て
葛
第1話 1人と1人と1人と、1人と1人と1人と、2人と、2人
ファイ「このページを開いてくれてありがとう。あなたが僕らに関心を持ってくれることを願うよ」
シャーレ「僕ら、と彼が言ったのは、1人と1人と1人と、1人と1人と1人と、2人と、2人と、1体のことを指しているの。
あのね、そうは言ったけれど、私は特段あなたが私たちを区別する必要はないと思うわ」
なんか大勢がわーわー喋ってて、誰が誰か皆に分かんないの寂しーし、嫌われたくない」
セピア「嫌いになりはしないだろう。関心を持たず去るだけだ。
……分かるかね? シャーレは手間を気にしたんだよ、これを読んでくださる皆々様の手間をね。私も
アルノルト「だけれどね陽彩、僕たちはこの話し方以外はできないわけで、たった今から別の口調に変えようというのは大変な労力が要るんだね」
ファイ「アルノルトはお堅いね。そう向きになって諭すことないのに、ハハハ」
セピア「この調子では、いつまでも話が始まらない」
ファイ「そうだった。今日の議題を発表するよ」
寛大「『俺たちは』じゃない? 複数系! そんで、1人ひとり区別して読んでよ!」
シャーレ「寛大……彼、嫌な感じね。まだ同じこと言ってるわ」
アルノルト「シャーレ、それはよくないことだ、誰かを指差して悪く言うなんて」
シャーレ「逐一細かいのよ、アルノルトは」
てつ「ぼくは眠たいよぉ」
セピア「私は起きていたい。絵を描きたいんだ」
ファイ「僕も起き上がりたいな。段々と紅茶か珈琲を飲みたくなってきた」
陽彩「私はもう寝たい。目の下に隈とか作りたくないもん」
展「……あ、え、いや、僕は皆の好きなようにしてもらえれば……」
尊「俺は議論を進行して採決を取るだけ。口は出さない」
寛大「あ、ねえねえ、紅茶と珈琲混ぜたら美味いの?」
陽彩「議題と関係ないじゃん……。寛大のこういうとこ苦手……」
蹴「はあ……。俺は眠る。全員気づけよ、もう日付が変わる時間だぞ。年少のてつが寝たいって言ってんだ。子供の意見が最優先だろ」
ファイ「しかし、てつは蹴にべったり懐いているねえ」
蹴「ファイ、お前の態度、いちいち鼻につくんだよ。俺に構うな。どっかに行ってしまえ!」
ファイ「フフフッ、やあやあ今のはなかなか面白い冗談だったね!」
てつ「蹴、怒ってるの?」
ファイ「いいや、彼は気の効いた冗談を言ったんだ」
セピア「彼は怒ったのだ」
シャーレ「私、外に出たいわ。寝るか寝ないか、そんな議論を続けているうちに朝になってしまうわよ!」
寛大「それいいね! 俺もなんか走りたくなってきた」
シャーレ「やめて。私は汗を掻きたくはないの」
アルノルト「寝たい人が眠り、起きたい人が起きれば、一番不便がないわけだ……」
ファイ「それを言ったらお仕舞いだ。でも面白いね!」
アルノルト「僕も分かってはいることなのだ。ふと口にしたくなっただけだよ……」
尊「現時点では3対4で、起きていることに票が傾いている。展とアルノルトは?」
展「あ、僕は、まあ……何て言うか……、仕方ないんじゃないかな……?」
尊「その仕方ないというのは寝ることに賛成なのか、それとも反対しているのか。君は明言を避けている」
陽彩「尊君、そんなキツイ言い方しなくていいと思う、優しく言って?
展は自分が思ってること言っていいんだよ、誰も怒らないから」
展「う、うん……」
シャーレ「陽彩はいつも高飛車な物言いね」
尊「陽彩、まず君の『優しさ』の定義から教えてくれ」
陽彩「え? 定義って……? 尊君、あの、優しく言うっていうのは、相手を傷つけない言い方を選んでって意味」
セピア「会話する時、互いの自尊心の置き所を考慮に入れることだ」
尊「……なるほど、分かった。……俺の議題が変わった」
ファイ「そこは、『突然だけど、』って前置きが欲しいところだね。それで、どう変わったんだい?」
尊「『このなかから切り捨てる人を選ぶ。誰にするか?』だ」
全員「「「…………」」」
蹴「クソみてえな議題だな」
セピア「誰かが損なわれるわけだね。つまり誰かが身を削ることで、他の皆が、つまり1体が難を逃れる」
シャーレ「ちょっと。普通そんなおかしなところで『つまり』なんて何度も言わないわ。あなた変よ」
展「ね、ねえ……! 言葉のおかしさを指摘するのはやめてよ……!
僕たちさ、皆さ、ちょっとずつ変なんだと思う……。文法も用語も口調も……、1日1日生きるごとに間違えた自分が増えていくけど……。
その、言葉って大事だけど、言葉は気持ちを伝えるための手段なんだ……」
蹴「展、お前初めて自分から意見を出したな。顔を上げて自分を誇れ。お前が
別に俺たちに根っからの悪人はいねえ。俺はファイが嫌いだが、」
ファイ「いやはや、はっきり言うねえ」
蹴「ああ勿論。だが、悪人じゃないことは知ってる。ここに居る全員が同じ共同体に属している」
シャーレ「一番神経が図太いのは寛大よ」
寛大「や、待ってよ、陽彩ちゃんだって同じくらい図太いでしょ。あと俺、ちょっと削れてるし」
陽彩「私、別に太ってないし……」
ファイ「ああ!
尊「俺は痛みを感じない」
蹴「俺もたかがあれだけの傷で騒いだりしない」
アルノルト「ふふ、蹴。あの日、君は痛がるてつを慰めるのに手一杯だったもの。君は
てつ「うん! 蹴は優しいんだよ!」
蹴「ちっ。俺を決めつけるんじゃねえ!」
セピア「何のことだい、剪定って?」
シャーレ「私も詳しいところは知らないけれど、どうやら彼ら、剪定用の
アルノルト「僕は多少知っている。何故ならあの日、僕が寛大たちを手当てしたからだ。……セピア、気に触ってしまったかい? 薬を塗るのはきっと君の役目だったろうね」
てつ「セピアと蹴の役目だよ! 大抵はね」
「にゃおーん」
シャーレ「ねえ皆、1体が鳴いたわ」
セピア「ああ、鳴いたねぇ……」
寛大「何でそんなしんみりしてんの? あれ? 分かんないの俺だけ!?」
アルノルト「分からなくていい。分からないほうが良いのだ、こんなことはね。すべてを知っておられるのは神様だけなのだからね」
ファイ「神様ね。悪いけれど、僕は正真正銘の無神論者でね。神様が僕らに何をくれた?
神様が居たとして、勿論これは
アルノルトが『神様』と口にする度、
アルノルト「構わんよ。僕は布教している訳ではないのでね。僕は信仰心を尊ぶが、君は違う。それだけの話だ……」
てつ「アルノルト、怒ってる?」
シャーレ「てつ、いちいち他人が怒ってるかどうかなんて確認しなくて良いのよ」
陽彩「そういうシャーレは人を指差して悪口ばっかり」
シャーレ「人に突っかかるのは私だけ? ファイはどう?」
ファイ「おおっと、僕は楽しんでいるだけだよ。
今、突っかかったことは、すまなかったね。アルノルトのことは好きだが、信仰に関する価値観が決定的に合わなくてさ、向きになったよ」
セピア「……私が切り捨てられようか?
知っての通り私は芸術家だ。自分の作品の完璧と進歩を追い求めている。
誰1人欠けても私は私の芸術を喪い、絶望するだろう。だから始めから私を切り捨てれば話が早い」
蹴「セピア、お前は馬鹿だ。それに頷く奴はいない」
寛大「そうだよ! 誰が欠けても俺は嫌だよ。悲しいし、自分が心から笑えなくなる気がする」
シャーレ「……ねえ。もしかして皆、最後は私を選ぶつもりでいるんじゃないの? 私が一番、お荷物よね……?」
ファイ「君の男癖の悪さを思い浮かべたらそうだね。……だけどね、君は僕らという1個体が生存するために必要な人だ、と僕は思うよ」
セピア「……現実的な話として、尊とアルノルトはいつも中立だ。どちらか1人は残さなくては破綻する」
ファイ「さてさて、困ったなあ。僕らは誰かを切り捨てなければならない。それが議題だから。
ここまで読んでくれたあなたは、僕らは誰を選ぶと予想する?
また、1つも意見を述べなかった1体は誰を選ぶだろう?」
そして、あなただったら、このなかの誰を選ぶ?
絶対に切り捨てる誰かを選ばなくてはならないとして。
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