第15話 大きな収穫
合宿二日目の朝が来た。
前日の戦闘訓練、その後の反省会議、たった一日で私たちは随分と打ち解けていた。
「おはよう!」
私は元気よく声をかけた。
が……
「あぁ……」
キリさんには軽く流された。
(相変わらずだよ~、前言撤回!)
「おはよう、ハナさん、キリ君」
マキシ班長が起きてきた。
後ろにはいつものようにくっついてアニィちゃんもいる。
「ぉぉ、おはようございます!」
一番遅れてくるのも、もはやいつも通りだろうか、ラズさんが起きてきた。
「皆、おはよう!」
改めて笑顔で挨拶をした私。
マキシ班長が皆を近くに座らせて、話始めた……。
「昨日の戦闘訓練で思うところは各々あると思うけど、二日目だね」
マキシ班長は、とても深い優しさを秘めた笑顔を浮かべる。
きっと、悲しい想いを沢山重ねてきたから出る、哀愁なのだろう……。
(だと思う……)
「しおりによると、サバイバル訓練ですね……」
おもむろにしおりを開いたラズ……。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
私は思わず叫んでしまった。
”しおりによると……”だって?
そうか、そうなのだ。しおりによれば初日は
”野外における食料の確保と食事の方法について”とある。
「全然、しおりに沿った進行してないじゃないですか、班長さん!」
朝から大声出しちゃった……。
「バレたか、アハハ……」
苦笑いを浮かべるマキシ班長。
(笑って誤魔化すな~)
「ごめんごめん、しおりはギルドが発行している物で、僕はアンチでね」
(怖い人だ……)
「何が狙いだ……」
キリさんがやっと口を開く。
「んん~……何ってもんじゃないだけどね……」
考え込むような顔を浮かべる班長。
「僕は君達の班長をやることが決まってから、君達を調べさせてもらった、
どこの出身か、これまで何をしてきたか……とかね」
「出身……」
急に青ざめた顔になるラズ……
「とは言っても、所詮旅商人さ、大した情報が集まったわけじゃないよ、
例えば、ラズ君は貴族の末裔の出身、キリ君はスラム街だったね、
ハナさんは西区でお婆さんと二人暮らし、アニィはキャラバンの拾い子だ」
(絶妙に濁してるけど……本当はもっと調べてあるよね……この人)
「……経験についても……?」
出身について濁されたとはいえ、不安を隠せないラズが問いただす。
「まぁ……それなりに、かな。ギルドの仮免許を受けてからの物には目を通したよ、
そこまでの経験なら、ね……」
申し訳なさそうに答える班長……。
「知っていて、なぜ最初に戦闘経験があるのか聞いたんだ?」
キリさんの質問はいつも鋭い……。
「それは簡単だよ、”嘘をつかないか”見極めたのさ」
ニヤリと笑って見せる班長、この時、ハナは直感した、そして、
そして、ハナは笑ってしまった。
「アハ……アハハハハハハハハハ!」
私は腹を抱えて笑い出してしまった。
どこまでかは別としても、私たちを調べていて、
ギルドに通じてて経験も知ってる、
それでもなお、細かい質問をしたり、
しおりに逆らって、急な戦闘訓練までやっちゃう。
こんなの、こんなの思わず笑っちゃう。
やってる事が、子供のいたずらだから。
それも敢えて演じてるんだろうし、器が違いすぎて笑うしかない。
悪者を演じてる姿が、大人なんだろうな……
「どう……したの?ハナ……」
突然笑い出した私を心配そうに見るアニィ。
(アニィちゃんが名前で呼んでくれた! 一番の大収穫かも!!)
私の大笑いで朝礼はほどほどで解散、サバイバル訓練に移ることになった。
どうにか二日目も順調に進みそうである。
続く。
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