第八章 生まれた場所以外のために
第八章 生まれた場所以外のために(1)
明けて、翌朝。夜明け前にホーキングとフリントは島にあった船に乗り込み、大陸へ渡った。
浜から島にいる全員でふたりの船を見送った。フリントは先に船へ乗り込み、出発の準備をしていた。
「ヨル」
最後、ホーキングは、おれの肩に手を乗せた。
「お互い、いざ会おうとしたら、もう死んでたってのは、ナシだかんな」
肩にあるのは、おれのよく知る、いつもの熊みたいに大きな手だった。
その手がゆっくりと肩から遠ざかる。
それからホーキングは「ほいっと」という、かけ声とともに船へ乗り込んだ。巨大の彼の乗ると、船は少し左右に揺れた。
すると、フリントが「しからば諸君、これでお別れだ」と、幕を降ろすかのように、また、安っぽい芝居めいた口調とともにお辞儀した。
ホーキングは「いってくるぜ、みんな」と言った。
そして、船は浜を離れて、波に逆らい出発する。
すると、リスがまるで海へ向かって叫ぶように「いいかぁ! 死にそうになったら我慢しないで逃げ帰ってこい、おっさんたち!」といった。
するとホーキングが鯨銛を掲げ片手をあげた。闇のなかのくせに、不思議と白い歯を見せて、大きく笑うのも見えた。
まだ世界は陽の光りがなく、薄暗い。ふたりの船は浜から離れるにしたがって、闇に吸い込まれるように小さくなった。
もしかすると、あのふたりだけで白い竜と戦うことになる。それを考えて、落ち込んだ。ふたりだけで追わせる。それでいいのか。けっきょく、今日、この朝まで、いい方法を思いつけず、悔しかった。
白い竜と戦うその場に、自分がいないことに、重い罪みたいなものを感じた。
海から島へ身体を向け直す。視線の先にある島には、まだまだ、問題が山積していた。人手がいる。しかも、やったからといって、島が復興するかどうか、以前として確かな手ごたえはなかった。闇のなかを走っている気分だった。たまに、それでもたまに、かすかに光る場所を、みつけられる。
ふと、こどもたちのひとり、アンが大きく手を振り出した。彼女はふたりの名を呼び「ありがとう、さよなら!」と全力で叫んだ。とたん、他のこどもたちも連動するように、ふたりの名を呼び、手をふった。「じゃあねー!」「またねー!」「ありがとうねー!」難しい言葉は使わず、出来る限りの声を送っていた。
「生意気な、ちびっこから人気とかありやがんの」
リスが苦笑ぎみにいった。どこか嬉しそうにもみえた。
こどもたちのかたわらでトーコは静かに、ふたりへ向かって頭をさげた。
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