失くした日々は夢か現か。2

「うわぁぁぁぁぁぁぁあぁっっっっ」

 ガバッとオレは掛け布団と共に勢いよく起き上がった。

「あ、やっと起きた」

「ハァ、ハァ」

「なんかめっちゃうなされてたよー? 大丈夫ー?」

「え? あ、うん……」

ピピピピピピ

「あ、それうるさいから早く止めて」

「あぁ」

オレは右手を伸ばし鳴り続けていた目覚まし時計を止める。

「布団も早く片付けちゃってね、机出せないし」

「おう」

言われるがままオレは布団から抜け出し、それを押し入れにしまい、代わりに小さな机を部屋の真ん中に組み立てる。

「朝ごはん出来たよー、ってか着替えなくていいの?」

「あー、今日は遅番だから大丈夫」

時刻は午前8時の10分前、いつも朝食はこのくらいの時間だった。制服姿の女子高生がおぼんの上にご飯を乗っけてきて、それを机に乗せる。

「それじゃあ、いただきまーす」

「いただきます」

オレは箸をホカホカした黄色く四角いモノに伸ばし、それを口に運ぶ。

「うん、美味い」

「ほんとぉ? やったぁ」

隣で褒められ、ふふんと嬉しそうにしているのはオレの妹、愛歌あいかだった。

「いやほんと上達したよな! 誰にも教わっていないのに……」

「えへへー、最初の頃はいっぱい失敗しちゃったけどね」

「失敗しなきゃ学ばないだろ」

オレはその頭のふわふわした茶色いショートカットに手を伸ばし、くしゃくしゃにしてみせる。

「わっちょっと、やめてよ綺麗にしたのにー」

「大丈夫だって、そんな変わらないよ」

「もー」

愛歌は両手で細かく髪型を直す。

「それより、朝どうしたの? 本当にめっちゃうなされてたけど……」

「あー……なんか変な夢見てた? かも」

「変な夢?」

「なんだったかなー、変だったのは覚えてるけど内容は思い出せん……」

「ふふ、なにそれ。きっと思い出せないのはどうでもいいことなんだよ」

「そうだな、夢なんだし」

「そうだよ! あたしもたまに悪夢とか見たぁ。って怖くて起きるけど、起きちゃうとなんで怖かったか思い出せないもん」

「昔はよくそれで起こされたのになぁ、大きくなったもんだ」

「もう高校生だもん! さすがにお兄ちゃんにばっか頼ってられないよ! お兄ちゃん最近バイト増やして忙しそうだし……」

「あはは、いやでも本当に困ってる時は言うんだぞ?」

「はぁーい」

ふと愛歌は時計を見て慌てだす。

「ふぁっほうふぉんなひはんは!」

「食べながら喋るなよ」

「ふぁっふぇー」

「はい、お茶」

オレは愛歌にコップを渡す。

「ふぁひぃふぁほぉー」

愛歌はコップを受け取り、ゴクゴクゴクと流すように一気飲みする。そして立ち上がると鞄を持って玄関に急いだ。

「転ぶなよー」

「うん! ありがとうお兄ちゃん。片付けよろしくっ」

とバタバタ靴を履いて玄関から出ていった。

「ふ……嵐のようだな」

オレは食べ終わると食器を持って台所に片づけにいく。

ザーッと蛇口から水が流れ、使った食器を洗った。少しぼーっとしながら考える。

(本当にいい妹を持ったな。あんな親とは大違いだ)

思い返してふっと口元が緩む。そんな生活、そんな幸せな日常、それだけで充分だった。オレは妹がいてくれればいくら生活が苦しくても、親がいなくても、バイトが大変だろうともなんでも頑張れたんだ。


 あぁ、思い出した。これはオレが生きていた頃の日常だ。本当に幸せだった。愛歌がニコニコ笑ってるだけで良かったんだ。

それなのに、どうしてこんなことになるんだよ。オレ達は何も悪いことなんかしてない。むしろ普通の学生より苦労してるし、頑張って生きてたんだ。それなのに。

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