第28話

 エルバの町まで、王子が馬車を出してくれた。

 アリスとブルーノはそれに乗り、町に帰っていった。

「アリスさん、フォーコを倒したときの記憶はありますか?」

「……いいえ。ブルーノ様が大けがをされた時から後の記憶は……途切れています」

 ブルーノは渋い顔をしてから微笑んだ。

「そうですか」


 浮かないブルーノの表情を見て、アリスは不安になった。

「あの、私、何かしたんですか?」

「私の怪我を見た後、大変感情を高ぶらせて、強大な魔法をかけてフォーコを燃やし尽くしたんですよ。アリスさんの瞳が、光っていて……ちょっと怖かったかな……」

 ブルーノは笑って言ったが、その目はやはり暗い色に沈んでいた。

 アリスは言葉を無くし、馬車から窓の外を眺めた。


 しばらくしてアリスはブルーノに訊ねた。

「私のことが怖くなりましたか? ブルーノ様」

「いいえ……いや、少し怖かったですね」

 ブルーノはため息をついた。

「私がもっと強ければ、アリスさんが力を暴走させることも無かったのでしょうが……」

「……暴走……」

 アリスはその言葉を聞いて、目を伏せた。


 馬車がエルバの町についたのは夜になってからだった。

「アリスさん、お腹が空いたでしょう? なにか一緒に食べませんか?」

「……ブルーノ様……」

 アリスは記憶にない、フォーコを倒した自分の姿を想像して首を横に振った。

「私は……やはり恐ろしい魔女なのですね……」

 ブルーノはそっとアリスを抱きしめた。


「いいえ、アリスさんは……優しい人です。今回は、フォーコの力がアリスさんを暴走状態にしたのでしょう」

 ブルーノは、震えているアリスが落ち着くまで、アリスに回した手を緩めなかった。

「ブルーノ様、もう、大丈夫です」

 アリスは赤面して、ブルーノの手をそっと外した。

「そうですね……もう終わったことですし、食事に致しましょう」


 ブルーノはそう言って、アリスの手を引いて町の中心へ向かった。

「それじゃ、エルバの町で一番の料理店に行きましょう」

「……楽しみです」

 二人はレストランに入って食事をしたが、フォーコのことには触れなかった。

 食事を終えると、ブルーノは城に戻って行った。

 アリスは一人、森の家に戻った。


 寝る準備をして、ベッドに入ったアリスだったが、目をつむるとブルーノの傷ついた姿が浮かんできた。

「ブルーノ様……無事で良かった……でも、なんでしょう? なんだか嫌な予感がします」 アリスは疲れた体の重さを感じながら、眠りについた。

 夢の中で、フォーコがアリスに言った。

「お前も所詮魔女なんだよ! 幸せになろうなんて、図々しい!!」

 アリスは悲鳴を上げそうになったが、声は出なかった。


 飛び起きると、体中にべったりと嫌な汗をかいている。

「フォーコ……本当に私があの魔女を倒したのかしら……」

 アリスはまだ明け切らない暗い空を窓から眺めた。

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