第21話

 メッセージを見たまま、しばらく思考が停止してしまう。

 今までこんな居場所を尋ねるようなメッセージが送られて来た事は無かったので、どう返信を送ればいいのか迷ってしまう。

 少し考えた後、若佐先生に習って、絵文字も何も入れず、端的に返信したのだった。


『日本にいます』


 メッセージを送信した後に、これでは逆に心配をさせてしまうのではと考え直す。日本にいることになっているのに、「日本にいます」の返事は流石に怪しすぎる。

 すぐにメッセージを取り消すと、別のメッセージを送信したのだった。


『自宅にいます。特に変わりはありません』


 送信されたのを確認してから、スマートフォンを仕舞うと、そっと溜め息を吐いたのだった。


(逃げてばかりじゃ駄目。明日こそは若佐先生に会いに行かなきゃ)


 さっきはショックのあまり逃げ出してしまったが、これではわざわざニューヨークまで来た意味がなくなってしまう。

 若佐先生の事を知って、出来る事ならこれまでの恩も返して、心置きなく離婚する為にも。今は向き合わなければならない。

 ニューヨークに降り立った時、そう決心したばかりなのに。


(でも、やっぱり……。顔を合わせづらいな。若佐先生、どこか怖い時があるし……)


 私と顔を合わせる度に、眉間に皺を寄せる若佐先生の顔が思い出される。

 まるで嫌なものを見てしまったというような苦々しい表情に、私はどこかで萎縮しているところがあった。知らない内に、何か若佐先生に失礼な事をしてしまったのだろうかと。

 今回、顔を合わせた時にその理由が聞けるだろうか。もし離婚の理由の一つにそれがあるのなら、私も反省するべきだろう。また同じ過ちを繰り返さない為にも。


 そう私は決意したのだった。

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