テイクオーバー!~不思議で最強の宇宙船を受け継いだ青年はやがて伝説を塗り替える~

むしゃくしゃマン

第一章『Re:Start』

序章①

 -今日も今日とて、水も空気もましてやロクな明かりさえもない宇宙は、とにかく明るくそして嵐の如く荒れていた。



「-全艦、艦砲射撃用意!」

 白を基調とした軍服に身を包んだ勇ましい雰囲気を漂わせる壮年の男がそう告げると、彼が乗る戦艦とその周囲を航行する十を越える戦艦は、標的に狙いを定めた。

「全艦、ロックオン完了!」

「撃てぇーっ!!」

 通信兵が報告すると、彼は高らかに命令した。

 直後、艦隊から一斉にビーム砲撃が放たれ標的である血のように赤い大きな宇宙船…近頃この宙域を荒らし回る『海賊』の旗艦に命中した。

「命中確認!『海賊船』撃沈!」

 すると、観測士がやや興奮したように報告した。直後、残党の乗る海賊船から次々と閃光弾が発射された。

「敵船より『白旗』確認。如何致しますか?」

「二番艦から五番艦は海賊の捕縛及びデブリの回収。六番艦から八番艦は周辺警戒。本艦並びに残りの艦は海賊の動きに注意せよ」

 その質問に、彼はてきぱきと命令する。


『了解!』

 すると、ブリッジクルーと彼の座る艦長席専用のモニターに表示された十数人の白い軍服を来た男女が敬礼しながら応えた。

「…ふう」

 その後、命令を受けた艦隊は動き出しそれを見て彼は少しだけ緊張を解いた。

「お疲れ様です」

 すると、副官が彼に飲み物の入ったボトルを渡した。

「ありがとう。……この件も一段落だな」

 副官に礼を言い、彼はゆっくりと精神疲労に効く栄養ドリンクを飲み一息ついた。

「ええ。…連中が出没してから、およそ3ヶ月。随分と掛かってしまいましたね……」

 副官は、沈痛な面持ちで応えた。

「…ああ。だが、これでようやく遺族や被害者の方々に吉報を伝える事が出来る」

「…ですね」

「-報告します。敵旗艦のデブリ回収及び海賊の捕縛を完了しました」

 その言葉に、少しだけ元気を取り戻した副官。すると、そのタイミングで報告が入った。


「…増援の気配は無いようですね」

「ああ。

 -全艦に通達!これより、本部へ帰還する!…諸君の働きに感謝する!」

『はっ!恐縮であります!』

 彼らは互いに敬礼し、この宙域を後にするのだった-。



 ◯



『-おはようございます。帝国国営放送が朝のニュースをお伝えします。

 まずは、近頃ウェルス星系を荒らしていた大規模海賊団の続報をお伝えします。

 …帝国時間深夜、大規模海賊団は帝国軍討伐部隊と友人たる属国の有志で結成された連合艦隊によって、壊滅致しました!…っ、失礼しました。

 繰り返します-』

 -…さてと、始めますかね~。

 歓喜のニュースが家のリビングに置かれたモニターから流れるなか、俺はその空気にそぐわないのんびりとした心持ちで敷地内の納屋の扉を開けた。…っ!相変わらず、ホコリっぽいな~。

 マスク型のエアフィルターとゴーグルをしているおかげで呼吸と視界は問題ないが、それでも長居はしたく無い場所だ。…だが、そういう訳にもいかず左手首に装着した通信デバイスを起動し、『サポーター』を呼び出した。


 すると、家の方から小さなモーター音が聞こえて来た。そしてそれ…『サポートドローン』は俺の背後で静止した。

「『ノルヤ』、納屋のライトを点灯してくれ」

 俺は、そのドローンの『ノルヤ』に指示する。

『了解シマシタ』

 ノルヤは電子ボイスで応じ、納屋の天井に向かって上昇して行き数秒後、納屋に明かりが灯った。

「ノルヤ。一旦戻っていてくれ」

『了解シマシタ』

 戻って来たノルヤにそう告げると、彼(ボイスサンプルが男性のモノだったので)は家に戻っていった。…まずは、全部出さないとな。

 俺は納屋に入り、父から任されたれっきとした『仕事』である、納屋の清掃を始めた。



 -…ふう。一旦休憩しよう。

 それからおよそ一時間、浮遊デバイスを使用しながら仕事に勤しんでいると、腕のデバイスからアラーム音が聞こえた。なので、休む事にして一度外に出る。

「…ふう~」

 ついでに俺は、ゴーグルとマスクを外し、新鮮な外の空気を吸い込む。…はあ、仕事とはいえ清々しい春の昼間になんで汚れているんだろうな~。

 ふと、心の中でぼやいた。…まあ、だからと言って同年代のやつらみたく『こんな田舎の星から宇宙に飛び出して…』っていう選択肢は取れないんだけどな~。

 そして、直後にその原因をぼやいた。…要するに、俺には宇宙に飛び出せない理由があるのだ。


 -その名は『無重力酔い』。俺は、この宇宙時代において極めて厄介な体質を持っていた。

 当然の事ながら、宇宙に出るには『船』が必要だ。…そして、余程の規模の船でない限り原則重力発生装着は搭載されていない。

 つまり、一般人でも購入出来るような船に乗っている間三半規管から生ずる地獄の苦しみに耐えなければいけないのだ。……ちなみに、この無重力酔いは改善出来る体質でもあるが、今俺の居る場所…即ちこの惑星『ライシェリア』にそれに対応した医療施設なんてモノはなく、首都のある『ファーマルス』にもない。

 …それがあるのはこの『グリンピア』星系…通称『緑の銀河』の隣の星系『ホワイトメル』、通称『治癒の銀河』と呼ばれる星系の首都惑星『ファストピタル』が一番近い。…それを知った瞬間、金銭的な事情もあったが隣の星に行くのもある意味命掛けな俺は宇宙への思いを断ち切り、そこそこ大きなライス農家を継ぐ事を決めたのだ。…はあ、止め止め。


 気分が大分ブルーになってきたのと、丁度休憩時間が終わりそうだったので気持ちを切り替え、再びゴーグルとマスクを装着して仕事を再開した……その時-。

 ……ん?何だ…?

 ふと、今では滅多に聞かなくなった古めかしい解錠の音が聞こえたかと思ったら、中央の床の一部がゆっくりと左にずれていき下に降りる階段が姿を現した。…おいおい。まるで一昔前に流行った『スパイ系データノベル』のような展開だな。

 そんな考えが浮かぶが、ふと俺はこの状況に笑っている自分に気付いた。…まあ、敷地面積から考えてそんなに長くはないだろ。

 そして、俺は『確かめる気満々』で階段をゆっくりと降りて行きそして予想通り直ぐ近くにあった、鋼鉄のドアの前に立つ。…ふむ、やはりというか生体認証式のロックだな。

 しかし、現実は残酷だった。案の定、ドアのロックには厳重なセキュリティがセットされていた。


 …はあ。まあ、ダメ元で-。

 俺は肩を落としつつ、ほんの僅かな好奇心からそこに手を置いて見た。

『-認証完了。ロック解錠』

 …開いちゃったよ。

 しかし、俺の予想は見事に裏切られた。なんと、ロックが外れドアが開いてしまったのだ。…うん、とりあえず一旦親父に報告しよう。

 もはや、俺の手には余るので俺は後ろ髪を引かれる思いで来た道を戻るのだった-。

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