第拾肆話 優等生と不良


「やぁ、君が真季波凪くんだね?」


「そうですけど…」


鳥居先輩に勉強を教えてもらう為、放課後図書室に居たのだが来るなり先輩は昨日の事を忘れているかのように俺の名前を確認した。


「よし、なら勉強しようか。どこが分からない?」


「はい、えっとーここなんですけど…」


「あ〜ここか、確かに分かりにくいよね。でもここねやり方さえ覚えたら後は応用なんだよね」


鳥居先輩が最初解いてくれてその次に俺がその問題を同じように解く。あれほど難しく分からなかった問題がみるみる解けていく。


「よし、分かってきたみたいだから後は応用。1人でもできるよ」


鳥居先輩は驚くほど教えるのが上手い。先の疑問も数分後には綺麗さっぱり忘れていた。


ふと外を見ると夕暮れに近づき、時刻は18時を回っていた。


「鳥居先輩すみません…遅くまで付き合ってもらっちゃって」


「大丈夫大丈夫。気にしないで元は私が言った事でしょ?」


「またお願いしてもいいですか?」


「良いよ〜また明日ね?」


鳥居先輩とは校門で分かれ、それぞれの帰路についた。


次の日、同じように放課後図書室で待つ。昨日よりも図書室に居る生徒は少なく、俺の周りには誰も居ない。ガラッと扉が開き鳥居先輩がキョロキョロしながら入ってくる。


「やぁ、君が真季波凪くんだね?」


「鳥居先輩…?」


昨日も同じように聞いてきた鳥居先輩。


「冗談、冗談だよ〜。さ、勉強をしよう!今日はどこが分からないのかな〜?」


取り繕うとする先輩に少しだけ不信感を抱く。


「ここなんですけど…」


「あ〜ここか、確かに分かりにくいよね。でもここねやり方さえ覚えたら後は応用なんだよね」


(やっぱり…)


椅子から立ち上がり鳥居先輩から距離を取る。鳥居先輩はキョトンっとし、こちらを見上げる。


「先輩って昨日の先輩ですか?」


周りに他の生徒が居ないことを確認し、質問を投げかける。


「え?」


当然の反応だ。でも確信があった。


「鳥居先輩に昨日と同じ問題を聞いたんです。鳥居先輩、昨日と同じ問題なのに疑問に思わず同じように教えてくれようとしました…」


昨日と同じ問題を指されたら昨日やらなかったっけ?などの疑問が出てくるはずなんだ…でもそんな素振りは一切なかった…


「鎌かけられたんだ…」


(あぁ、この子も他の人たちと同じようになるんだろうな…)


目に見えている。この後どのような反応が待っているのか…気づかれてしまった。このような事が無いようメモを取り忘れないようにしていたのに…自分が恨めしい…


「すみません!」


「え?!」


驚いたのは私の想像していた第一声と違うものだったから…


「鳥居先輩が秘密にしている事を探るような感じになっちゃって…全然そんなつもりはなかったんですけど、結果的に先輩に悲しそうな顔をさせてしまったので…」


この人は今までの人たちと違う。そう実感させられる。凌ちゃんや光ちゃんと同じように誰かを自分の価値観で人に対する態度を決めたりしない人だって。


「少し話、聞いてくれる?」


そう言い鳥居先輩は自分の過去の事を話してくれた。


小さい時から寝て起きると昨日の事を全て忘れている“忘却体質(ぼうきゃくたいしつ)”だった。その為メモ帳は欠かせず、昨日合った大事なことはメモしなければならず苦労した。


「そんなだから私は周りに助けられながら生きてきたんだけど、構われている私を快く思わない人がいてその子が私のメモ帳を捨ててしまったの」


捨てられたメモ帳は見つからず、メモ帳に記録していた今までの時間、話、関わってきた人、全てが記憶から無くなってしまった。

メモが消えても忘れない人は居て、家族や凌ちゃん、光ちゃんの事は忘れなかった。


「もうこの世の終わりだったよ。先生には呆れられ、友達だった人からはめんどくさがられて避けられたしね…」


凌ちゃんと光ちゃんがいなかったら私は外に出なかっただろうな。


「そんな訳で私は昨日の事を忘れるんだよね。だからめんどくさかったら関わらなくていいよ」


意地悪な言い方だと思う。真季波くんは絶対に見捨てないと分かっているのに…


「俺は鳥居先輩に勉強を教えてもらえて嬉しかったですよ。だからそんな風に思わなくて大丈夫です。関わらせてください」


ほら、やっぱり。彼はそういう人だと思った。

眼鏡を退け彼を裸眼で見る。

彼はこんなにも優しい色をしていたんだ…


「ありがとね。これからもよろしく!」


「はい、こちらこそよろしくお願いします」


私に、また一つ掛け替えのない大切な“記憶”が増えた。



「真季波凪って奴いるか?」


次の日、俺のクラスに少し長髪の金髪、前髪をピンで留め、耳にピアスを開けた見た目不良の生徒が入ってきた。上履きの色は赤なので2年で先輩のようだ。


他の生徒はその先輩の姿に萎縮し道を開け俺へ一直線に道ができる。


「俺が真季波凪です…」


「ツラかせよ」


ここに応援団組とパネル組が居ないのが悔やまれる…俺なんかしたかな…?

先輩の後ろを付いていき、体育館に入っていく。着いた所は体育館内にある剣道場。


「俺の名前は戌乖光(いぬかいひかり)、ちょっと話があってよ…」


「…」ゴクッ


「珠ちゃんと最近なんかあったか?」


「は…?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る