第34ワ 魔王の決意。
一目散に街の外れまで向かった魔王であったが、目の前で繰り広げられている光景を目にすると、馬を引き返し別の方向へ向かって行った。
わざわざ大群の方に向かって引き返したこの行動は、傍から見れば意味の分からない行為であるが、この行動には魔王の心情が隠れていた。
しかし、目の前の光景を見て別のルートに切り替えたと言う訳だ。
口や態度ではあまり気にかけていないように振る舞っていたが、心の中では自分の城のことが気掛かりだったのである。
「クロスよ、どこへ向かっている?」
「…………」
「答えたくないのなら構わないが、どこへ向かおうとこの街から脱出するのは不可能だぞ」
ヴァイアスにそう言われ、一度止まり振り返った魔王は、自分の顔を見て不気味な表情で嗤うバドラを睨む。
「なんだと? どういう事だ?」
「クハハハ、焦るな。すぐに分かる」
不気味な声でそう言ったバドラを睨むと辺りを見回す魔王。
暫く馬を走らせ、騒ぎから遠ざかたためか、辺りは遠くから聞こえる人々の悲鳴や叫び声が微かに聞こえるのみで、不気味なほど静まり返っていた。
そんな様子を見るとバドラ(ヴァイアス)は静寂を破り口を開いた。
「目の前で危機を見せれば、殆どの者が反対方向に逃げて行く。お前は少し違う方向に向かったが同じこと」
「…何が言いたい?」
「逃げ道というのはあえて空けておく物なんだよ」
ヴァイアスがそう言うと、地面が揺れだす。
「クロスよ、お前の城を襲ったとき
グラグラと揺れ出した地面。魔王は目の前に広がる閑散とした街の通りに目を向ける。
地面の土が盛り上がると、そこから沢山の腕や頭が突き出てくる。
「クソ!」
「もう分かっただろ、逃げ場は無い。お前に残された選択肢は早く埋葬場所を話すか、ここで目の前の奴らの仲間になるかの二択しか無いのだ」
魔王は馬を走らせ、街の中心部まで戻った。
辺りは各方から逃げてきた人々で溢れかえり、周りからは絶望する声や泣き声など様々な声が聞こえる。
『ああ、もう俺らはここで死ぬんだ!』
『そっちはどうだった?』
『こっちもダメだ』
『うえーん、お母さーん!』
馬から降りた魔王は力なく地面に腰を下ろす。
「クロス、絶望するのは勝手だが言わなかったか? 素直に話せばお前には危害は加えないと」
「…………」
魔王は立ち上がると、馬をその場に残し歩き出した。
悲嘆が渦巻く中、人々を掻き分け歩みを進めていた魔王は、一つ宿屋を見つけると立ち止まり中に入る。
宿の中は
「こんな所に来て何をするつもりだ?」
「ヴァイアス、お前は今バドラを操っているのだろ?」
「ああ、そうだ。何を今更」
魔王は近くにイスを見つけると腰を下ろした。
「そうか、では何故バドラと同じように我を操らない? そうすればさっさと貴様の目的が果たせると思わないか?」
「………」
「それに一番気になる事は、我に埋葬場所をしつこく訊いてくる事だ」
「それは当たり前だろ。お前しか埋葬場所を知らないのだから」
魔王は少し笑みを見せる。
「何が可笑しい?」
「違うな、貴様は我の城を攻めていると言った。ならば城を支配した後、好きなだけ探ればいい。だが貴様はしつこく我から聞き出そうとする」
「……それがどうした」
「つまり、我から聞き出さなければならない理由があると言う事だ。例えば城の抵抗が激しくなかなか陥落しないとかな」
イスに座る魔王は足を組み笑みを見せ続ける。
「城の者全てを操れば、わざわざアンデットの大群を仕向ける必要も無いはずだがな」
「……それを知ったところで、お前に何が出来る? お前がこうしている間にも城を攻めているのは事実だ。お前が言っているように陥落した後探れば、お前を生かしておく必要も無くなるのだぞ?」
「フハハ、それを聞いて安心した。どうやら城攻めは相当手こずっているみたいだな」
そう嗤うと魔王は立ち上がり、少ない魔力ながら自分に身体強化の魔法をかけ、バドラに近づく。
「なんだ?」
「バドラには悪いが大人しくしていて貰おう」
そう呟くと、バドラ腕を掴み無理やりイスに座らせる。
「な、何をする! 離せ!」
「うるさい、大人しくしていろ」
魔王は近くに落ちている布切れを見つけると、バドラの身体をイスに縛り付け拘束した。
「決めたぞ、我は必ずこの危機から脱し、城に帰る」
「クソ、お前は殺さず配下にしてやろうと思っていたが、決めたぞお前もアンデットにしてやる!」
「うるさい口だな」
そう言うとジタバタと暴れるバドラの口を布で塞ぐ魔王。
「ンッ!ンーッ!」
「悪いが、バドラ暫く耐えてくれ。ヴァイアスを倒したら必ず戻る」
魔王を睨む、バドラ(ヴァイアス)。
「ヴァイアスよ、必ずお前の居所を突き止め、我が制裁を加える。それまでせめて自分の愚かな行いを悔むがいい」
そう吐き捨てると魔王は宿を後にした。
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