第45話
(あれ、楓さんと普通に話せている……)
いつもなら、どこかぎこちない会話を交わし、微妙な空気が漂うだけだったが、何故か今は不思議と普通に会話が出来ていた。
それが嬉しいような気がして、ほんのりと胸の中が温かくなった。
「さっきは驚かせたな」
「さっき……?」
「ジェニファーの事だ。全く……興奮するといつもこうだ……」
ジェニファーの名前が出た途端、急速に胸の中に広がった熱が引いていく。
心なしか身体の熱まで引いた気がして、「大丈夫です」と低い声が出る。
「急だったので驚きましたが、ジェニファーも悪い人では無さそうだったので」
「そう言ってくれると助かる。ジェニファーも悪気は無いんだ。ただ他人との距離感がおかしいだけで」
隣を見ると、丁度、人一人分の間を空けて、楓さんが立っていた。そのぽっかりと空いた空間が、まるで私達の間にある距離感の様で、どこか寂しさを感じたのだった。
「楓さんとジェニファーは、どういう関係なんですか……?」
聞くのは怖かったが、勇気を出して聞いてみる。
私達に対して、さっきの楓さんとジェニファーの距離感は近い様に感じられた。まるで家族か男女の仲の様に。
もしかして、楓さんが私を日本に置いてニューヨークに行ったのも、ジェニファーが関係しているのだろうか。
(おかしい。私と楓さんはあくまで契約結婚した一時的な夫婦。それなのに、どうして二人の関係が気になっているんだろう……)
愛の無い、利害関係が一致しただけの契約結婚なら、相手が誰と何をしようと気にならないはずなのに、こんなにも気になっているのは何故だろう。
カバンを持つ手に力を入れて、返事を待っていると、楓さんが近づいて来る。
さっきまであった人一人分の距離を詰めて、お互いの腕がぶつかるかどうかという場所で止まると、楓さんは口を開く。
「ジェニファーはただの幼馴染みだ。それ以上の関係は何も無い」
まるで私の悩みに気づいているかの様に、はっきりと否定されて、どこか拍子抜けしてしまう。
「幼馴染み、ですか……」
「ああ。父親同士の仲が良くてな。毎年夏になると日本に来ていた。その時によく一緒に遊んだんだ」
「そうですか」
「今は仕事も含めて、ここでの生活も助けてもらっている。最初の頃は分からない事だらけだった」
「楓さんにも分からない事があるんですね……」
「本で読むのと実際に住むのは全く違うからな。日本とは生活様式も違うんだ」
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