第二章

亡くし屋の仕事を死神は手伝う。1

 ────

「……ちゃん、お兄ちゃん、朝だよ!ほらこんなに明るい!」

誰かがカーテンをバァッと開けた。

「…………う、やめろよ、眩し……」



 朝、この部屋は陽当たりがいいのか悪いのか顔に直射日光が指す。その眩しさでオレは起きる。

「眩し……」

目を開けることも難しい。

(なんか懐かしい夢を見てた気がする……)

「うっ」

目覚めたてのオレにしろが容赦なく飛び乗ってきた。

「おいこら……」

「ンニャーーーァ」

「飯なら亞名に……」

「しろいた」

部屋の入り口にひょっこりと顔を出したのは制服姿の亞名。

「しろ、ごはん」

「ニャッ」

「うっ」

しろはオレから降りる時も飛んだため、数キロ分の体重がのしかかった。

「…………おはよう、かずと」

「あぁ、おはよ……」

しろは今か今かと亞名の足元を彷徨いている。

「寝れた?」

「まぁ」

「そう」

「………………」

「………………」

亞名が基本的無口なのは変わらない。すぐに会話は途切れてしまう。

「……学校か?」

「うん」

「今日は何時に帰るんだ?」

「夕方……だと思う」

「そうか」

「うん」

(オレは保護者かよ)

「……ほら、しろが餌待ってるし、オレは二度寝する」

「そう」

「行ってきな」

「……うん。行ってきます」

亞名はトットットッと廊下を移動した。しろも亞名についてった。


(二度寝するとは言ったが)

昨晩のことを思い出す。

──「貴方、亞名を手伝いなさい」

見知らぬ人物に言われた指令。断る理由も特になく、メルも了承しているらしいため、次にやることは決まった。

(だけど、日中暇だよな……)

亞名は学生だ。高校生だろう。日中は仕事をすることもなく学校に行く。

対してオレは一応『死神』だ。けれど普通、他人には見えないらしいし、亞名がいない間は特に何もすることがない。困ったものだ。

(……とりあえず昼ぐらいまで寝るとして)

その後が問題。街をぶらつくにも、本当にぶらぶら歩くだけになる。生産性もない。

(となるとやっぱり……)

オレは亡くし屋を手伝うと共に、一つだけちゃんと知りたいことがある。自分のことだ。生きていた頃の自分が何一つわからないんじゃ、亞名を手伝うにしろ全てが中途半端になるような気がした。

(なにかアテがあればまだ調べようがあるんだけどな……)

現状、わかっているのは『タナカカズト』という名前だけ。平凡でそれだけで探すのは難しそうだ。

「………………」

詰んだ。が、焦る必要も特にない。いろいろ考えていたら眠くなりそのまま二度寝することにした。



「……ずとー、かずとー」

「んあ?」

「ただいま」

「おわっ」

 至近距離に亞名がいる事に驚いて跳び上がり起きた。

「寝てた?」

「え、もう夕方……?」

「うん」

「まじか……」

自分の爆睡具合に落胆する。

「……今日は仕事、あるのか?」

「ある」

「そうか……」

「今から」

「オレも行くよ」

「うん」

裏庭に向かい歩きながら、オレは疑問を投げかける。

「今日も病院なのか?」

「……うん」

「同じ病院?」

「違う」

「そうなのか」

(ということは、2か所以上もあるわけで……)

「需要があるんだな」

「……わたしは、わからない」

「……そうか」

亞名のわからないと言った声は、いつも通りただ本当にわからない。というだけのものだったが、少しだけ寂しさが混じっていたのを感じた。

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