第五話 俺の幼馴染がこんなに可愛いわけがない
「おっはよー花、朝だよ!朝だよね?やっぱり朝だよ!起きてーー」
高校入学から1ヶ月程度が経った朝。
俺の顔面へ鋭いチョップが元気のいい掛け声と共に何度も振り下ろされていた。
「…おはよう楽。今日の朝は部活に行かなくて良いのか?」
「部活はね、昨日ね、やめた」
「…そっか、やめちゃったか」
俺の顔面にチョップを振り下ろしていた人物の名前は楽。
綺麗な赤毛に女の子としては大きめの身長。笑うと見える八重歯と、性格と同じようにそこら中へ跳ね回るアホ毛がチャームポイントの俗にいう俺の幼馴染だ。
「とりあえずちゃっちゃと制服に着替えるから部屋から出ていってくれ」
「りょ!」
楽が元気よく部屋から出ていく。
俺はそれを確認すると、愛おしい布団から這い出し制服へと着替えた。
着替え終えた俺が眠い目を擦りながら居間へ向かうと、そこには小動物を撫でるように妹の桜をもみくちゃにしている楽の姿があった。
「ら、楽ねぇ。今ご飯食べてるからやめてー」
「はぁん。本当に桜ちゃんはかわうぃなぁ。持って帰ってあたしの妹にしたいぐらい」
「ちょうどいい。最近反抗期を迎えて生意気になってきたから、持って帰ってくれていいぞ。餌はス〇バのチョコラテを与えてくれ」
「本当!やったー、桜ちゃんは今日からあたしの妹だー」
再度妹が楽によってもみくちゃにされる。
何故か鋭い殺気を楽の下あたりから感じるが、気のせいだろう。
俺は机にあったパンを一つ咥えると、妹から楽を引き剥がし学校へと向かった。
学校へ向かう道すがら、道をジグザグと子供のように歩いていた楽がこちらを振り向き、学校のことを聞いてきた。
「ねぇねぇ花。学校楽しい?あたしは普通」
「自己紹介でミスったけど、みんな気の良い奴らで楽しいよ。ちょっと変わった奴らが多いがな」
「いーなー、それなら暇しなくて楽しそう。あたしのとこはみんな優しいけど、普通だからちょっと飽きてきた」
「まだ入学して1ヶ月程度だろうが。そのすぐに飽きる性格なんとかしろよ」
「えへへ」
楽は照れ臭そうに八重歯をのぞかせ笑う。
実は彼女、運動神経も学力も容姿も人並み以上に持っている天才少女なのだが、とても飽きっぽい性格なのである。そのため物事が全く長続きしないのだ。
部活もこの短期間に4つも辞めている。あ、昨日また辞めたから5つか。
「それでね。今は別の部活に所属してるの。その名も魔法少女開発部!ね?面白そうでしょ?」
「……活動内容を聞いてもいいか?」
「えへへ、秘密!なんか秘密を漏らしたら、闇の処刑人が来るんだって」
「高校の部活にしては恐ろしい制約だな」
「うん、それでこの前秘密を漏らした斎藤さんが行方不明なんだ!」
「やめちまえ、そんな恐ろしい部活」
そんなたわいもない会話を何個かしていると、別れ道へと差し掛かった。
右へ行くと俺の通う花団高校、そして左へ行くと楽の通う
「それじゃあ俺こっちだから。いってらっしゃい」
「うん。花もいってらっしゃーいしゃいしゃい!」
俺は手を大きく振り楽と別れる。
本当だったらこのまま一緒に学校へ行けていたのだが……まあ仕方ない。
俺は過去を少しだけ悔いつつ、学校への道を歩き出した。
……そういえば、昨日読んだエロ漫画に幼馴染と恋をするものがあったな。
確かに幼馴染というのは、付き合いも長い上に気心の知れた仲だ。もしそれが男女の中ならば、付き合ってしまうのも無理はない。
だがよく考えて欲しい。
10数年一緒の幼馴染というのは、血の繋がりは無いものの、ほぼ家族と言っても過言ではない存在だ。
そんな家族同然の存在に、愛の告白などできるだろうか?
「……俺は無理だなぁ」
確かに楽のことは大好きだ。愛している。
だがそれは当然家族に対する好きであり、異性に対する好きでは無い。
それはきっと彼女も同じだ。
仮に俺が楽に好きだと伝えたところで、向こうも「あたしも花のこと好きー!」と軽く返してくるだけだろう。
それは家族愛への返事であり、告白に対する返事ではない。
だがまあ、家族に好きだと言われる事は幸せと言うほかない。自分のありのままを知った上で、それが好きだと言ってくれるのだから。
そう、俺は幸せだ。可愛い幼馴染を愛し、そして俺を愛してくれているのだから。
……だが、しかし、なぜだろう。
そんな両思いの幼馴染同士という状態を煩わしく感じてしまうのは。
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