夜更けに吹く風は嘆き彷徨う。2
「ごめんなさいごめんなさい」
グズグズと泣きながら謝る少年。
「はー? わけわかんねえし」
その少年を笑いながら数人で囲んでいた。その中の一人が少年に蹴りを入れる。
「うっ」
それに合わせて他の奴らも蹴りを入れていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
少年は頭を抱えてうずくまり、ひたすら急所に当たらないよう防御することしかできないでいた。謝る声も消えるように小さくなっていく。
オレはその光景を後ろから見ているような錯覚に陥る。
(いじめ、か)
少年が受けたいくつものいじめ行為がフラッシュバックされる。オレはそれをひたすら見させられた。
そしてまた別の声が聞こえた。
「なんで僕なんだよぉ」
「なんでだよ」
「なんで」
「なんで……なんで……」
オレの目の前では少年へのいじめが繰り広げられている。けれど、オレには何もしてあげることはない。
「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」
少年から発せられていた声が大きくなって、ブクブクと大きく膨れ上がっていく。
「おわっ」
そこでオレは自分に戻った。足場が揺らぎ、バランスを崩しそうになる。
少年だったモノは大きく膨れ、巨大な黒い風船のようになった。
「ちょっでか──」
ソレから何かが吹き矢のように足元へ発射された。
「つっっ」
(攻撃された!?)
何かに掠った足から血が出ている。この程度ならすぐに治るだろうと思ったが、傷が塞がる気配がない。
「まじか」
また何かが発射される。今度はそれを避けるが、足場はグネグネしていてうまく動けない。
「やばいな……」
この事態をどうしようか考えた刹那、上から声がした。
「何してるの!」
「っメル!」
タッとオレの前に着地したのは、赤髪を揺らす死神だった。
「だからあれだけ早くしないとダメだって言ったのに……」
「ごめん」
「もう仕方ないから、君はそこで自分の身だけ守ってて」
そう言うとメルは自分の鎌を振り回し、発射される何かをも弾き飛ばしどんどんと距離を詰めていく。
「……すごいな」
フッとメルは飛び上がり、振り上げた鎌はサイズが大きくなる。
「断ち切れっ」
鎌を膨れ上がったソレに向かって振り下ろす。ギギギギギと金属が擦れる音がしたが、メルが重ねて力をいれるとソレはバンっと音をたて消えた。
オレ達はいつの間にか元の中学校へ戻っていた。足の傷は消えていたが、オレはその場に座り込んだままだった。上からなにかが降り注いでいる。
「雨?」
(違う、これは……)
「彼の
「メル……」
メルの視線の先、オレの目の前には少年の崩れた遺体があった。
「……さすがに時間のかかりすぎね」
「え」
少年の遺体の上には、虚ろな顔をした少年が立っていた。
「なっ」
「人の未練が上手く断ち切れなかったり、時間がかかりすぎるとこうなるの」
「この少年はどうなるんだ……?」
「どうもなにもこのままよ。このまま天界にも行けず、此の世では亡くなり、魂はここに残される」
「それって」
「言っちゃえば、幽霊かな。場所も場所だから彼の場合は地縛霊になりそうだけど」
メルはサラッと説明する。
「どうしようもないのか?」
「ない」
「そんなのって……」
「君が失敗したんでしょ? まぁ誰しも失敗はあるものだし、今回は報告書だけでいいわ」
「………………」
「てっきり、そんな上司ぽく言われてもとか言うのかと思ったけど」
「まぁ初めてだったんだし仕方ないか」
オレは少し出来事を理解できず放心していた。
タタタタと誰かが駆け寄ってくる。
「かずと?」
「ほら、君の主人ちゃんが迎えに来たよ」
「帰ろう?」
亞名に促され、オレはふらっと立ち上がる。
「報告書よろしくね。受け取りついでにまた連絡するわ」
「……あぁ」
「あらら」
メルはよくあることのように軽く言っていたが、死神の仕事は簡単に割り切れるものじゃない。今回の件でオレはそう思い知った。
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