死神の彼女は行く先を決める。3
「はぁ、はぁ、っはぁ、着いた……」
中腰になり、両膝の上に両手をつく。肩が大きく上下しているのがわかる。すでに死んでいてそんな概念などどこにあるはずもない細胞や心臓がバクバクと動いているのを感じる。これもきっとオレの勘違いに近いんだ。
そうなるはず、と思っていることがただの思い込みで、実際は随分と違う。ただ思い込みというのは簡単には消えない。そう厄介だから思い込みなのであって、それが強すぎると現実にも影響するというのはよくある話だ。
目の前の建物はもう夜だからか玄関口は開放されていない。オレは見えないはずの者だから馬鹿正直に受付に行くこともできない。つまり建物内に入ることが困難だった。何も考えずに走り出してきてしまったため、足止めを食らってしまう。
(早く、早く伝えなきゃいけないのに)
ウロウロとその場で誰かが都合よく通らないものかと辺りを見渡す。すると玄関口とは違う専用通路だろうか、そこの扉が開いており、中から誰かが手招きしているのが見えた。気になり近づくと、その手招きは亞名のものだった。
「亞名? なんで先にいるんだよ」
「わたしは、鍵があるから」
「………………」
なるほど。走らなくても裏門から直接行く手があった。というかそっちのほうが早く着いていたし余計に疲れることもなかったわけだ。
「……早く言ってくれよ」
「かずと、勝手に走ってったから」
「悪かった」
中に入ると、亞名が何かを持っていることがわかった。
「何持ってきて……」
「やぁ」
「うわ……」
「うわ……とはこの私に失礼だと思わないのかしら?」
「スミマセン魔女サマ」
「心が全くこもってないけど……まぁいいわ。面白そうだったから直接見たくて連れてきてもらったわ」
あの魔女に心がこもってない、などと言われたくはない。
「……亞名はどうするんだ? 来るのはいいがバレると怒られないか?」
「その時はどうにかするから」
「そっか。じゃあ行くぞ」
オレ達は階段で4階まで上がり、駿河夢依の病室へと進んだ。
案の定そこにはメルと、メルの、駿河夢依の母親がいた。
「あの、失礼します」
まず亞名が病室に入るため、母親に声をかける。
「はい……あの、どちらさまですか?」
「わたしはこういう者で」
亞名は準備がよかった。亡くし屋の名刺を持ってきて、明日の打ち合わせだとかなんとか言って母親のみを亞名に集中させることができた。
(グッジョブだ、亞名)
心のなかでガッツポーズを亞名に向ける。
「……なんの用?」
顔をこちらには向けず、メルはオレに問いかけてきた。
「なぁ、メル聞いてほしい」
「なにを? あぁ、明日のアタシの依頼のこと?」
「いやちが──」
「そういえば、魔女さんに聞きたいんだけど」
メルはオレの話を遮り、魔女に会話を移す。
「はいはーい、なんでしょうか?」
そこで普通に会話し始めるのが魔女だった。
「アタシ、死んだらどうなるの?」
「さぁ? 私死んだことないし、そこの経験者にでも聞いたらどう?」
「神様は? なんて言うと思う?」
「アレの判断はたぶん、そうね、狭間って空間は自分が何者かわからない人間が辿り着く場所。貴方は自分が駿河夢依だと、そして死んだことを理解している。それならそこの死神くんと同じ質問でもするんじゃないかしら? あくまで私の予想でしかないけども」
「メル、お前は死ぬ必要はないんじゃないのか?」
話を割って入ってでも伝えなきゃいけないことがあった。
「なんで」
「なんでって、別にお前、自分で選んで死にたいわけじゃないだろ」
「………………」
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