最強の魔法一族を勘当された落ちこぼれ、ループコンボで最強に。威力は低いがダメージが1でも入れば余裕で削り切ります。コンボ中に謝っても『もう遅い』【無限の魔術師】

序章：平凡な魔術師

第1話 名門一家の落ちこぼれ勘当される。

「キリア。お前のような無能はこのアルファルド家に必要ない。出て行け」

「え……」

　青天の霹靂（へきれき）だった。

　久しぶりに聞いた父親の声は、いつものように褪（あ）せていて俺に対する興味を完全に失っていた。俺はそれでも縋（すが）るように、呆（ほう）けた声を出したが親父は関係ないと言うように一笑に付（ふ）した。

「代々大陸最強の魔法使いを輩出（はいしゅつ）してきた我が一族に、お前のようなカスがいたと認めることは耐えがたい屈辱だった」

「確かに俺は親父やミアには及ばないけど、なんとか追いつこうと思って毎日勉強と試行錯誤を――」

「――黙れ」

　親父に気圧（けお）されて俺は黙った。

「お前がアイツの才能を引き継いでいたと知った時は――心底喜んだものだが、何もかもを半端に修めることしかできないとは」

「……」

　ショックだった。

　親父にそんなことを言われたこと。親父が母さんのことをアイツと呼んでいること。両方が。

　母さんは俺とミアが幼い頃に亡くなった。優しくて、こんな俺でも愛してくれた。そんな母さんが大好きだったが、親父は特に気にかけている様子もなかった。

　親父にとって、大切なのはより強力な次（・）世（・）代（・）を生み出すことで。家族の愛情だとか、そんなものは微塵（みじん）も求めていないらしい。

　だから、母さんも親父にとっては体の良い強化パーツでしかなく。

　その才能を歪に受け継いでしまった俺なんて、ゴミも良い所らしかった。

　全ての魔法系統に対する適正を持つ。

　それが、俺の特殊な才能。生まれついて与えられたもの。

　どれだけ優れた魔法使いでも系統に対する適正なんて5つが限度の中、俺にその限度はない。大陸の歴史上そんな素養が確認されたのは両手の指で収まるほど。

　そして、その誰もが魔法王や大魔導師、原初の魔など大層な二つ名を戴いたらしい。

　ただし当然代償もあった。それはあらゆる魔法系統を極められない……という呪い。もちろん、歴史に名を残した偉人たちの適正にはそんなデメリットはない。……母さんにも。

　だから俺は一層疎まれた。

　ほとんど完璧な妹に、たった一つ必要な才能を分けてやれなかったゴミ。それがキリアという人間の評価だった。

「どうして」

　俺が必要のない存在なのは自覚していた。

　親父とミアは本邸に住んでいるのに、俺は別邸で一人ぼっち。親父は俺の顔を見る度に苛立っていた。最初こそ暴力があったが、次第にそれもなくなって――ただ色褪せただけだった。

　でも。

　それでも俺は悲しかった。

　切りがたい縁が、そこにはあった。

「俺は俺なりに頑張ったんだ親父。今すぐは無理でもいつか、アルファルド家の末席に加わるくらいは」

　俺には時間だけがあった。

　貴族としての立ち振る舞い、魔法の基礎、様々な帝王学。それらを仕込まれ続けたミアと違って最初から見放された俺には、時間はあった。時間しかなかった。

　俺と同じ、全ての魔法系統に適正を持った母が残した書物を読みあさった。そして、自分で実践もした。

　最初こそ見よう見まねだったが、形になってきたと自分でも思っている。もっと時間さえあれば、家督を継ぐことは無理でもアルファルド家の一員として恥ずかしくない程度にはなれる。

　そう確信していた。

　だから俺は、それに縋った。

　ぼろ切れのような望みに。

「兄様、素直に受け入れくださいませんか？　いくら出来損ないの兄様だとしても……いえ、もう兄様ですらないのでしたっけ？」

　俺の背後から芯の通った声が聞こえてきた。かつん、かつんと靴の音を響かせて――ミアが俺の隣に立つ。

　母さん譲りの銀色の嫋やかな髪がふわりと舞った。

「もう、覆らないのか？」

「……父上に変わって、私が告げましょう。キリア・フォン・アルファルド。貴方は我が一族の恥です。清く失せなさい。さもなくば、私がここで消し炭に変えて差し上げましょう」

　そういって、人差し指を突きつけるミア。

　指先に火が宿った。悪寒が走る。

　ミアは生まれながらにして、規格外の魔力を体内にため込んでいた。彼女が俺をこの場で消し炭に変えることは、指一本で十分なのだ。

　そして、ミアは本気だった。

　もし俺が無駄な問答を重ねれば、容赦なく烈火が俺を襲うだろう。だから、俺は下唇を噛んで、拳を握り絞めて、首を縦に振ることしかできなかった。

「キリア・フォン・アルファルドは死んだ。お前は今からメイムだ」

「……」

「荷物をまとめろ。服と、私物くらいは持っていけ」

「……」

「不服か？　本来ならばお前はもう死んでいた筈なのだ。ミアに反対されて考えを改めたが」

「兄様の穢らわしい血で汚れるくらいなら、どこぞで野垂れ死ぬ方がいいでしょう？」

　目の前で繰り広げられるのは、血の繋がった家族に向けられたとは思えない会話。

　俺は一刻も早くここから抜け出したかった。振り返って、最後の会話なんて交わさず俺は退室した。

　家も、家族も、居場所も、名前も。何もかもを失った俺は、ただ居心地の悪いここから逃げ出すことしかできない。

◆

　この物語は、後に『無限の魔術師』と呼ばれる一人の男の物語。

　そして彼が失ったものを取り戻す戦い。

　落ちこぼれの成り上がりだ。