第44話 女主人

電車内で、部下と部下ですら知覚できなかった女に痴漢されてしまったボス。その恐怖を振り払うようにボスは、例の物を受取るため目的地に向かう。


 その場所は、閑静な田舎の山の中にひっそりとたたずんでいた。丸い石であしらわれた道を歩いていくボスと部下。


 しばらく歩いていくと、目の前に少し大きめの庵が現れる。外から中を覗くボスと部下。


 あたりには独特の甘い香りが漂い、庵の中では1人の女が何かを行っていた。


 その女の作業はまさに職人技で、てきぱきとこなされる様子をボスと部下はじっと眺めていた。


 しばらくして作業がひと段落した女は、外で見ている2人に気がつく。あぁ!という驚いた顔をした後、笑顔で戸を開ける。


「いらっしゃい。」


 女はボス達を歓迎する。彼女は酒蔵の女主人だった。綺麗な黒髪が似合う和服のお姉さんで、このような小さい庵で特別なお酒を作っている。


 ボス達が言っていた例の物というのが、この酒であった。ボスは悪の組織の長たるもの飲む酒にはこだわらなければいけないと考える。


 その結果、ボスがたどり着いた酒が、女主人が作成したこの酒であった。女主人がボス達に酒を卸すようになってからもう4〜5年は経過している。


「こんばんは、夜中に申し訳ない。酒が出来たという報告があったので、取りに来ちゃいました。」


 ボスは、申し訳なさそうに笑って、頭を下げる。


「いえいえ、そんなに気にしないでください。私も1人でここにこもっていたので、お話相手がいるだけで嬉しいわ。」


 女主人はニコニコしながら、髪をかきあげる。ボス達は鼻腔に甘い匂いを感じた。


「ところで、ボスさん。もういいかしら?」


 女主人は、うずうずしながらボスに問いかける。


「えぇ、どうぞ。やっちゃってください。」


 ボスはとてもいい笑顔で快諾する。いや、あの、ちょっと...。と部下は少し逃げ腰で2人を見る。


「部下ちゃぁぁぁぁぁん!!」


 夜の山々にこだまする声で女主人が叫んだ後、部下は女主人にホールドされていた。


「はははは、これは素晴らしい光景ですな。この光景を眺めながら酒が飲みたい物だ。」


 高笑いをしながら、女主人にもみくちゃにされる部下を眺める。


「そういえば、うちで最近こんなのも出したのよ。」


 女主人は、そう言うとボスに紙パックを投げた。気軽に飲めるでしょ?と女主人は部下の匂いを嗅ぎながらボスに説明する。


「これはいいですねぇ。」


 そう言いながら、部下と女主人をじっと見つめ紙パックにストローを刺すボス。


「あぁもう勝手にしてください。」


 女主人にされるがままになる部下。初めの方こそ困惑していたこの儀式だが、今では部下も慣れた物だ。


 女主人がボスに興味を向けていないだけ得ではあるし、何より部下自身も女主人に様々な神経を興奮させるようなお酒をもらったりしている。


 部下にとっても、この女主人とは仲良くしたい相手なのだ。

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