視線をこちらに向け、笑って頷いてきた。
一人で立ち上がれないなら、誰かと手を繋ぎあえばいい――
母の優しい声が脳裏に蘇る。いつの間にか、目の前には結依が小さな手を差し出してきていた。
「……後悔しても知らないからね。わたしを見殺しにしなかったこと」
「大丈夫。わたし、全力のルリちゃんに勝って、先に行くから」
結依の燃える瞳に自分の顔が映っている。久しぶりに思い出した気がした。わたしは――「暁のルリ」は、こんなふうに自信満々に笑うのだと。
「いいわ、ユイちゃん。今だけこの手を繋いであげる。夏の予選でまた、全力で潰しあうために」
手のひらの汗をシーツで拭い、瑠璃は結依の手を握っていた。結依がにこっと微笑み、その手をぎゅっと握り返してくる。
ばちり、と
そうか、母の言った通り――
あの母でさえ持ち得なかったものを、自分はもう得ていたのだ。
窓の外の日はもう沈んでいた。だが、ライバルと握り合った互いの手の熱さは、その心の炎は、いつになく激しく燃え盛っていた。
太陽の女神の血を引く自分が、一度や二度の敗北で消えるわけにはいかない。
ここからが、反撃の始まりだ。
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