第弐話 鴉が通り、猫が降る。
あれから1日が経ったお昼…まだ頭が追いついていない。お昼ご飯は昨日の残り物と今朝作った卵焼きなどの有り合わせの詰め合わせ。
「どうした?元気ねぇな」
パンを頬張りながら前に座っている颯が不思議そうに聞いてくる。
「あ〜、昨日のこと未だに信じられないんだよね…」
「あれはもう慣れるしか無いだろ。お前の爺ちゃん100%善意でやってるんだし」
「うん…」
そう。颯が言っていることは正しい。ちょっと規格外の時の方が多いけど、善意なのは確か。
(でもあの家に1人はどう考えても広いよな…)
キーン…コーン…カーン…コーン…
お昼終了のチャイムがなり、次の授業の準備をする。
同時刻、隣の少女、八城琥珀(やしろこはく)はいつ声をかけようか様子を見ていたが見るだけでお昼の時間は終わりを迎えた。
「…」シュンッ
(お礼を言いたいだけなのだけど…会話ができない…)
少女の奮闘(一人相撲)はつづく…かも。
(いや、気づけよ?!)
(昨日今日で全然話しかけてこないんだけど…もう放課後だよ…?)
ずっと知らないフリをするのも疲れるのだ。ここは友人として一肌脱ぐとしますか。
「!?」
後ろから肩を叩くと振り向くと同時にすごく驚いた表情をして今にも叫び出しそうな顔をした。
「しー、驚かないで
「…」コクコク
「あいつに話があるみたいだけど時間作ろうか?俺がずっと付きっきりでタイミング無かったよな」
すまん、そう謝ると彼女は謝らないでとあたふたし始めた。
「私、昔から人と話すの少し苦手で…気になる人に話しかける勇気もないから」
それはつまり…?ほほーん…察しのいい颯くんは分かっちゃいましたわ…これは一肌も二肌も脱いじゃいます。
「あ〜俺ちょっと職員室呼ばれてたの思い出したから行ってくる。その間に話してみたら?」
またねと言い残し階段角に身を隠す。
ふふふふふ…俺の能力で見ててやるとするか。
「“
手のひらに黒い鼠を出現させる。この鼠とは視覚や聴覚を共有できるから便利。
鼠は八城さんの後を追いかけるように向かった。
(ただ難点なのは能力を使うと“耳”が出ちまうんだよな…)
これは他にも居るであろう十二支全員に言える事。能力使用中はモデルになった十二支の特徴が体に現れたりする。生活を脅かされないからバレないように配慮しなければ…
「あれ、
「え、えっととっと…」
「ゆっくりで良いよ?」
(あ〜そういえば昔から凪は人たらしだったわ…こういうところがモテるんだろうな)
八城さんは深呼吸をし、呼吸を整える。
「あの、中学の時ー」
八城さんが意を決して話し出した時、窓ガラスに黒い影が写る。窓ガラスは砕け散り、八城さんはその黒い影に連れて行かれる。
(なッ!?)
でも幸い(?)な事は八城さんに俺の鼠が引っ付いて行ったことかな。
「待てッ!!」
凪は勢いよく教室を飛び出す。早く見つけないと!何故連れて行かれたのか分からないがあれは間違いなく妖怪の類。
「ん、鼠…?」
鼠が一匹こちらを見て階段下に降りて行った。まるで“こっちだ”と言っているかのように。
俺はその鼠に付いて走る。黒い影はもう見えないが何故か自信めいた確証があった。この鼠は
鼠が行きついた場所は薄暗い森。学校の裏にある大きな裏山の中…八城さんを発見するが八城さんの前には黒く大きな影。さっきは一瞬で見えなかったが今は姿形がはっきりと見える。
そいつは人間大の鴉だ。鴉なのだが目は左右合わせて4つ。
(目と体長以外は普通の鴉なんだよな…)
「お前…何故ここが分かった?」
(あ〜言葉も話せるっぽい)
「親切な動物が居たものでね。彼女を狙う理由は何だ?」
「ふん、決まっている。この娘は妖力を秘めておる。それもちっとやそっとじゃない。この娘を食べればわしは全盛期に戻れる」
「自分の欲望の為に他者を犠牲にするやり方を俺は許さない」
「ほぅ、許さない?ではどー」
そう、触れるだけで良い…あいつの全盛期がどのくらいの強さなのか分からないが弱っている今、仕留める。あいつは俺を見下している。何もできない人間だと。
「お主、祓い屋か…!?」
触れる直前、鴉は目を見開き後ろに大きく跳躍する。
(クソ…触れれなかった…)
“門”を出すのは1日2回まで…それ以上は疲労で倒れてしまう。でも疑問だ…あいつは俺が触る直前急に俺の手を避けた。しかも、俺の事を祓い屋だとも…
「祓い屋だけど…何?」
「クフフフフッ…まさかここで祓い屋に出会うとは私は
「死闘の中だぞ?もう少し真剣にやったらどうなんだ…?」
呆れた声と共に人間大の大きな猫が空中から鴉の頭上に落ちてきた。
(つ、潰した…)
「ん?鼠は
そう言い鴉を足蹴に八城さんの肩の何かを払い除ける。
「よし、ちゃっちゃとその天狗擬き祓っちゃいな。あと“門”を使いなよ?腐っても元鴉天狗、大妖怪なんだからね」
「は、はい」
「“地獄の門よ、禍を閉じ込めろ”」
その呼び声と共に鴉の横に大きな扉が出現する。これが“門”一回使うだけでもかなりの疲労感がある。
門が音を立て開き、扉の中から大量の手が鴉を掴む。鴉は引き込まれる最中意識を取り戻した。
「!?これは地獄の門!?や、やめろ!!し、死にたくなー」
ガチャンッ…
いっそのこと、意識が無かった方が良かったのに…
「よし、まずは君の家に向かおうか疲れてるだろうから特別に乗せてあげよう」
人生で大きな猫に乗る機会っていうのはまず無いだろうな…
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