第7話 ふれあい酒場

「やっと着いた……」


狼犬ウルフ・ドッグ達を何とか倒し、その後は女神の結界によって、魔獣に遭遇することもなく、無事に下山しました。

こんなに長距離を歩いたのは、いつぶりでしょうか。

日々それなりに鍛えていたとはいえ、情けないことに、脚が若干筋肉痛です。

現実世界では、日々お嬢様の送迎などしていましたが、車の運転が圧倒的に多かったため、気づかぬうちに、体が鈍ってしまっているようです。

一筋縄では到底いかないだろう、この世界に転生したからには、体を鍛え直さなければ、生き残れそうにありませんね。


ともあれ、山の上から見えていた街にたった今、到着しました。

目の前に広がる街並みは、中世ヨーロッパに似たような雰囲気で、一般の家屋から、様々な店などが道の両脇に立ち並んでいます。


「お嬢様のことを探したいが、どこから探せば良いのか……」


思案しながら、街を歩いていますと、行き交うご婦人方が、私の方をチラチラ見てきます。


「あの人、見慣れない格好ね」

「ということは、あれが今回召喚された勇者様じゃない?」

「迫力はないわね。でも、かなりなイケメンじゃない?」

「そう?私は、ゴリマッチョな感じのが、好きかなぁ。ちょっと、野生的で、息も荒々しいみたいな」

「何ソレ、もうゴリラじゃん!」

「あらやだ、私のタイプだよ!もう20歳若ければ!」


外見しか情報がないため、ひたすら外見の評価だけが飛び交っています。


「あれが、今回の勇者様か」

「凛々しいというよりも、物腰の柔らかそうな感じだなぁ」

「女神様はどこだ?見当たらないな」

「ほら、女神様によるじゃないか?付きっきりタイプと放置タイプが」

「じゃあ、今回は放置の方なのか?」


行き交う男性達の囁く内容には、とても複雑な気持ちになりました。


さて、どうするか……。

闇雲に歩き回っても、仕方ありませんね。

情報を得やすいのは……人が集まる場所。

ちょうど今、「ふれあい酒場」と書かれた、ジョッキに入った酒のマークの看板がすぐ横に見えます。

この世界の金銭を持ち合わせていませんが……とりあえず入ることにしましょうか。


ドアを開け、店内に入ると、たくさんの人々で賑わっています。

騎士や戦士を思わせる、甲冑を身につけた者や、顔も隠れるほどのローブを纏った物、軽装にマントを羽織った者……様々な人々が、酒を飲んだり、話をしたりしていました。

この中の誰かに、声をかけてみようかと思っていたところ。


「アンタ、仲間を探しに来たんだろ?こっち来いよ」


不意に声をかけられ、振り返ると、長身で、やや長めの明るい金髪にバンダナを巻き、整った顔立ちながら、目付きの悪い若者がいました。

お世辞にも、素行がいいとは思えません。


「……間に合っております」

「ちょっ……、オイ、待てや!」


軽く流そうとした私の肩を若者が、がっしりと掴んできました。


「貴方と、ふれあいたいとは思っておりませんので」

「……バカヤロウッ!!『ふれあい酒場』って、言葉の言い回しだろうが!?こっちも男と、ふれあわねーよ!!」


顔を真っ赤にしながら、金髪青年が叫びました。


「女神から、アンタのこと頼まれてんだよ!!」

「……!」


あの銀髪女神から?


「お触れが届いてんだよ。これだ」


そう言って、金髪青年は、肩に背負ったバッグの中から、文字のしたためられた羊皮紙を取り出し、紐解いて広げました。




『勇者と同行予定の冒険者の皆様


いつもお世話になっております。女神事務局です。

日頃より、世界平和にご協力ご理解を頂きまして、誠にありがとうございます。

さて、新たな転生者ゆうしゃが、このシエナに立ち寄る予定となっております。

転生者ゆうしゃの特徴は、女神より授かりし分厚い魔法書を持っておりますので、見かけ次第、速やかに冒険仲間パーティーに加えて下さいますよう、宜しくお願いいたします。

なお万一指示に従わない場合は、大変重い神罰ペナルティーを下されることもありますので、くれぐれもご協力頂きますよう宜しくお願いいたします。



女神事務局』




「……圧が、すごいですね」

「だろ?女神には逆らえねーよ」


金髪の若者は、小さく溜め息をつきました。


「まだ全員じゃないが、アンタと仲間になるヤツらが集まり始めてる。だから、こっちに来てくれるか?」


どうやら、いろいろと、あの女神がすでに根回ししているようです。仲間ということは、私はこの世界を一人きりで生き抜かねばならないわけではないようですね。

それはそれで、心強いと言えるでしょう。


「分かりました」


彼に案内され、店内の奥へと進んでいきました。


「俺の名は、ラルク。職業ジョブは盗賊だ」

「私は、柿崎悠一です」

「カキザキ、か。なんか、その格好、貴族に仕えるヤツみてーだな」

「はい。私は執事ですので」

「なるほどな。……ほら、これがアンタと組むメンバーだぜ」


ラルクに連れてこられたテーブルには、すらりとした体に、シルバーの甲冑を纏い、黒髪、切れ長な黒い瞳の青年と。紫のローブを肩から全身を包むように纏い、ふわりとした淡い金髪、碧眼の可愛らしい女の子。そして、弦楽器を持ち、波打つ長い銀髪、サファイアのような青の瞳を持つ、中性的な美貌の人物がいました。


「みんな。勇者のカキザキを連れてきたぞ」


テーブルについていた冒険仲間パーティーの方々が、一斉に私の方に視線を向けました。


「日本より転生してまいりました、柿崎悠一と申します。まだ右も左も分からない若輩者ではございますが、今後とも、どうぞ宜しくお願いいたします」


始まりから混乱の連続でしたが、気持ちを切り替えて挨拶をいたしました。


「みんなも、自己紹介を頼む」


ラルクの呼び掛けに、まずは紫のローブを纏った13、4歳くらいに思える、金髪の可愛らしい少女が恥ずかしそうに口を開きました。


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