第41話 フィオーレ公爵家

 さて……どうやってこの王宮から脱出して公爵家令嬢リーナ・フィオーレちゃんの実家であるフィオーレ公爵王都邸に行けるか……そいえば私は私の持っている「聖女」の能力のほかにリーナちゃんが持っているスキルが使えるって言ってた。鑑定で見れるかな?


 えーと、リーナちゃんのステータスを鑑定!



名前 リーナ・フィオーレ

種族 人(女性) 

年齢 16 体力G 魔力F

魔法 ー 

身体強化  ー

スキル 闇魔法C 水魔法C 火魔法C

   精神操作C 飛行C

   怪力C 再生C

称号 フィオーレ公爵家長女



 私にはリーナちゃんの知識の概略が転写されているからスキルの大体のところは理解できているけど、リーナちゃんが持っているスキルはかなり便利で強いかも? 特に聖女である私って攻撃力とか機動力に難があるけどリーナちゃんのスキルが使えるならかなり弱点が補えるような気がする。



「よし、早速とんずらしちゃおう」



 私は第2王子の遺体をアイテムボックスに収納する。これは第2王子が死亡していることの発見を遅らせるため。死体がなければ第2王子が死んだとはならないだろうから。マンガとかテレビドラマで得た知識です。


 第2王子の部屋を出て外に出るとそこは広いバルコニーになっていた。日没後2時間ほどは経っていて外は真っ暗だ。月も出ていないから闇に紛れるには丁度いいと思う。王宮からフィオーレ公爵邸までは1kmほどだからリーナちゃんのスキル「飛行」で移動するのに問題ないんじゃないかな。




 私は念のために周囲を見回して誰も見ていないことを確認してから軽く跳躍する。そのまま落下することなく徐々に、風船が風に流されるように空中を上昇していく。


 リーナちゃんの経験で知ってるとは言え、夜間に空中を飛行するってちょっと怖い感じがする。神様からもらった「ナビゲーション」を使って公爵邸の場所は把握済みなのでナビゲーションが示す方向に向かう。すごく便利。地図が頭の中にあって自分の位置はおろか目的地まで表示される。そのうえ空を飛べるんだから超簡単。






 5分ほどで公爵邸に着いたので玄関にスーッと着地する。ちなみに今日は暗くなってから王宮に「飛行」で飛んで行ったたらしい。だからいきなり玄関に出現しても違和感はないはず。



「あ、お嬢様、お帰りなさい。旦那様と奥様がリビングでお待ちですよ」


「ありがとう」



 声をかけてくれた使用人にお礼を言ってからリビングに向かって歩いていく。今日、王宮に行ったのは第二王子と結婚式の打ち合わせをするためだった。そんな日に第2王子だった死霊使いに殺されてゾンビにされるところだったとは。お父様とお母様にどうやって説明しようかな。

 ……お父様とお母様は気さくで穏やな良い人たちで親子の仲もいいからあんまり心配はいらないか。私がリーナちゃんに憑依している水無瀬美咲であること以外はホントのことをしゃべってしまおう。






 リビングに入るとお父様とお母さまがソファーでくつろいでいた。なんとなくお父様とお母さまを鑑定してみる。私が女神様にもらったスキルに鑑定があるけどリーナさん自身は鑑定を持っていないからいままで両親を鑑定したことはなかった。



名前 バーニー・フィオーレ

種族 人(男性) 吸血鬼

年齢 36歳 体力G  魔力D

魔法 ー 

身体強化  ー

スキル 闇魔法C 土魔法C 火魔法C 

   精神操作C 噛みつきC 飛行C 

   変身C 血液操作C

   怪力C 再生C 鑑定C 吸血鬼の種

称号 フィオーレ公爵家当主

   吸血鬼公爵の??


名前 クラーラ・フィオーレ

種族 人(女性)

年齢 35歳 体力G 魔力D

魔法 ー 

身体強化  ー

スキル 闇魔法C 水魔法C 火魔法C

   精神操作C 飛行C

   怪力C 再生C

称号 フィオーレ公爵家当主夫人


 やはりか……リーナちゃんの概略知識と女神さまのお話からすると、この世界の国の上層部は吸血鬼が牛耳っているってことは……ここエルトリア王国公爵家の当主が吸血鬼になってないわけがない。

 お父さんは人間だけど眷属吸血鬼になっている。お母さんは人間のままだね、リーナちゃんと全くおんなじスキル構成だ。親子だからかな?



「お父様、お母様、ただいま帰りました」


「ああおかえり、リーナ。あれ? リーナ? 今日は第二王子と会うんじゃなかったのかい?」 


「会いましたよ。そのことでお話があるのです」


「そうか。君にも言ってある通りこの国の男性王族は皆吸血鬼でね。国王陛下をはじめ王子たちも吸血鬼だからね。

公爵家当主である私は国王陛下の眷属吸血鬼だし、リーナは吸血鬼である第二王子と結婚するから今日に婚約者の第二王子の眷属吸血鬼にしてもらうはずだったのに。何か問題でもあったのかな? なぜか今日は眷属吸血鬼にならなかったようだね」



 へええ、そういうことだったのかあ……リーナちゃんの知識には眷属吸血鬼になることについてのものはあったけど、私も急にはすべての知識を把握しきれなかったんだ……なるほどね。

 そして、鑑定でも一部見えなかった「吸血鬼公爵の??」というのは「吸血鬼公爵の眷属」ってことか。国王陛下は「吸血鬼公爵」なんだね?



「ええ、そのことは知っていました。ただし今日に第二王子の眷属吸血鬼化をしなかったのは第二王子だったものが私を殺してゾンビにしようとしたからです。私は殺されてゾンビにされたくはなかったので元第2王子だったものは私が倒しましたよ?」


「リーナちゃん? 元第二王子だったものって?」


「第二王子は殺されてゾンビにされて死霊使いになっていたのです。見るからに醜いゾンビだったのに倒した後には第二王子の姿に戻ってしまいました」



「なんと……それは本当か! ……『死霊使い』とは『死霊魔術師』のことだな…… ついにこのエルトリア王国にまで死霊魔術師が。 とうとうか……第二王子が死霊魔術師に、ということは国王陛下も既に……」


「お父様は死霊使いをご存じだったのですか?」





 お父様は「死霊魔術師」のことについて語してくれた。女神様が言ってなかったことでは、死霊魔術師がこの大陸中央部の高原地域から出現してきたこと。非常にゆっくりとだけど確実にこの世界を侵食していること。



「それでね、私が死霊魔術師の第二王子からの攻撃を躱して王宮を脱出できたのは女神さまの助けがあったからなのよ」



 私は女神様の事を話した。私が地球の女子高校生の水無瀬美咲であることは隠した。お父様は私を鑑定したけど水無瀬美咲のステータスは見えないようだったし。





「そうか。女神様が『聖女スキル』をくださって、お前にゲートを目指せとおっしゃったか。ではそのようにしなければならないね」


「お父様は私が言った事を信じてくれる?」


「もちろんだとも。でもいちおう聖女の力を見せてくれないかい?」


「うん分かった」



 私は光魔法「光生成」と神聖魔法「ホーリーライト」そして「アイテムボックス」に物体を出し入れして見せた。アイテムボックスは体育館一棟分の容量はあるんじゃないかな。時間停止機能付き。物凄く便利だ。



「アイテムボックス……そんな便利なスキルがあって容量がそんなにあるならゲートへの旅も随分と楽になるね……

だけどお父さんは国王陛下の眷属吸血鬼になっていて勝手に国外に行くことが出来ないし国王陛下の命令に逆らうことも出来ない。だから公爵家騎士団を100名規模で護衛として同行させるよ」


 私は少し考えてみる……私は聖女のスキルの他にリーナちゃんのスキルが使えるしアイテムボックスもある。聖女の神聖魔法には「結界」というのがあって悪意ある者の接近を阻止することもできる。これなら下手に同行者がいると足手まといになるのではないだろうか?

 そもそも第二王子殺害の容疑者として手配される可能性がある私は勝手に出奔して行方不明になった方が良いような気もするし。

 という訳で私は一人旅でもなんとでもなりそうだけど、それよりも私がゲートに向けて旅立ってしまったら私の家族を死霊使いからどうやって守ったらいいんだろうか? 女神さまが言ったように私が居れば聖女の「神聖魔法」を使って死霊使いに負けることはないと思うけど……



「お父様、私には女神さまから頂いた聖女スキル『神聖魔法』があるから一人でも大丈夫だよ。それよりも私はお父様やお母様が心配だよ。私が第二王子を殺害した犯人にされてしまったら処罰されるんじゃないの?

そうなると第二王子殺害の容疑者として手配される可能性がある私は勝手に出奔して行方不明になった方が良いと思う。そうすればお父様は何も知らない、分からないということで逆に国王陛下に対しては娘が第二王子に会いに行ってから行方不明だって訴えることも出来るのでしょう?」


「……そうだね、その方が良いかもしれない。リーナが女神さまから頂いた聖女スキルを使えば一人旅でも大丈夫なのか……ならリーナは今日の夕方に王宮に行ったきり帰ってこない、行方不明ということにしたほうがいいのかな?」


「そうしてくださいお父様。それからこれをお母様に預けるよ。これを使えば万が一、死霊使いどもに攻め込まれても撃退することが出来るかもしれないから……」



 私はアイテムボックスに入っている一本の杖を取り出した。


 アスクレピオスの杖。あの女神さまが聖女専用アイテムとして私にくれた神器だ。この杖を使うと私の神聖魔法が著しく強化される。

 例えばこの杖が無い状態だとレベル5神聖魔法が聖女の職業ボーナスでレベル6相当になる私がこの杖を持てば更にレベル7相当の威力に強化されるというチート装備らしい。

 更にこの杖には誰が持っていても魔力さえあれば「神聖魔法レベル5」までは使えるというチート能力がある。私がこの杖なしで使う神聖魔法よりも威力はワンランク落ちるけど十分に強いと思う。お父様が言うには、死霊使いってほぼ不死身でどうやっても殺せないらしいけど「神聖魔法」なら一撃だしね。

 私が杖なしでホーリーライトで第二王子だった死霊使いを討伐したときより威力が弱いけどお母様でも「神聖魔法ホーリーライト」が使えるのだ。


 私が地球に行っている間、家族を守護するにはこの方法しかない。その代わりに私の発動する神聖魔法は威力は弱まるけど元々聖女で職業ボーナスによって神聖魔法の威力が強化されているから地球に行く程度なら問題ないと思う。だって地球に魔法を使える人なんていなかったしね。


 ゲートまでの道中が危険かもしれないけど第二王子だった死霊使いをアスクレピオスの杖なしのホーリーライト一発で討伐したんだから多分大丈夫だと思う。何よりも家族が心配だし。今まさに私が憑依しているリーナちゃんが喜んでいる感情が伝わってきているし。リーナちゃん、これなら安心できるかな?


 結局は公爵邸にある食糧や食材、道具類で使えるものを片っ端からアイテムボックスに突っ込んで今日の深夜に私一人だけでゲートに向けて出発することにした。


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