第49話 逃走
「走れ!!」
「は、はいっ!!」
「おうっ!!」
「逃がすなぁっ!!」
イチの言葉に反応してブランとリルは駆け出すと、この時にいち早く冷静さを取り戻したゴウケンが指示を出す。慌てて盗賊達は彼等を捕まえようとするが、それに対して今度はリルとブランが動く。
「刺突、三連突き!!」
「うおおおっ!!」
『ぎゃあああっ!?』
進路を妨害しようとした盗賊達に対してリルはめにも止まらぬ速度で突きを繰り出し、ブランは殴りつけて吹き飛ばす。盗賊程度では二人の相手にもならず、厄介なのは元冒険者達だった。
盗賊の包囲網を抜けられたと思われたが、ここでゴズとカマセが立ちはだかり、ゴズは背中に抱えていたボーガンを取り出してリルに放つ。カマセの方はブランに向けて蹴りを繰り出し、二人の攻撃に対してリルとブランは足止めされてしまう。
「喰らいやがれ!!」
「くぅっ!?」
「おらぁっ!!」
「ちぃっ!?」
ボーガンから離れた矢に対してリルは咄嗟に剣で弾き、ブランの方はカマセの放った蹴りを右腕で受ける。一瞬だけ二人の動きが止まり、その隙を逃さずにゴウケンが動き出す。
「その女を持ってろ!!」
「へ、へい!!」
「くそっ……来るなっ!!」
ガウナを近くに立っていた盗賊にゴウケンは預けると、彼は大剣を抜いてイチ達の後方へと迫る。それを確認したイチは咄嗟に右手を構えて黒渦を発現させ、短剣を射出させる。
しかし、迫りくる短剣に対してゴウケンは避ける素振りもみせず、彼の頭の横を通り過ぎた。その光景を見てイチは驚愕し、威嚇射撃だと見抜かれてしまった。
「ふんっ……お前が意図的に人殺しを避けようとしている事は知っているぞ」
「くっ……!?」
「イチさん、躊躇しては駄目です!!相手は殺しにかかっているんですよ!?」
リルの言葉を聞いてイチは冷や汗を流し、これまでにイチは人を殺した事はない。相手が盗賊の類だろうと殺す事に躊躇して本気の攻撃が出来なかった。
しかし、今はリルの言う通りにゴウケンをここで倒さなければ自分達が何をされるか分からない。今度こそイチは本気でゴウケンに攻撃を仕掛けるため、黒渦を発動して短剣を射出させる。
「うわぁあああっ!!」
「ガキがっ……」
イチは次々と短剣を発射させ、今度はゴウケンの身体に目掛けて発射させる。だが、その攻撃に対してゴウケンは歩くようにゆっくりとした動きで全ての短剣を躱し、あるいは大剣で弾き返す。
(駄目だ、通じない!?)
短剣をいくら飛ばした所でゴウケンに通じず、このままでは追いつかれてしまう。他の二人もゴズとカマセに足止めされて援護は出来ず、悩む間にも他の盗賊達が動き出してしまう。
(こうなったら!!)
誰も頼れない状況の中、イチはゴウケンを止めるための策を必死に考え、この時に彼は異空間に預けていた物を取り出す。それは先日にファイから受け取った「火属性の魔石」であり、貴重品ではあるが背に腹は代えられない。
「これならどうだ!?」
「何っ!?」
「まさかっ!?」
「なっ!?」
イチが黒渦から取り出したものを見た瞬間、ゴウケンとリルとブランは目を見開き、他の盗賊達は呆気にとられた。イチが異空間から出現させた火属性の魔石を手にすると、それをゴウケンに向けて投げ込む。
火属性の適正がないイチには残念ながらファイのように火属性の魔法は扱えない。しかし、魔石には火属性の魔力が蓄積されており、もしも外部から強い衝撃を受けて魔石が砕けた場合はどうなるのか、それはイチもよく知っていた。
『いい?イチ君がもしも魔石を手にする事があったら絶対にぞんざいに扱ったら駄目よ?』
『どうしてですか?』
『魔石は魔力を帯びた鉱石なの。でも、魔石が砕けたりしたらどうなると思う?内部の魔力が暴走して大惨事を引き起こしかねないの。特に火属性の魔石なんて大変な事が起きるから、絶対に壊したら駄目よ?』
『は、はい』
冒険者になりたての頃、イチはギルドの講習にてエストから直々に魔石の恐ろしさはよく聞いていた。魔石とは魔力を帯びた鉱石であり、そんな物が砕けた場合はどれほど恐ろしい事が起きるのか、実際にイチは話では聞いた事があっても見たわけではない。
魔石は鉱石を加工した代物なので簡単に壊れる事はないが、あまりにも強い衝撃を受けた場合は別である。イチは空中に放り込んだ魔石に狙いを定め、短剣を射出させるとブランとリルの身体を掴んで伏せた。
「伏せろっ!!」
「ぬおっ!?」
「きゃあっ!?」
空中に飛んだ魔石に向けて短剣が放たれ、それを目にしたゴウケンだけは危険性を察知し、咄嗟に大剣を盾代わりにして身を隠す。他の盗賊達とゴズとカマセは呆気にとられたが、直後に短剣が魔石に衝突した瞬間、衝撃で魔石に亀裂が走り、次の瞬間に内部の魔力が暴発して周囲に火炎が燃え広がった。
※休みの日は1話多めに投稿します。
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