第23話 女帝とボス
女帝はボスの頭に熱いお茶をぶちまけ、部下が拳銃に手をかけようとする。
それを制したボスに、部下は全く納得がいっていない様子であった。
「ボス、一体この女とどういった関係なんですか?」
部下は腹立たしそうに女帝を睨みつけながら尋ねる。
しばらく考えてボスは答えた。
「ただの学生時代の先輩だよ。」
そんなわけないでしょう!部下は憤った。
その様子を見て笑いながら、女帝は本当よ。と答える。
「私がお茶をかけたのも学生時代の延長ってところかしら?」
そう言いながら愉快そうに微笑む女帝。
コイツ...。そう言いながらハンカチでボスの頭を拭く部下。
「ボスが学生の時、この女にいつもこんな事をされていたんですか?」
部下は尋ねる。
ボスは正直に、あぁ。と答えた。
「ところで」
女帝は話を始める。
その顔に笑顔はもうない。
「どうして私の前から消えたのかしら?」
女帝はボスの顔をじっと見る。
ボスは女帝から目を逸らす。
「ただ親の都合で転校しただけですよ。珍しいけれど無い話ではないでしょう?」
ボスにも親の都合があるのかと部下は少しだけ驚いた。
「それにしたって私に一言も無く、去っていったわよね。私はあんなに貴方を愛していたし、貴方の初めてだって私がもらってあげたし、それに....!!」
徐々にヒートアップする女帝を遮り、ボスは口を開く。
「そうなのかもしれませんが、あなたの執着と暴力は異常だった。凡人の私には到底耐えきれませんよ。」
その言葉に、うるさい。と一言吐き捨てた女帝。
「確かに私はあなたに暴力を振るったかもしれない。それでもあなたはあの時確かに悦んでいたはずよ。私があなたのその表情を絶対に見逃すはずがないもの。」
ボスはため息をつく。
「まぁそれも過去の話です。どうでしょう、また今度飯にでもいきましょうよ。今日の所は、この辺でお開きという事で。」
そそくさと立ち上がり、退散しようとするボスの肩を両の手で押さえつける女帝。
絶対に逃さないからとボスの耳元で囁き、少し笑った。
「今日、私がこの場所に来たのはね。君をこのちっぽけな檻から解放してあげようと思ったからでね。」
女帝は話し始める。
「君も退屈しているんじゃないか?こんなちっぽけな組織の中で、何ができる?」
「君の力を私はよく知っている。私と君が組めば、どんな夢物語もたちまち現実にできる。だから私は君を好きになったんだ。確かに愛情表現は少し歪だったかもしれない。でも、それは若気の至りだ。今ならやり直せる。だから、君は私のところに来い。部下達が心配なのか?それなら私が責任を持って彼ら彼女らに不自由ない暮らしを約束しよう。だから....。」
ボスは、表情を曇らせる。この先でボスがする返答は決まっている。決まっているが、その返答を行う事で女帝が自分たちに何を行うのか、それも予想がついている。
自分の返答で、仲間を不用意に危険に晒してしまうのは絶対に避けたかった。
ボスのこめかみに汗が伝う。
その様子をじっと見ていた部下。
「大丈夫ですよ。」
部下は呟いた。その声はボスの耳元にだけ届いた。
そうか。ボスは呟いた。
ヒートアップする女帝の話を遮り、女帝の誘いを断ろうとする。
「先輩のお誘いは嬉しいのですが、辞めておきます。貴方は私を過信しているみたいですが、貴方のお役には立てそうにありません。それに、私はこの組織が好きなのです。」
部下はその言葉に、少しだけ笑顔を見せる。
「そうか....。まぁ、君ならそう言うと思ったよ。」
女帝は落ち込んだ様子で呟く。
女帝はボスともう一度面と向かって、ボスに語りかける。
「それじゃあ、この組織が無くなれば、君は私の元に来てくれるのかな?」
その黒く濁った目には、憎しみと殺意しか残っていない。
ここからが、本番だとボスは気合いを入れ直した。
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