第十七話 イストリア王国とミーシャ・ゴードンとの誓い


 ホワイトホルン大陸の南東に海を背後に巨大な城塞都市を持ち、エルドール王国とイストリア王国の間のベガル平原の一角を防衛拠点として整備させた三つ葉城砦を持つホワイトホルン南部で圧倒的な力を誇るのがイストリア王国であった。


 本拠地の城塞都市は難攻不落と云われており、その城塞都市を見たものは皆が納得のいくほどの壮大さであった。


巨大な五段構えの城門は全て鉄で出来ており、一段目が突破されても二段目、三段目とあり、大きな門の城内上部には網目の鉄格子があり一段目が突破された際には二段目に押し寄せてくる敵に対して、油を流して火をつけて城門を破るために必要な破城槌はじょうついと敵を灰と化した。


攻城兵器であるカタパルトに対しても、城塞都市の高みには投石兵器が五段構えに設置され、その昂然たる連続投石は遠い位置にあるカタパルトを粉砕させた。

 

イストリア王国の歴史は古くからあり、その詳細な記録は残されていないものの歌として残されており、吟遊詩人や子供たちに世代を超えて歌われ伝えられてきた。


 広大なベガル平原は現在も主に北部と南部の二つに分かれており、元々は百以上ある中の一部族であったベガル平原南部を、統一へと導きイストリア王国を築いたのは、現在の国王であるダグラス・ゴードンの始祖アルバート・ゴードンだった。


部族間の争いはすでに数百年の間日夜続き終わることのない争いになっていた。その頃すでにベガル平原北部は、さらに北に位置する最北東にある雪の絶えることのないヴァンベルグ君主国の脅威にさらされていた。


 そのヴァンベルグ君主国は最北部を二分する最北西を統治するグリドニア神国と膠着状態にあり、ヴァンベルグは平原の部族を制圧して妻や子供を人質に取り、ヴァンベルグの将軍を大将としてグリドニア神国のベガル平原の南西のから攻め込ませ、本国からも猛将で名高いバイロン率いる大連隊を主力とした大軍を同時に送り込む算段をつけていた。


 アルバート・ゴードンはベガル平原が力を合わせなければ未来は暗いと日々感じていた。五十名程度の小部族から、数千を超える大部族が南部だけでも百近くあり、北部にも同数程度の部族たちがいた。


 そもそも部族たちはベガル大平原に住居する館や居城を構えるという考えはなく、昔から遊牧民として季節ごとに移動し、飼い葉で羊や牛、馬などを飼って暮らしていた。


行商に行くこともあれば王国や商人のほうから彼らの狩りに長けた能力を生かして得た貴重な毛皮や、工芸品を買いに行き商売人として取引し、遊牧民たちはそれで生計を立てていた。


 そんな折、大空に巨大な影が地上をおおった。

その影が発する赤い炎は全てが灰になるまで燃やし尽くした。

その翼は人間たちを吹き飛ばし、抵抗しようとする者は青い炎の一口で従順な暗黒竜の配下となり、心の強い者は巨大な牙を赤く染めていった。


そして何にも使わない黄金や宝石の全てを奪いつくした。

国という国、何の因果もない暗黒竜ギヴェロンは人々を赤い炎で焼き尽くし食らい尽くし青い炎で人間を配下にし世界統一を成そうとした。


大陸全土を敵にまわしたが、人々は洞窟に隠れ住み、闇の深い森に逃げ込み怯えて暮らした。国々は国とは呼べないほど何もかも破壊された。全ての黄金を口に含み暗い巨大な洞窟へ黄金を貯め込んだ。


眠りたい時に眠り、起きたい時に起き、食らいたい時には肉という肉を食らった。 暗黒竜ギヴェロンがいつもの様に肉を食らい尽くし人間の城を破壊し黄金を口にくわえて根城に向かって飛んでいった。


しかし、全ての人間が怯えて隠れ住んでいた訳ではなかった。

隠れ住んではいたが目的のため怒り胸に秘めて抵抗しようと考えていた者たちがいた。人間たちにしか分からない暗号を使い、大陸全土にギヴェロン討伐を鳩を使って呼びかけた。

 

彼らは日時を選び指定の場所に五人の勇者が集まった。

彼らはそれぞれ名匠と呼ばれている鍛冶屋に暗黒竜の硬い鱗に通じる武器を作らせていた。


誰もが暗黒竜の命を絶つために命を懸けて挑むと決めていた。

鎧など竜の一撃で吹き飛ばされる意味のない物は一切身に着けず、ギヴェロンを殺すために動きやすい軽装にして、武器だけを頼りにした。


彼らは暗黒竜が無視する伝書鳩を使い互いに準備が出来る日を決めた。

暗黒竜に立ち向かうのは大陸全土に五人だけしか集まらなかったが、皆が命を捨てるに値する死闘だと分かっていた。


暗黒竜を最後に見たのは十年前だった。その間に準備をして彼等は自ら暗黒竜ギヴェロンの根城に向かった。



 イストリア王国を築いたのは暗黒竜ギヴェロン討伐に参加したアルバート・ゴードンだった。ギヴェロン討伐を果たした後、己の聖地であるベガル平原南部に戻った時、大勢の部族や長がアルバートに膝をついて出迎えた。


彼を王として百氏の部族が、アルバート・ゴードンに命を捧げると誓いを立てた。

アルバート・ゴードンは皆に乞われて王座についた。


そして彼らはイストリアの百氏族と呼ばれるようになった。年越しの際には百王祭と呼ばれる大きな宴が行われ、百人の氏族の長が認めた者としてアルバート・ゴードンは百王と各地で呼ばれるようになった。


アルバート・ゴードンは自らの領土と誓いを立てた者たちの地に、壮大な城塞都市を築いた。再び強敵が来ることを考え、それを撃退しうる兵器と城内にも市場を十分に開ける場所を作り、商売も繁盛できるようにした。


地下には避難場所を設けて争いの際には争いが終わるまで避難できるようにギヴェロンのようなものが再び来ても対抗できるように造り上げられた。 


 そして国名をイストリアと名付け、南部同士の争いを防ぐためと北部からの防衛のために三つ葉城塞を築いた。形が三つ葉のように見えるためと、エルドール王国とイストリア王国と三つ葉城塞の位置が三角形になっていたので、そうも呼ばれていた。


皆、しばらく様子を見ていたが安全なことに気づいた商人たちが集まり、市場を作りたいと王であるアルバート・ゴードンに願い出て、南部の平和も乱れることがなかったためこれを許した。三つ葉城塞の防衛には常時、兵士が配備され平原南部はそれ以降小さな小競り合いはあったが、大きな争いは希にしか起こらず今現在に至っていた。



 イストリア王国はこうして生まれた。現在の王であるダグラス・ゴードンはゴードン一族の過去を学び、平和を守るには兵士の鍛錬は必定であるとしてエルドール王国のロバート王の口添えで、ミーシャの八歳の生誕祝い以来、親交を深めてきた刃黒流術衆の者が三つ葉城塞まで教官として四季ごとに十名交代制で送られるようになった。


刃黒流術衆の領主の厚意で、三つ葉要塞の防衛には刃黒流術衆三百名が常に、交代制で鍛錬しつつ防衛についた。


彼等が三つ葉城塞にいることにより、敵対する南部の部族からそれまで昼間は挑発をしてきたり、夜間に攻めてきたりしていたが、それ以降来挑発や争いが起きない理由のひとつでもあった。



「アニー! 凄い速さだな!」我が身が凍りそうなほどの速さであったが、あまりの速度に嬉しくて寒さをほとんど感じなかった。


鍛錬の過程で凍りついた水の中で息を止める修業もしていた。

熱くても熱がらず、寒くても寒がらず、常人には不可能な鍛錬を日常のようにしてきた。


 エルドール王国から出発してまだ三時間足らずで、すでに三つ葉城塞を越えていた。エルドールとイストリアの中間に位置する三つ葉城塞を越えたということはあと三時間程度でつくという速さにディリオスは驚いたが、中位と上位の天魔のことを思わず考えてしまった。


(これ以上の速度に即時対応出来るようになるまで、時間は無駄にできないな)黒いたてがみがあまりの速さになびかず大人しくしていた。アニーもまだ能力に目覚めたばかりであり速度は更に上がる、いざという時は頼りになるとディリオスは思った。


 三つ葉城塞からイストリア王国の城塞都市に近づくにつれ、争いの爪痕が増えていった。投石機で投げた大岩の痕が整備された石畳の通路に幾つも残されていた。すでに大岩の回収は終えており、その対応の速さはさすがだとディリオスは感心したと同時に、サツキのような感知能力者タイプがいることも分かった。


城の近くには一切戦いの痕跡が無かったからだ。

近づかせる前に迎撃したのだと思った。

投石機で飛ばした大岩の運搬には通常は丸太を使って運ぶのに対して、大岩からは足跡が幾つも残されていた。


それを目にして身体能力に特化した能力者が、幾人もいることに気がついた。

痕跡を見るだけで多くの者が強者に変化していると感じた。しばらくどのような状況なのか調べるために旋回していたら、視線の先に三つ葉城塞方面から十数騎の騎兵隊が力走しているのが見えた。どの馬も相当な速さだと一目で分かったが、何かを追いかけているように感じ、彼は眼下に目をやった。


 一騎の葦毛あしげ色がアニーを追い越す速さで疾走していた。

(アニー。どうやらお前の姉弟のようだ)地上での脚力はアニーより速く見えた。ディリオスは少し考えて分かった。


(三つ葉城塞にカミーユがいたのか。カミーユはあの天使軍を見たということになる。どう思ったのかが気になる、幸いイストリア城塞には近づくことすら無くて何よりだ)そう思うとミーシャと数年ぶりに逢える喜びに浸った。


 直接ミーシャの部屋近くの庭園に降りることもできたが、騒動が起こったばかりで余計な緊張を生まないために、ディリオスはアニーに地上に下りるよう言った。


アニーはとても賢い馬だった。臆病でもあったが、ディリオスがいる時はいつも勇気を出して頑張ってくれていると長い時間を共にした故か、心から確信に近いほどそう感じていた。意思疎通ができるほど愛馬であるアニーとディリオスは共に長い日々を過ごしてきた。

はばたき舞い降りた漆黒の天馬に、警備兵は驚いた。


 一足遅くにカミーユが着いた。「ユニコーンか! 通りで速いはずだ。牡馬だし理にかなっている。強さも申し分ないんだろうな。名前はなんと名付けた?」ディリオスは一角獣と呼ばれたくはないだろうと思ってそう言った。


葦毛の馬からカミーユは降りながら、彼の心遣いに感謝した。

「ディリオスさん。お久しぶりですね、父王と母もミーシャも喜びますよ! こいつの名前は疾風ゲイルにしました」

「ゲイルか、良い名をつけたな」

「それよりも戦いを見させてもらいました。まだまだ力を隠していますね」


カミーユはディリオスの戦いや、久しぶりに会えたことや、尊敬する彼に会えたことに色々な喜びを見せた。


自分の来訪を心から喜んでくれるだけで、ディリオスには心地よかった。

黒装束を怖がる者が多い中、イストリア王国の人々からは笑顔で迎えてくれる優しさに久しぶりに触れた。


「まあな。カミーユこそ相当鍛えているようだな。身体能力もまだ上昇中のようだな。明日は俺が稽古をつけてやろう、殺さないよう手をぬいてやる」黒衣の男は笑顔で言った。


 カミーユの情報は御庭番衆サツキを通してディリオスの耳にも入っていた。特殊能力も使い方次第では、倒すことも難しいとも聞かされていた。


御庭番衆は真に強い者しかなれない。御庭番衆の中でも洞察力に長けるサツキが言うから、特殊能力を活かした戦いのほうが強いのだと分かった。


つまりは当然双方のエネルギーはそれほど高くないのだとも考えていた。ディリオスは敢えて身体精神エネルギーがどれ程重要なのかを身を以て教えようとした。


御庭番衆になるにはあらゆる状況を分析し、それに即座に対応できない者は名乗ることは許されない称号だった。


ディリオスは密かにどのような力なのか気になっていた。身体精神エネルギーを相応に身につけているのであれば、組手稽古を通して実戦に近い戦いを、教えるつもりでいた。しかし、エネルギーがまだ低いのであれば痛い思いを糧にさせようと思っていた。


「私も強くなりましたが、ディリオスさんにはまだ到底敵いません。殺す気でいかせてもらいますよ」漆黒の者は笑みを浮かべた。


「今夜はもう休んで明日朝食でも食べながら色々話しましょう。

ミーシャの喜ぶ顏が目に浮かぶようです、毎日ディリオスさんの話をするんです。不思議な事にミーシャも能力者のようなのですが、どんな能力なのか聞いたら内緒だと言われました。

ディリオスさんには教えてあげると言ってましたので、話してみてください」


 青年はイストリアの全ての騎士たちに、不変の漆黒の賓客ひんきゃくがきたと伝えるよう指示を出した。

アニーとゲイルはお互いの頭を摺り寄せていた。アニーの頭をひと撫でして、ディリオスはカミーユに客室まで案内してもらった。



 夜が明けた。ディリオスは故郷よりも落ち着けるイストリアの平和のせいか、緊張の糸が切れたように深い眠りについていた。朝食を一緒に食べようとミーシャはディリオスの顏を覗き込んだが、起きる気配はまるで無かった。


そこにいたのは疲労困憊した一人の男だった。ミーシャは父ダグラスにそれを伝えた。起きるまでゆっくり眠りにつけるよう国王は配慮した。


 ディリオスは疲れた体を起こして時計を見た。もう真昼だと気づいて、ここには久しく感じたことのない安心と安全が、あることに気がついた。彼は扉に向けて素早く力を込めた拳風を二度放った。強すぎず弱すぎず放った見えない拳は、トントンと扉を叩いた。


「お呼びでしょうか?」騎士は入ってから不自然さに気づいたが命令を待った。

「昼食には間に合うか?」

「今支度中ですので十分間に合います。王にお伝えしましょうか?」

「ああ。頼む。あと朝食の件は俺から直接謝罪する」

「わかりました。では昼食の準備が整うまでご自由にしてください」


(アツキとはまた違うタイプの伝達能力に秀でた者がいるみたいだな)

ディリオスは装備一式と常に携帯している武器も部屋に置いて軽装着に着替えるとそのまま部屋を出てミーシャに逢いに行った。


 部屋の両脇には騎士が立っていた。漆黒の戦士に気づき騎士はミーシャの部屋の扉を軽めに叩いた。


「入っていいよ。どうしたの?」ディリオスが入ってきた。

「まだまだお姫さまとは呼べないが可愛い女になったな」窓の外を見ていたミーシャは言葉と同時に振り向いた。


「おはよう! やっと起きたのね!」正面から抱きついてきた。

すっかり大きくなっていたが、いつまでも昔と変わらない挨拶を彼は喜んだ。

年頃に成長した彼女は、腕輪もすっかり馴染んできたようだった。


「その腕輪も似合っているな」

「でしょ? これは世界に一つしかないんだってね! そう言えばディリオスが戦っている時見てたよ!」


「どうやって見ていたんだ? その手の能力者がいるのか?」

「わたしね、毎日ディリオスの事考えていたら、ディリオスの見ているものとか心で思うことがわかるようになったの!」

(想いの強さから生まれる能力か、複数は原動力であるエネルギーを使いすぎるから無理だろうが俺限定ならありえるか)と彼は考えた。


「普通の時は疲れすぎるからあんまり使わないようにしなさいってお兄さまに言われているから、昼食は一緒に食べられるかなって思っていただけだから気づかなかった」


「そうだったのか。しばらくはここに滞在するつもりだから一緒に出掛けたりしような」青年は微笑みながらミーシャを見た。


「うんうん! 行きたいところはいっぱいあるけど、危険だからいつもはダメって言われるの。でもディリオスと一緒なら行っていいって言われると思う。兄さまも今日稽古をつけてもらえるって喜んでたよ!」


(お食事の用意が整いました。皆さま大食堂へお越しください)

直接頭の中で声がした。範囲系伝達能力者か、平和が維持できる大国ならではの能力者だなと漆黒の男は思った。


「食事ができたみたいだね、一緒に行こ! ディリオスはわたしが連れていくから大丈夫!」


(厳選してしかも、全体に伝えるとなるとかなりのエネルギーを使うはずだ。最後の天使の話ではエネルギーがないと能力発動できないようだからな、基礎的な力をつけないと能力を使いこなせない。この声の能力者はかなりの手練れだな)

 

 ミーシャに手を引かれて大食堂まで連れて行かれた。そして王族の列席であるミーシャの隣に座った。ダグラス王が立ち上がりディリオスに一礼して声を発した。


「今日からしばらくの間、刃黒流術衆の棟梁であるディリオス殿が滞在する。学ぶ事は尽きぬほど多いが、このような機会は滅多にない。彼に滞在中の稽古は全て任せる。皆、死地だと思って鍛錬に励むことを命ずる」部隊長以上の者たちはディリオスに深く礼をした。


ダグラス王が席につき、食事を食べ始めると皆もくもくと食べ始めた。ディリオスは熱烈な歓迎に、感謝を込めて一礼した。

 

 食事も終わり、ミーシャが父王に話しかけた。

「父さま。ディリオスとお出掛けしていい?」王はディリオスに、目と態度を持って答えた。

「ゆっくり楽しんできなさい。明日もまだあるから程々にしなさい」

「うん! ね? ディリオスが一緒だと大丈夫でしょ?」ミーシャは笑顔で彼のほう見た。


「その笑顔には勝てないな。王妃さまにもよろしくお伝えください」ディリオスは味わったことのない幸せを感じた。彼の世界には産まれてから存在しなかったもののため、意思に反して動揺した。(同時にこの世界は命を捨ててでも守り通してみせる)と思った。


「稽古は十五時からしよう。カミーユは三つ葉要塞で御庭番衆に稽古をつけてもらっていただろうから、まずは素手での稽古から始める、急所が天魔に有効なのは実戦で確認済みだ。


暗殺拳の指導を受けてない者も身体能力が高い者は参加していい。俺が最近体得した発勁はっけいは、我らの急所を狙う暗殺拳とはまた違う内殺拳ないさつけんと名付けたもので、硬い敵などに特に有効な技だ。言葉通り外部を傷つけずに内部を破壊する技だ。急所のように一撃で戦闘不能にすることは、基本の身体能力で大きく差が出るが扱えるようになれば強くなれるぞ」カミーユは嬉しそうにうなずいた。


 ミーシャは話が終わるのを待っていた。話の終わりにすぐにミーシャに手を引かれた。


「それではミーシャのお供をしてきます」両人とも笑顔だった。ミーシャの手に引かれて城下町に出た。


城では見たこともないような物だらけで、ミーシャはどんな物にも目を輝かせていた。いつもと違う軽装備で黒衣をまとってない自分を怖がる者はいなかった。

 市場で欲しいものを色々買って、初めて見るものも色々あってか、疲れた様子を見せた。彼はミーシャを抱きかかえると、そのまま背中にまわした。


万が一に備えて、イストリアの騎士四名が普段着で見守っていることに気づいていた黒い戦士は、荷物を持つよう呼び出した。



 ディリオスに背負われて、ミーシャはどこにいるよりも安心感に満たされた。(ディリオスの背中広くて暖かい……ずっとこうしてたいなー)彼の鼓動を背中に耳を当てて聞いた。自分と同じくらい少し速い鼓動だった。ミーシャにとって誰よりも信じられる人で、誰よりも頼りになる人の心地の良い鼓動と、緑の香りが彼女を静かな眠りにつかせた。


城に戻り、自らミーシャの部屋まで運んで横に寝かせた。

おでこにキスをし、今度は自分の客室に戻った。


 いつもの戦闘具である黒装束を手に持つと彼は訓練広場まで窓から飛び降りた。訓練場に黒衣を手にもったディリオスがいきなり現れた。

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