第30話
エルフの谷では、ブルーノがレーンに別れを告げていた。
「それでは、ありがとうございました。レーンさん」
「いいえ。それを使うかは、よく考えて判断してくださいね」
ブルーノはケンタウロスの血が入った鞄を見つめた後、返事をした。
「はい。……それと、この件はアリスさんには秘密にして下さい」
「……貴方がそう望むのなら……分かりました。それでは道中お気を付けて」
レーンがそう言うと、ブルーノはエルフの谷を出た。
そして馬車に戻るとエルバの街に行くよう御者に頼んだ。
馬車は何もない草原を駆け抜けていく。
しばらく走ったところで、歩いている一人の少女とすれ違った。
「……あれは……アリスさん?」
ブルーノは馬車を止めてもらうと、そこから降りて少女に声をかけた。
「アリスさん、こんなところを一人で歩いているなんて危険ですよ?」
「まあ、ブルーノ様こそ、こんなところでどうされたのですか?」
「少し、用事があって北の方の様子を見に行っていたんです」
「そうですか。私はレーンさんに相談があって、エルフの谷に向かっているんです」
ブルーノの表情が少しこわばった。
「それでは、エルフの谷に向かって貰いましょうか」
ブルーノが御者に言うと、返答は思いがけない物だった。
「え? つい先ほどまでいたじゃありませんか。それに、もう私は城に帰らなくては行けません」
「そうか……では、私はここで馬車を降りよう。アリスさん、エルフの谷まで一緒に行きましょう」
ブルーノは馬車を降りると、従者に王子によろしく伝えるよう言った。
従者は首都に続く道を、誰も乗っていない馬車で駆けて行った。
「いいのですか? ブルーノ様?」
「ええ、アリスさん一人では……危険も多いでしょうから」
「……ありがとうございます。正直な気持ちを言うと、心細かったのでとても嬉しいです」
アリスとブルーノは、エルフの谷に向かった。
エルフの谷に付くと、今回はレーンが出迎えた。
「おや? 何か忘れ物でも? ……ブルーノさん? おや、アリスさんとご一緒ですか?」
「ええ。道で出会いました。ブルーノ様がここまで送ってくれたのですが、忘れ物というのはどういうことですか?」
「……いえ、私の勘違いです」
目で訴えているブルーノの様子を見て、レーンは言葉を濁した。
「ところでアリスさんは、何かご用でしょうか?」
「はい、フォーコのことについて教えて頂きたいと思いまして」
アリスはレーンに言った。
「フォーコを燃やし尽くしたはずなのですが、どうしても不安が残ってしまって」
レーンはため息をついた。
「フォーコは不死の魔女です。灰になっても、時間が経てばよみがえります」
「そうでしたか……」
アリスは俯いた。
「ですが、フォーコを封じる手段ならあります。水晶の洞窟の奥に住むドラゴンが守る、水晶の涙という魔石にフォーコを封じ込めば、魔石が壊されない限り、魔女は身動きが取れなくなります」
「そうなんですか!?」
アリスはその話を聞いて、身を乗り出した。
「フォーコは殺戮を楽しむ残酷な魔女です。復活したなら、早く封印しないと……」
ブルーノは鞄に手を当てて、眉間に皺を寄せた。
「アリスさんの魔力が強くても、水晶の涙を手に入れるのは一人では苦戦すると思います」
レーンの言葉を聞いて、ブルーノは覚悟を決めた。
「行きましょう、アリスさん。水晶の涙を手に入れましょう」
「……ブルーノ様?」
「……私は、人が殺されるのを見たくないのです」
「そうですね。私もです」
レーンはアリス達の話を聞いて、地図を取り出した。
「水晶の涙は、先日ウォーウルフ達が現れた洞窟の最深部にあります。そこにいるドラゴンはとても強いです。どうか、お気を付けて」
「はい、ありがとうございます。レーン様」
「ありがとう、レーンさん」
アリスとブルーノは、レーンから地図を受け取り水晶の涙を手に入れるため洞窟に向かった。
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