死神の青年は束の間の休息を許されず。

 今日も今日とて、人類の進化の果てにたどり着いた究極の発明品、こたつから首から上しか出さずにオレは

「平和だ……」

などと呟いていた頃。

きっとその上、屋根を超え、雲を超え、宇宙なんかよりもっとその先の天上かもしれない。概念でしか存在しないような空間で、井戸端会議みたいな話をしている存在が二ついた。


「なに不貞腐れているのかしら〜?」

「だって思ったよりつまらなかったんだもの」

「あらーそうかしら〜? いいじゃない大団円で」

「神が大団円なんて言う結末。なにも面白くないわ」

「貴方はなにを期待していたのかしら?」

「そりゃあ、勘違いは勘違いのまま、誤解は誤解を招き、拗れていく様……を見たかったのだけれど」

「その割にはヒントを与えまくってたじゃない」

「見ていたら、私も介入しないとなんか除け者みたいであれだったのよ」

「貴方もやはりとても難儀な性格してますね〜」

「人格めちゃくちゃな神様に言われたくないわね」

「そうですよ〜。ワタクシ神様ですし、なんでも許されるのでは?」

「許されるも何も、誰も神様なんて許せないでしょう」

「それもそうね〜」

「というか大事な駒いなくなっちゃって、いいのかしら?」

「メルちゃんのこと? あの子はただの迷子の仔猫ちゃんってだけだったので。ワタクシには、永遠に死神として仕えてくれる部下がいるのでご安心を〜」

「部下ねぇ……、まぁでもその部下くんのおかげで少しは面白くなったかもしれないわね」

「悪戯は程々にしないと自分に返ってきますよ」

「私なんて最初からマイナスどころじゃないのだから。それこそ何をしても許されるわ」

「神ではないくせにそんな自信満々と」

「あら、神様のくせにそんな心が狭いようなことをいうのね」

「ワタクシに心なんて元からありませんよ」

「そうだったわ」

「貴方はワタクシと違ってちゃんと生者せいじゃなのだから、心くらい持てばいいのに」

「期待するだけ無駄よ。もう忘れ去られた亡霊みたいなものなのだから」

「あらどこかにお出かけ?」

「もう此処には私が干渉しても面白そうなこと、今はないしね。違う世界で遊んでこようかしらって」

「話し相手がいなくなってしまうのは寂しいわね〜」

「優秀な部下がいるんでしょ? 話し相手になってもらいなさいな」

「そうだったわ。メルちゃんがいなくなった分の仕事振らないと」

「ということで、また面白そうだったから覗きに来るわ」

「いつでもいらっしゃい。寂しい魔女さん」

「一言余計だわ」

「さて〜、魔女さんも消えてしまったし、平和そうにしている彼でも呼びましょうかね〜」



「ということで、メルちゃんがいなくなった穴埋めはよろしくおねがいしますね〜」

「??????」

 何を言っているかオレにもわからないが。オレは今、こたつでぬくぬくしながらみかんの皮を剥いていたはずだった。はずだったが、ここにはこたつもなければ、手に持っていたみかんも消えた。ただただ指先にうっすらと黄色い染みが残っているだけだ。

「え、オレのみかんは?」

「あ、これ貴方のみかんなんですね。ご丁寧に皮も剥かれていたのでお供物かと」

目の前で人のみかんをモグモグ頬張っている神様がいた。

「この場合、神様に楯突くと存在ごと消されるとかあるんですかね」

「はぁ〜甘くて美味しかったです。ありがとうございます」

「無視ですか」

「で、もう一度言いますが、メルちゃんの穴埋め、よろしくおねがいしますね」

「え、あいつの分の仕事もオレがするのか?」

「日中お暇なようで」

「暇ではないが」

「ゴロゴロしながら、しろと戯れたり、亞名ちゃんが買ってきた娯楽で時間を潰していることのどこが暇じゃないのですか?」

「バレてるのか」

「そりゃあワタクシ神様ですし。そもそもメルちゃんがいなくなったのはカズトくんが選択したいくつもの答えのせいでもあるのですよ〜」

「そんなこと言われても。そもそもメルははぐれタマシイ? じゃなかったわけだし」

「あら随分と言うようになりましたね〜」

「まぁ、どうせ長い付き合いになるんだからこれくらいいいだろ」

「人は変わっていきますからね。多少は許容しましょう。では、リストを渡しますので、日中はこちらをお願いします」

オレより遥かに規模が大きい神様が指でつまんで渡してきた紙のような束を、両手で受け止めて相手が離すとその重さに耐えきれず前のめりに倒れそうになった。

「重っ」

「少し溜まってしまいましたから〜、延期にしているものもあるのでそちらから片付けちゃってくださいな」

「……はいワカリマシタ」

「じゃ、帰っていいですよー?」

「え、また落とすんじゃないでしょうね?」

「リストはちゃんと留めてあるので大丈夫です〜」

「いやそういう話じゃあああぁぁぁぁぁあぁぁぁ」

何度目かのスカイダイビング。からの激突事故。これには慣れたくないと願うばかりなのであった。

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