これを最後まで読み終える前に絶対に後ろを振り向いてはいけません

北浦十五

あたし




「何、これ?」



あたしはスマホを観ながら呟いた。



あたしは市内の高校に通うごく普通の女の子。

明日は土曜日だから学校はお休み。

あたしは自室のベッドで、あるサイトを観ていた。


それは小説投稿サイト。

大手の出版社が運営しているサイトでかなりの数の作品が投稿されている。

色々と観ていく中であたしのお気に入りとも言える作品も幾つかあった。今では寝る前にこのサイトを観る事があたしの楽しみの1つになっていた。


明日は学校が休みで特に予定も無いので、いつもより夜更かししてサイトを観ていた。


「うーん、今回はちょっとイマイチだったかな」


あたしは勝手な感想を口にしながら「うーん」と背伸びをした。

時計を見ると午前2時を回った頃になっていた。

そろそろ寝るか、と思っていたところへ変なタイトルが目に飛び込んできた。


「これを最後まで読み終える前に絶対に後ろを振り向いてはいけません? 何、このタイトル? ウケるぅ」


あたしは思わず笑ってしまった。

いるのだ。こういう変なタイトルをつける人。


「まぁ、読んで貰いたい気持ちは判るけどさぁ。ってあれ?」


あたしは作者の名前を見ようと思ったけど作者名がどこにも書いてない。


「ここって、作者の名前なしでも投稿できたっけ?」


それどころか★の評価の記載も無い。

誰も評価してなくても★0の記載はある筈なのに。


あたしは俄然、この作品に興味が出て来た。

文字数すら記載されていないのはバグか何か?

あたしは何となく、この作品は今読まないともう読めなくなるような気がして来た。あたしは、この訳の判らない作品を読む事にした。


「えーっと。あたしはベッドの上でスマホを観ていた。やだ、まるであたしの事みたいじゃん」


ニヤニヤ笑いながら読み始めたあたしの顔から数分後には笑みが消えていた。


「何よ、コレ? これに書いてある「あたし」って、あたしとソックリじゃん!」


ソックリなどと言うレベルでは無かった。

髪型や着ている衣服。

下着の中にあるほくろまで書いてあった。


夢中になって読み進むあたし。

次第に手が震え、歯がカチカチと鳴る。

身体から嫌な汗が噴き出す。


「嘘だ・・・嘘だよ・・・こんなの」


そこに書いてある「あたしの部屋」の描写は今のあたしの部屋と同じだった。

ベッドの位置。机の上の本棚の本のタイトル。窓のカーテンの模様。

間違いない。



これは今のあたしを描いているんだ。



「何で? なんでこんな事に・・・」


あたしの目から涙が零れる。


「そうだ!読み終えれば良いんだ」


あたしは必死になって読み始めた。

1つの言葉を念じながら。


絶対に後ろを振り向いてはいけません。



「あたしは涙を零しながら読み始めた。部屋の隅で何か音がする」



ビシッ


あたしの身体が跳ね上がる。

確かに部屋のどこかで何かが弾けるような音がした。


気にするな。気にするな。あれは幻聴だ。


「幻聴だと思い込もうとした、あたしの背中に水滴が落ちてくる」



ポトン



「ひゃぁぁぁぁっ!」



あたしの背中に水滴が落ちてきて、あたしは大声をあげた。



あたしは構わず読み進める。



「読み続けるあたしの頬に嫌な臭いのする風が吹きつける」



パタン



部屋の窓がいきなり開いて嫌な臭いの風が吹いてくる。



「あたしは自分の背後に何かの気配を感じた。あたしの後ろに何かいる」



グルルルル



あたしの背後で唸り声のようなものが聞こえた。


そう。


あたしの背後に何かいる。



「あたしの背後にいるソイツは唸り声をあげている。ソイツの目は炎のように光り、ソイツの口の中には鋭い牙のようなものが見える。ソイツはゆっくりとあたしに近づいてくる」



ノソリノソリ



あたしの背後にいる何かがあたしに近づいてくる。



あたしはスマホを放おり投げて目を閉じた。



これは夢だ。

あたしは悪い夢を見てるんだ。



しかし。



あたしの背後にいる何かの気配は消えない。



明らかに、そこには何かがいる。



あたしは慌ててスマホを拾い上げて続きを読む。



「ソイツは口を開いた。口の中の牙が鋭く光っている。ソイツの重みでベッドが軋む」



ギギギィィィ



あたしのすぐ後ろでベッドが軋む嫌な音がする。




「ソイツの口から舌が伸び、あたしの左足を舐める」




ヌルン




あたしの左足に生温かくて湿ったモノの感触が走る。




「ソイツの口はあたしの身体に涎を垂らす」




ボトボトボト




あたしの身体に異臭のする液体が降り注ぐ。




「・・・そして、ソイツは大きな口を開けてあたしに喰らいついた」







翌日


2階へ上がる階段を女の子の母親が上がっていく。


「もう。休みだからって何時まで寝てるの、あの子は」


母親は娘の部屋をノックした。


「いい加減に起きなさい。何かしてるの?」


返事は無い。


母親は娘の部屋のドアを開けた。


部屋の中には誰も居なかった。



ただ、ベッドの上に血のように紅いスマホが転がっていた。







終わり





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る