第3話 ボスと部下の関係

聞こえてくる足音と、大きな殺意。


これらを発している者の正体をボスは知っていた。




努めて震えを抑えながら、冷静にソファに座り直す。




奥のクローゼットから不安そうに、人質の少女がボスを覗く。




ボスはぎこちない笑顔を浮かべながら、人差し指を口元に持ってきた。




コンコンコン。


この緊張感とは対照的な柔らかいノックの音が聞こえる。




「入れ。」


ボスは言った。




ドアが開くと同時に、物凄い速さで黒い影がボスの方に飛んでいった。




「ボスーーーー!!!」




その声を置き去りにして、ボスに抱きついたのは、人質の少女と変わらない背丈の可愛らしい女の子であった。




「やぁ、部下。」


ボスは冷静に答える。




ボスの呼び方、少女の服装が自分を連れてきた黒服と同じ物であることを鑑みると、この女の子も組織の人間なのだろう。




少女は、自分と変わらない人間がこの組織に属していることに驚愕した。




しかし、少女の驚愕はここで終わる事はなかった。




ボスに抱きついた部下は、ボスの耳元でこう言った。




「あれぇボス?2人っきりの時はぁ
























部下様って呼べ って言ったよね?」




「はい!!!!部下様!」




少女が2度目の驚愕を感じるより速く、ボスは大きな声で返事をした。




少女の目に映る光景は異様だった。


この2人は一体どんな関係性なんだろう。




少女の中で少しだけ好奇心が勝り、より一層2人に目を向けた時だった。




「うーん、やっぱり最初から様付けで呼ばなかったってことは、この部屋にはボス以外の人間がいるのかなぁ?」




話しながら、するりと抜き出したそれは、


紛れもない拳銃であった。




少女は出しそうになった声を必死で抑える。




「いえ、部下様。そのような事はありません。」




口ではそう言うが、もはや部下にはバレているのは火を見るよりも明らかだ。


必死に知略を巡らせるボス。




しかし、部下を止めることはできなかった。




「うーん、例えばここかなぁ?」




「そこは....!!」




ボスの言葉を聞く前に、部下はクローゼットに向けて躊躇なく発砲した。




頑丈なクローゼットには傷一つつかなかったが、中の少女は着弾の恐ろしさのあまり力が抜けきってしまった。




そのままクローゼットが開き、中から少女が涙目で床に手をつく。




「あぁ、やっぱり。こんな所にこんなもの隠してたんだね、ボス。」




終わった。少女は思った。


リアルな銃弾が少女の眼下にある。




まさか自分が、この平和な国で銃殺されるなんて...。




悲しみに暮れる少女であったがもう打つ手はない。




部下の言葉は続く。




「ボスのことは大好きだけど、私は残念だなぁ。


こんな事が2度と起きないように、また躾けてあげないとね。返事は?」




「はい!!!!」




ボスは大きな声で返事をした。


この間も、ボスは必死に頭を働かせている。




まだ何か手はあるはずだ。


そう自分に言い聞かせながら。




「そうそう、そこの君。君には悪いんだけど、この空間には私たち2人だけしか必要ないから」




部下は拳銃を少女の方に向ける。




「殺すね。」




今度こそ本当に終わりだ。


少女はギュッと目を瞑り、最期の時を待った。




その時であった。




「ワオーーーーーーーーーーーーン」




犬の叫び声がした。


それもこの部屋の中から。




声の主はもちろんボスであった。




ボスはその勢いのまま、四足歩行で部下のもとに駆け寄り


拳銃にじゃれついた。




部下は、思わずよしよしと言いながら、その頭を撫でてしまった。




これが組織のトップに立つことができる者の能力。


尋常ではないほどの犬感。


人の大きな怒りを鎮められるほどの犬の形態模写。




少女は、いつの間にか感動を覚えていた。




ボスは止まらない。しばらく部下とじゃれあった後、


異常な速度の四足歩行で、ハガキが入っているものとは別の金庫を開ける。




そこに入っていたのは、赤い首輪であった。


それを口で噛み、部下のもとへ持っていく。




「あれー?お散歩行きたいのー?」




部下は優しい口調で言う。




「ワン!!!!!!!」




お散歩行きたいです!という声が聞こえてきそうな犬の鳴き声をボスは放った。




ぐるぐると部下の周りをまわりながら、ひとまず少女を助けられたことへの安堵感を感じつつ、部下とこんな関係になってしまった原因である昔の出来事をボスは思い出していた。

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