死神の青年は亡くし屋を知る。2
亞名は玄関につくと靴だけを持ち、来た道とは逆、つまり部屋がある方とは別の廊下へ足を進めていた。オレも亞名と同じように靴のみを持ってついていく。
(こっち側は、裏庭の方面か?)
寺の造りからしてこのまま進むと玄関の裏側に出そうだった。
廊下をしばらく進むと予想通り、裏庭らしきところに出た。そこで亞名はしゃがんで靴を履く。オレも続けて履いた。亞名は黙ったまま裏庭を歩いて行く。ここは表より霧が濃かった。亞名が立ち止まる。
「!!」
視界が悪く近づくまで気付けなかったが、二人の目の前にそびえ立っていたのは巨大な裏門だった。
「おー」
オレはつい見上げて声を出した。それほどまでに大きい。
亞名は慣れた手つきでそのワンピースの右ポケットに手を突っ込み一本の鍵を取り出した。その鍵はまるでアンティークのような錆び色をしていて、大きさも門に合わせて20cmくらいだろうか、そこそこあった。
亞名はそれを鍵穴に挿し、右に回す。ガ、チャリと重たそうな音をした。亞名は鍵を抜いて一歩下がる。
すると門が、ギギギギ言いながら自ら勝手に開いた。
「…………!」
オレはその様子を息を呑み、見学していることしか出来なかった。少年心から興奮しそうな展開だが、あいにくと亞名はいつも通り淡々としているし、空気も重苦しいような感じだったから目を見開く程度で我慢した。
門が開いた先は、真っ白で何も見えなかった。亞名はそれでも先へ進んだ。オレも遅れないようについていく。
タッ……タッ……と前を行く亞名が下に下がっている様子から、また階段なのだろう。周りを見渡しても足元すら微かにしか見えない。向こうの階段より遥かに視界が悪い。オレは足を踏み外さないように必死に降りる。
「……どこまで降りるんだ?」
しばらく降りた気がした。景色も何も見えないからどのくらいかはわからなかったが、体感的に門のところから10分は経った気がしていた。
「もう着く」
「え」
いつの間にか亞名の前には一つの扉があった。回しノブに手をかける亞名。扉を引くとそこに向かって風が一気に吸い込まれていった。
「おわっ」
思わずオレは腕で顔を覆う。ビュオオオという風の音と、バタバタバタッと二人の服が激しくたなびく。
それは一瞬で過ぎ去り、しんとした空気に包まれる。オレは息をつく。
亞名はオレの方を向いて、服の裾を引っ張り、中に一緒に入るよう促した。
「あぁ」
中に入り、扉が背中でバタンッと閉まった。
そこは、どこかの施設の廊下だった。足音も響き渡るような静かな廊下。
「ここって……」
「病院」
「……だよな」
亞名は構わず歩き出す。
「あ、おい」
亞名の斜め後ろをキープしながらオレは聞いた。
「なぁ、勝手に入って平気なのか?」
「ていうか亞名の仕事って……?」
「かずと」
「はい」
「病院だからしずかにね」
「あ、はい」
(………………)
亞名に諭されたが、少し考えると、そういえばオレは生きてる人間には見えないんじゃなかったか?声だけが聞こえるとは考えにくいし。と悶々した。
亞名はある部屋の前に立ち止まった。部屋の入り口に書いてあったのは【院長室】だった。
(全然状況が理解できていないが……)
ここに来るまで途中ですれ違った看護師や医者達にも施設内の立ち入りは容認されているようだった。
だが亞名は認知されてはいるが、その人達に少し余所余所しいようなどこか避けられているかのような態度をとられているようにも思えた。
(亞名はそんなことは気にしたような素振りをしてなかったが……)
そんな亞名を見る。まさに扉をノックしようとしたところだった。コンコンと、扉を拳の裏で叩く亞名。中から「どうぞ」と声が聞こえた。
亞名は「失礼します」と扉を開き、中へ入る。
オレは他人からは見えていないらしいが、物理的に透けるわけでもないから、亞名が入った隙にサッと中へ入った。
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