第3話 女

 女は離婚の危機に瀕していた。夫は警察官。女は彼をまだ愛していた。


 そのため夫の心を引き留める口実を画策した。


 まだ幼い娘を行方不明に見せかけた。

 屋根裏部屋に閉じこめ、音を立てぬよう言いつけた。


 夫を呼び、娘が遊びに出かけたまま帰ってこない、と訴えた。


 一人娘を可愛がっている夫は気を動転させ、吹雪のなか捜索に乗り出した。当然、娘は見つからない、屋根裏部屋にいるのだから。


 意気消沈して戻ってきた夫を、女は献身的に労わった。

 そして頃合いを見て、自身を責め、涙を流してみせた。


 思惑通り夫は、君のせいではない、と優しく慰めた。




 娘が一日発見されないと誘拐の線が濃くなった。

 女は、娘が誘拐されたと偽装することにした。


 戸外で娘の所持品――いや、体の一部が発見されれば、誘拐だとほぼ確定するだろう。

 そう考えた女は娘に、どの指を切り落とすか選べ、と迫った。




 偽装工作の機会を伺う間、屋根裏で物音がした。女は娘が発見される事を危惧した。

 夫や、心配して家に集まった友人や、警官らがその音に反応した。


 次の瞬間、「にゃおーん」と猫の鳴き声がした。女にだけは、それが娘の声真似だと分かった。




 早朝、降雪は激しさを増し、捜査は一時中断された。夫や友人らも女の元から去っていった。


 女は屋根裏を開け放ち、薄汚い毛布にくるまる娘を見下ろした。娘に裁ちばさみを持たせた。

 冬の突風が窓を激しく叩く。


 娘はもう断ち切る指を選び終えていた。





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