第42話 コボルトの首領
「ぬんっ!!」
「ガフゥッ!?」
コボルトの顎に目掛けて突き上げられたブランの拳は見事に的中し、あまりの威力にコボルトの身体は浮き上がり、砕けた牙が空中に飛ぶ。その様子を見ていたイチとリルは驚き、ガウナでさえも驚きの声を上げた。
「嘘っ!?」
「なるほど……やるじゃないか」
ゴウケンでさえもブランの動きを見て笑みを浮かべ、最後に残ったコボルトの首領は倒されたコボルト達を見て怒りのあまりに毛を逆立たせる。
「ガアアアッ!!」
「来ますよ!!」
「分かっている!!」
「二人とも、下がって!!」
怒りの咆哮を上げたコボルトは両腕を広げ、威嚇を行うようにイチ達と向かい合う。その様子を見てイチは二人よりも先に動き出す。
コボルトの迫力は凄まじいが、それでもホブゴブリンと戦った時と比べてイチは冷静に動く事が出来た。強敵との戦闘を経てイチも肉体だけではなく、精神面も鍛えられていた。
(こいつは俺が仕留めないと……あの二人は絶対に認めない!!)
リルとブランは見事にコボルトを倒したが、イチは二人の援護だけでコボルトは倒していない。ここで自分の実力を見せねばゴウケンもガウナはイチの事は認めず、荷物役と呼び続けるだろう。
(大丈夫、ホブゴブリンよりも強くはないはず……倒せる!!)
先に倒された2体のコボルトと比べたらホブゴブリンの方が戦闘力が高く、それにゴブリンと違ってコボルトは武器などの類は使用しない。冷静に対処すればイチは一人でも勝てると思ったが、ここでコボルトの首領はイチに目掛けて突っ込む。
「ガアアッ!!」
「イチさん!?」
「危ない!!」
「うわっ!?」
自分が動くよりも先にコボルトが接近してきた事にイチは驚き、他の二人は援護に向かおうとしたが、単純な移動速度はコボルトが上回る。
コボルトは先ほどから邪魔をしてくるイチに対し、この人間こそ真っ先に倒さねばならない敵だと判断して鋭い爪を繰り出そうとした。しかし、それに対して咄嗟にイチは両手を構えて黒渦を作り出す。
(吹っ飛ばしてやる!!)
黒渦を作り上げたイチはコボルトが攻撃を仕掛けるのを待ち構え、仮にコボルトが黒渦の中に攻撃を仕掛けた場合、どんな力を以てしても確実に跳ね返す事が出来る。どんな生物だろうと黒渦の中に入り込む事は出来ず、しかも入り込もうとする力が強ければ強いいほどに跳ね返す「反発」の力も強まる。
「ガアッ……!?」
「なっ!?」
しかし、コボルトは黒渦に目掛けて腕を振り下ろしかけたが、寸前で何かに気付いた様に動きを止める。野生の本能が黒渦に対して警戒心を抱き、咄嗟にコボルトは距離を取った。
(攻撃を止めた!?まさか、気づいたのか!?)
コボルトにはまだ生物の肉体は黒渦によって弾かれる光景は見られていないはずだが、野生で磨かれた生存本能でコボルトはイチの黒渦の危険性を理解して距離を置く。それを見たイチは驚くが、すぐに考えを切り替える。
相手が攻撃を仕掛けて来ないのならば自分が仕掛ければいいと判断したイチは黒渦を縮小化させ、短剣を射出させようとする。しかし、それに気づいたコボルトは足元に視線を向け、その場で足払いを行うように地面の土砂を放つ。
「ガアアッ!!」
「うわっ!?」
「何っ!?」
「目眩ましっ!?」
先にイチが小麦粉を利用して仲間のコボルトの視界を奪った事を真似たのか、コボルトは地面の土砂を蹴り上げて砂利を放つ。黒渦を閉じかけていたイチは目に砂利が入ってしまい、視界が塞がれた。
(まずい!?)
視界を封じられたイチは次の攻撃が来ると判断し、咄嗟に身に付けていた解体用の短剣に手を伸ばす。もしもコボルトが近付いてきたときはこれで対処しようとしたが、直後にコボルトに悲鳴が響く。
「ギャインッ!?」
「くぅっ!?」
「……雑魚が」
コボルトの悲鳴とゴウケンの声が聞こえ、いったい何が起きたのかとイチは目元の砂利を振り払い、どうにか薄目で確認すると、そこには大剣を構えるゴウケンと背中に傷を負ったコボルトが倒れていた。
何時の間にか馬車の前からコボルトの背後に近付いていたゴウケンはコボルトの背中を斬りつけ、コボルトは地面に倒れ込む。まだ生きており、助けを求める様に腕を伸ばすが、既に頼りになる仲間はいない。
「くたばれっ!!」
「ガアアアッ!?」
「くっ……!?」
「うっ……!?」
地面に倒れていたコボルトに目掛けてゴウケンは大剣を背中に向けて突き刺し、心臓を貫かれたコボルトは動かなくなった。その様子を見てゴウケンは大剣を引き抜き、イチに対して冷めた目で告げた。
「さっさと解体しろ、それぐらいしか役に立たないだろう……荷物役」
「くっ……」
「解体が終わり次第、すぐに出発するぞ。血の臭いに釣られて他の魔物が近付いてくる前にここを離れる」
ゴウケンの言葉にイチは言い返す事も出来ず、結果的に言えばイチは彼に助けられた。だが、結局は実力を見せつける事が出来ず、いつも通りに解体の仕事を押し付けられた――
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